29-6 めがねっこと太っ腹! ~こんなとこにも村長さん~
おれたちはスペシャルメニューで大幅パワーアップ。
うれしいことにおれの方は、即時に第二覚醒まで到達した。
さっそくノゾミ先生に報告のメールを打つと、撃てば響くようにコールがかえってきた。
携帯型端末の小さな画面にうつる先生は、なんだかむせたらしく、けほけほと軽くせき込んでいる。ちなみに場所は自宅らしく、私服姿だ。
『カナタお前マジか! 一体どうなってんだ!』
「チナツの召喚チケットで呼び出した神獣さんに、魔法陣を使ってもらって……」
『な、……
それってもしかして『シークレットガーデン』の虎神獣シーラか?!』
するとスゥさんがひょこっとわきから顔を出す。
「シーラはあたしの先代だよ! あたしはスゥ。あなたがめがねっこだね? よろしくね!」
『めが、………………
あー、いや。
神獣スゥ、俺の教え子が世話になった。もしもシーラに会うことがあったら、よろしく伝えてくれ』
「アイアイサー!」
後ろでイツカたちが吹いている。笑いをこらえてプルプルしているものもいる。それをまとめてギロッと睨むと、ノゾミ先生はこう言い残してコールを切った。
「先代虎神獣シーラは、俺たちを第二覚醒に導いてくれた恩人だ。スゥ殿にも、失礼がないようにな。では」
その瞬間、笑いが爆発した。
「『めがねっこ』――!!」
「『眼鏡の死神』かたなしじゃん!」
「『青嵐公』の面影ないし!!」
「お兄ちゃん……!」
「ぶくくくく……」
「いやほんと悪いけど笑えるわ!」
「あれ? あたしなんかやっちゃいました?」
その真ん中でスゥさんはキョトン。
異世界転生もの定番のセリフを口にする姿に、ますます笑いは加速してしまうのであった。
「ところで、他の子たちであれやりたい子いる?
あたしの見立てでは――ここにいる子だと、ルシードとマユリ。それに、アスカとハヤトだったらじゅうぶんこなせそうだよ?」
「おれはやりたい。ハヤトは?」
「ああ、俺もだ。
正直アスカの体は心配だが、スゥさんならきっと支えてくれると思えたからな」
アスカとハヤトは即答した。
しかし、ルシード君の秀麗な顔には、ありありと迷いの色。
「俺も、スゥさんを信用していないわけじゃない。
しかし、マユがああなるかと思うと……」
「ルゥ……」
さっきのおれたちはいったい、どれだけひどい様子になっていたのだろう。
聞いてみたくなったが、この雰囲気に口ははさみづらい。
やがて微笑んで口を開いたのは、マユリさんだった。
「……そうね。
ルゥがそう思ってしまうということは、あたしもまだまだってこと!
スゥさん、私たちはもう少し自身で修行します。
そうしてもっともっと強くなって、そのときにお願いできる機会があるなら、お願いさせていただくことにします。それで構いませんでしょうか?」
「わかったよ、マユリ、ルシード。
あっ、敬語なんていいよ? わたしみんなとあんまり年違わないし、気楽でいいから」
「えっ?!」
「マジに?」
「マジマジ! あたしいまの神獣チームの中で一番下だから!
つぎがルゥ、あ、ロック鳥やってる子ね。ちょっとぽーっとしてるけどいい子なんだよ!
あっそうじゃなかったねごめん。アスカとハヤトね。
ほかにも五ツ星四ツ星ならたぶん可能だし、連れてきてくれていいよ!」
「太っ腹――!」
「いや、マジに大丈夫なの?」
それは嬉しい。嬉しいが、同時に心配になった。
こんな大盤振る舞いをしてしまって、大丈夫なものなのだろうか。
いくらリアルに見えても、『スゥ』は『ティアブラ』のNPC。つまり、運営チーム所属のプレイヤー、いわゆる『ナカノヒト』が操作しているゲームキャラだ。
『ティアブラ』が政府の政策の一環として存在している以上、運営チームも『ナカノヒト』も、現政権の強い支配を受け、その意向に縛られているはず。
一方でおれたちは、月萌のΩ制度をなくすために行動している。
へたすれば政府転覆をもくろむ、危険思想の持ち主とも考えられてしまいうる存在なのに。
問うことのできないその言葉には、ぱちんとウインクがかえってきた。
「あたしは『名実ともに』シーラの後継だよ。安心してよ!」
なんと『村長さん』は、ティアブラ運営チームのなかにもいたのだ。
そのことに驚きと心強さを覚えつつ、おれたちはさっそく携帯型端末で連絡を取り始めた。
雨続きのせいか左手が痛みます……(超多分腱鞘炎)
このごろだいぶ良くなっては来ているのですが。鎮まれ俺の左手(中二病風に言ってみる)。
次回はアスカたちがスゥさんの特訓を受ける予定です。お楽しみに!




