30-2 魔改造チョーカーと、五ツ星エンブレム
三人でわいわいやっていたら、あっという間に時間は過ぎた。
「あら、そろそろお昼休みも終わるころですわ。
午後は五ツ星オリエンテーリング講習と、実習でしたわよね?」
ライムがそう言ってくれたのを契機に『ごちそうさま』。お皿とカップはそのままでというお言葉に甘え、おれたちは身支度にかかった。
といっても、大してすることはない。
イツカのほっぺの照り焼きソースをウェットティッシュで拭いてやったら、おれはまず洗面で歯磨き。
イツカはお昼の後に歯を磨かないので、すぐ着替えにいった。
洗面と寝室をつなぐウォークスルークローゼットへすたすたと入っていったやつはしかし、おれが歯を磨き終わってもまだ出てこない。それどころか、ずいぶん静かだ。
「イツカ……?」
扉を開け、そうっとなかをのぞいてみると、はんぶん部屋着姿のまま、手に持った何かをまじまじと眺めている。
照明をはじいてにぶい銀色に光るそれは、猫しっぽ用のリング。
もともとは四ツ星用チョーカーだったものを、表面換装でニノに成型してもらい、アクセサリーとしても使っていたものだ。
「どうしたのイツカ?」
「いや、……これとも今日でお別れなのかな、と思って。
せっかくニノがカッコよくしてくれたのにな」
そう、これはあくまで『貸与品』。これから受ける五ツ星オリエンテーリングで、返却することになっているのだ。
おれも、自分のうさ耳用の飾りを外し、あらためてじっくりと見た。
月と王冠、四つの星のモチーフをセンス良く組み合わせた、手のひらほどのバレッタのようなそれ。
『首輪』として受け取ったときはシニカルな気持ちになったりしたが、ニノがこの形にしてくれたこれは、正直おれも、気に入っていた。
「先生に聞いてみようよ。ガワだけでも買い取らせてもらえないか。
もしダメなら、またおなじ形でニノに作ってもらおう。そうだ、お前がもらった千年樹の琥珀をあしらってもらってさ」
「あ……いいかもなそれ。
真珠の飾りも、このカタチベースにしてもらうとかさ」
「そうだね、それがいいよ。
っと、のんびりしてられないよ! 着替えなくっちゃ!」
急いで着替え、急いで教室に行けばセーフ。
ルカとルナ、ハヤトとアスカはもう待っていた。
アスカは今日もやっぱり魔改造眼鏡と魔改造ブレザー、水色ピンク金と髪を染め分けて、ピンクとブルーのアイカラー。どうやら今日も、このスタイルで貫くつもりらしい。
「あ、来たわねふたりとも」
「こんにちわ~」
ルカとルナが笑顔を向けてくれれば、ハヤトは不愛想顔で心配してくれる。
「ちゃんと昼は食べたのか? とくにカナタ」
「まだならおれといっしょに三段パンケーキ食べてもいいよ~?」
おれは二人に笑顔で返す。
「ありがとハヤト、ちゃんと食べたよ。
……っていうかアスカはそれ、つまり自分が食べたいってことだよね?」
「へへ~」
「あんたそれだけしょっちゅうスイーツ食べてて、よく太らないわね……」
「あ~、おれ太らない体質~」
「なにそれ腹立つっ!」
アスカがへらりと笑い、ルカがぷんすかしたところで教室のドアが開く。
いつもの眼鏡、黒の着流しのノゾミ先生が、フォローを入れつつやってきた。
「アスカは胃腸が強くない。
だからお前たちのようなハンターにはなれない。宿命的にな」
おれたち六人を見渡すと、おもむろに一言。
「まさかこのメンツで五ツ星講習をすることになるとは……
まあいい、はじめるぞ。
全員教壇に集まれ。四ツ星チョーカーを五ツ星エンブレムに交換する」
ぱんぱん、と手を打つ先生。イツカがどストレートに言った。
「センセ! これ気に入ったからもらっちゃダメ?」
「ダメだ。
それはもともと貸与品の『首輪』だぞ。いつまでもつけていていいものじゃない。
もっとも、お前たち二人はソリステラスの軍幹部たちに特に目をつけられているようだからな。安全を図る意味で特別に、ひきつづき着用を許してもいい。
ただし四つの星のモチーフは五つ星などに適宜変えること。
これは一年もたてば型落ち、内蔵した魔石も切れる。その際には機能ロックの上で払い下げに応じよう」
契約書付きでさらりと返ってきたところを見ると、これはすでに予測済みのことだったらしい。
さっそく署名をし、交換にエンブレムを受け取った。
大小五つの星が、ざっくり三日月状にならぶそれは、αたちが必ずどこかに身に着けているはずのもの。子供たちにとっては、あこがれのシンボルだ。
促されて席に着き、説明に耳を傾ける。
「そのエンブレムには四ツ星チョーカー同様の機能がついている。破損・紛失の際には始末書が必要なのも同様。
変更点は、五ツ星としてαの立ち入り可能場所、閲覧可能情報へのアクセスがすべて可能になることだ。
これはこのさき社会に出てのちも使用する、正式の身分証となる。そのため提示の際にエンブレムの形状を損なわないことという制約が付く。
そのため多くは手の甲に『任意で浮き出るシールタトゥー』として装用しているな。色は変更してかまわない」
ノゾミ先生がおれたちに左手の甲を向けてみせると、白くぴかりとエンブレムが光った。
「おおお、なんかかっけ――! よし俺も――!!」
単純なイツカはすぐに同じように手の甲にペタリ。赤くピカピカ光らせてみて「へへへー」と笑う。
ハヤトも黙って同じようにしているが、グレーのしっぽがはたはたしてる。
ノゾミ先生のほほが、照れ臭そうにちょこっと赤くなった。
結局おれたち六人は、全員同じように左手の甲に装着。本格的に初講義が始まった。
壇上のノゾミ先生は、優しい目をしておれたちをたたえてくれた。
「まずは改めて、五ツ星昇格おめでとう。
ここまで、よくやってきた。
お前たちは、みずからの努力でαの座にたどり着いた。まずはそれを、誇りに思ってくれ。
今はまだ学生という身分だが、五ツ星講習を終え、ゆく先が決まれば、晴れて一人前の道を踏み出すことになる。
最初からうまくはいかないだろう。それでも、ここまでやれたお前たちなら、きっとできる。
あきらめず粘り強く、ひとつひとつ取り組んでいくこと。迷ったらいつでも相談に乗るからな。けして一人で抱え込むな。いいな?」
おれたちがはい、と返事をすれば、先生はよし、とうなずく。
そして表情を引き締める。
「では、ここからは必要に応じノートを取るように。
最初に知るべきことは、お前たちはこの国で最大級の裁量権と責任を持つ存在となった、ということだ。
例えばいままでは『四ツ星以上が知りうる機密事項』をどう扱うか、お前たちに裁量の余地は全くなかった。だが今日この時点からは、お前たちはそれを持つ。必要に応じ、機密を利用することができる。しかし、その結果起きたことには自らで責任を持たねばならない。
何が大丈夫で、なにがまずいか。四ツ星講習の期間を通じ、お前たちはまがりなりにもその感覚を身に着けてくれたことと思う。常に初心を忘れないこと。けして不安なままで突っ走るな……」
何か書いてて自分がジーンとしたりしました。
海合宿素材、かろうじて(ほんとかろうじて)出ました^^;
次回、防具改良するの巻。ちょっと語りまくりだからどーしよね。まあそういうこともあるかな?
いつもお付き合いいただき、ありがとうございます!




