30-3 おれの失敗、または、五ツ星昇格記念ショーバトルのときのこと
2020.07.20
誤字修正いたしました。
パワー減→パワー源
――炎をくぐったイツカの胸元、真っ赤に染まった魔晶石が砕け散る――
その時の記憶はあんまりなかった。
しかし、いざ作業台のまえに立てば、まざまざとよみがえってきた。
おれがむりやりに閉じ込めていた、この光景が。
そしてその時に感じた、衝撃が。
先週金曜のショーバトル。
おれたちのまえに立ちはだかるのは、真っ赤な巨体に、長い首、太い四つ足。頭の所在は地上5mに達しようかという、そろそろレッサー卒業サイズのフレイムレッサードラゴン。
力を溜め、背中の竜翼を広げれば、その周囲にスイカほどの炎弾が無数に現れる。
燃える礫は咆哮とともに、バラバラとこちらに飛んできた。
イツカはかわし、しのぎ、あるいは払って距離を詰めていく。
最後にひときわ大きな炎弾に自ら突っ込み、そのまま駆け抜け右前脚を狩ろうとした。
そのときだ。これが、起きたのは。
そのときのおれは我ながらすごかったと思う。
ボーゼンとしながらも、イツカの声を聴き分け。ボーゼンとしながらも、正確に『斥力のオーブ』二発を撃ちだし。ボーゼンとしながらも、イツカに声をかけ。
全部、正確無比にこなしていたのだ。
動画の中のおれは、動揺をひとつも出さないままだった。
実況は『おれの作ったお守りが、イツカの身代わりになって勝利を呼んだ』と絶賛していた。
膝から崩れかけたおれを、駆け戻ったイツカが抱いて支えれば、場内は割れんばかりの歓声に揺れた。
しかしおれにはどれもこれも、ぜんぜん聴こえていなかった。
ああ、おれの力作が。三日三晩かけて精錬した『深淵の魔晶石』がこんなことで。設計ミスだ。すぐ直さなきゃ。魔力回路を炎弾のパワーが逆流、結晶に集中し破壊してしまったのだ。まずは、う回路を作り、そこに魔力吸収用のカラ結しょ……
「カーナタ! スマイルスマイル!」
そのとき、イツカの声が聞こえた。
それだけは、不思議と聞こえた。
おれは一つ深呼吸し、気持ちを切り替える。
支えてくれる腕を頼りに体勢を立て直し、晴れやかな笑顔で手を振った。
おれはあのとき、強引に気持ちを切り替えた。動揺とその源を押し込めた。
そうだ、いまは勝利者として、五ツ星としての笑顔を。仮メンテはチームで引き受けてもらっているから、まずは仮眠してごはんたべて試験勉強の――
だから、その時の記憶はあんまりなかった。
しかし、いざ作業台のまえに立てば、まざまざとよみがえってきた。
おれの失敗。そして、挽回のためにやるべきことも。
* * * * *
さきの海合宿の直後。おれは、イツカとおれの防具に『ある機構』を組み込んでいた。
その名も『きせかえ強化機構』。
ざっくり言うと、ブローチの石をつけ替えることで、防具の属性チェンジができるようにするしくみ。
防具にミスリル糸を織り込み、その糸につながったブローチに魔力結晶をセットすると、結晶からひきだされたパワーが防具全体に広がって、強化をしてくれるのだ。
ぱっと見は、子供向けアニメっぽい感じもするが……
いいとこづくめのこれは、全冒険者のあこがれといっていいものだ。
結晶を付け替えることで属性を変えられ、付け外しにより強化をオンオフでき、結晶を再利用することができるというのは、実際きわめて有用なのだ。
魔法や護符、ポーションによる強化は、用済みとなっても効果が切れるのを待つか、破棄しかない。つまり『まるごと使い捨て』なのだ。それとくらべれば、その経済性はけた違い。
さらにはインベントリも圧迫しない。パワー減となる結晶は、モンスタードロップなどやアイテム店で、割とたやすく入手できる。
これや、これを組み込んだ防具はもちろん市販されている。が、すっごく高い。なにより手入れが自力でできないようになっている。いつか自作したい、夢のシステムだったのだ。
それゆえ先週、これを組み込んだアーマーと服を装備したとき、イツカとおれは子供のように大はしゃぎしたものだった。
しかしその喜びもつかの間。エキシビションバトルでまさかの弱点が露呈した。
レッサードラゴンの炎弾をもらったイツカの胸元、機構全体にパワーを供給する結晶が、バリンと砕け散ったのだ。
どうしてなのか。あまりに強い属性攻撃を受けると、アーマー全体に這わせたミスリル糸の魔力経路を伝い、結晶に力が逆流・集中。最終的には破壊してしまうのだ。
黄金龍とのバトルでは、『ハイパー・ムーンサルト・バスター』のパワーが展開し、イツカを守っていたが今回は、それなしでモロにくらった。そのため、ああなったというわけだ。
結晶が身代わりになってくれて、イツカが無事ですんだ、と言えば美しい。
が、あの時のイツカはすでに、レッサードラゴンのブレス一発程度普通にしのげる男だった。つまり、せっかく手間暇かけた結晶は、無駄に割られてしまったことになる。
それ以上によくないのが、イツカが傷を負う可能性があることだ。今回はバリンだったからまだいいが、もしもドカンとなったなら。
本当を言えば、判明してすぐにも着手したかったのだが、とうのイツカになだめられて今日になったのだ。新しい結晶を作る時間も必要だし、そこからにしよう、今日はせめてのんびりしようぜと言われて。
なぜかまとめるのにめっちゃ苦労しました。
三回くらい順番入れ替えました(遠い目
次回は作業に移れます。なんつうスローライフ(誤用)。
のんびりお付き合いいただければ幸いです!




