29-4 時空の結界の修業!
あらかじめ念入りに回復魔法をかけてもらったうえで、魔法陣のなかに横たわる。
二人で並び、手をつなぐ。
スゥさんが言うには……
「離すなよ。バディは最後の命綱だ。
逆にいざという時その手を頼れない相手を、真のバディとは呼ばない。
『第二覚醒』は人を超えるもの。それゆえに、他者の助けが必要となる。
また同時に『第二覚醒』は、自らを深耕するもの。それゆえに、助けの手を差し伸べるのは、自らにもっとも近い者でなければならない。
支えあい、超えてこい。我がきちんと見ているからな」
「……はい」
そう言いながらも、スゥさんはしずかにパワーを高め、結界を活性化させていく。
魔法陣が紫の光を強めるほどに、全身に重さがのしかかってくる。
これは、重い。息の一つ一つまでが、重い。思考すら、重い。
だんだん重く、崩れていくのがわかった。視覚も、聴覚も、触覚も。
暗い冷たい静けさに、とめどなく沈み落ちていく感覚。
体の奥から、ぞくりと震えがわきあがる。
暗い。寒い。重い。重い。
何も聞こえない、身体も動かない。呼吸すらままならない。
もしかしてこれは、失敗したのか。
おれは、死んでしまったのではないだろうか?
いやだ。そんなのはいやだ。
まだソナタを、ミライを助けられていない。
イツカはきっと生き残るだろうけど、あいつは何かと危なっかしい。おれが見ててやらなくちゃならない。
そして、ライム。ライム。
おれになにかあったらきっと泣く。
そんなのはいやだ。絶対に嫌だ。
生きたい。
生きたい。
どうあっても、おれは、生きたい!!
必死にもがこうとしたその時、温かさを感じた。
右手がしっかりと握られているのだ。
イツカの左手だ。すぐにわかった。必死に握り返した。
これはきっと、命綱。
離してしまえば、おれもイツカも助からない。
すがるようにかばうように、全力で握りしめた。
イツカも必死なのがわかる。
いつも力強い指が、ほんのぴくりとしか動かなくとも、そこに全身全霊がこもっていることがおれにはわかる。
だいじょうぶ、だいじょうぶだよ。
おれがお前を支えてるからね。
お前がおれをひっぱりあげてくれたから、こんどはおれが、お前を守る。
いつもそうやって切り抜けてきた。きっとこんども、それでだいじょうぶ。
強がらなくていいよ。もう、震えなくっていいんだ。
おれとおまえならだいじょうぶだから!
重い重い、重い思考を奮い立たせ、おれはイツカにむけて全力で祈った。
祈りをすこしでも形にしたくて、ほとんど動かない指に全霊で力を込めた。
ほんのかすかにふるえる指が、一生懸命応えてくれる。
大丈夫だと伝えようとしてくれるのがわかる。
感覚なんかないはずの手から、伝わってくるぬくもりと震え。
『これが、いのちだ』おれは直感的にそう悟った。
これが、いのち。
これが、いのち。
これが、これが、これが、いのち。
はかなくて、ちいさくて、いまにもきえてしまいそうなそれが、とてもとてもいとおしい。
まもりたい。ささえたい。
そのもつ可能性をすこやかにのばし、心のままに駆けまわらせてやりたい。
そのために、ちからがほしい。
守ってやれる力が。癒すことのできる力が。はぐくむことのできる力が!
『――できるよ。カナタ。おまえならできる』
『よくわかんないけど、おまえならできるから!』
ふいに響いた声は、誰のものだろう。
おれのもののようでもあり、イツカのもののようでもあり、そのどちらでもないようだった。
いつしか重さは消えていた。
こころとからだがわさわさとして、暗さが、寒さが、ヴェールをはぐように薄らいでいく。
戻ってきた、聴覚が。
がんばれ、がんばってという声が聞こえた。
目を開ければ、視覚が戻っていた。
魔法陣のそと、おれたちを囲んだみんなが、歓声とともに笑顔になるのが見えた。
触覚はもう戻っていた。
いつもの確かな手ごたえをしっかり握りなおしたら、もう気分はいつも通り。
首をひねってイツカの方を向いたら、イツカもこっちを向いていた。
どれだけ必死にもがいたのだろう、覚醒状態の狩衣ふうになっている。
いつものきれいなルビーの瞳に、すこしだけ涙がにじんでいるように見えて、おれは、間に合ってよかったと安堵する。
まだ言葉は出せないけれど、笑いあったら勇気百倍。
さあ、起き上がろう。
片手をつないだまま、片手と腹筋、大きな耳翼とふたまたしっぽで身を起こせば、身体が生まれ変わったかのように軽い。
それならばと、せーのでぽん、と跳ね起きてみた。
するとおれたちの体はまるで、月面をゆく宇宙飛行士のように飛びあがる。
『マリアージュ発生:プレイヤー・カナタとけも装備『うさしっぽ(でかもふロップイヤーEX)』のエンゲージレベルが限界突破しました。
スペシャルスキル『卯王の薬園』が解放されました』
そしてその後を追いかけるように緑の草木が、フィールドいっぱいに萌え出でた。
ブックマークありがとうございます!
嬉しいよー、うわーん。
(訳:めっちゃ励みになります。ありがとうございます!!)
次回いよいよスゥさんの謎! 一話で収めたい! お楽しみに!




