28-8 とっさの機転と五ツ星昇格!
振り向く前に空を蹴る。ノールックで『抜打狙撃』。気配に向けて『斥力のオーブ』を撃ちだして、強引に距離を取る。
そうしてさらにもうひと蹴り、別方向に跳んでから、振り仰げばそこに死神がいた。
今日のおれたちのターゲット。ミッドガルド時代には『眼鏡の死神』とも呼ばれたその人は、イツカの襟首を捕まえておれの頭上を取っていた。
「残念だったな。その程度では俺には届かない」
キュウビのしっぽの力で空を飛ぶ『青嵐公』は、言いざまぺいっ、とイツカを投げてくる。
とっさに『玉兎抱翼』を発動。耳翼を広げて滞空し、両手でイツカを受け止めるが、そこに『青嵐』での追撃が!
「『0-G』!!」
ピンチを救ったのはイツカの『0-G』だ。抱えたおれごと、毎度の謎の移動をし、辛くも回避してくれた。
よし、そのまま制空権を奪還、と勇んだおれたちだが、そうはいかなかった。
『青嵐公』が鋭く斬りかかってくるおかげで、回避するのが精いっぱい。
テラフレアボムを当てるどころか、それ以前の問題となってしまった。
「ったく! 手加減してくれるんじゃ! ないのかよっ!」
「手加減していなければ今頃、そんな口はきいていないだろうな」
イツカの軽口に真面目な答えが返ってくるが、全くその通りだった。
これまでほどではないにせよ、手加減してもらっているのは明らか。
いやでもわかった。いまのおれたちのチカラでは、まともに勝つことは絶対に不可能だと。
この人に、エクセリオンに、『月萌杯』に。
だめなのか。諦めるしかないのか。なにか、手は――
そのときおれはひらめいた。起死回生の一手を。
まずはイツカに呼び掛ける。
「だめだ降りよう。つかまって!」
「了解!」
そう、どれだけこっちがムキになっても、機動力はあちらが上。
だったら、とるべきみちはひとつ。
おれはイツカを抱えて耳翼をたたむ。頭を下に、逃げるようにきりもみ落下。
神聖防壁の硬質な輝きごしに、ミソラ先生がこちらを見上げているのが見える。構わない。そのまま落ちていく。
ミソラ先生との距離が20mを切った。大きめに張られた神聖防壁の傘が近づいてきた。よし。
「押し込むよイツカ!」
「合点!!」
イツカはおれから手を放し、ほんの少しだけ距離を取る。
おれはテラフレアボムを入れたマジックポーチを開ける。
にゅっと繰り出す銀の巨体がすべて姿を現すと、おれたちは身をひるがえし、そいつを後ろから蹴った。
「『超跳躍』ッ!!」
「『短距離超猫走』ぁぁ!!」
きりもみ落下の速度。濃厚ゼリーポーションによる強化と、スキルにより向上した脚力。
フルにのせて蹴飛ばせば、テラフレアボムは鋭く尖った頭を神聖防壁にめり込ませた。
これならいける、いや、いけ!
「っおい!!」
「『レッツ・パーリィ』!!!」
背後からの声に構わず、レンの設定した『ロケット点火、ならびに信管アクティブ化』のキーワードを唱えた。
同時にイツカがおれをつかんで、もう一度『0-G』発動!
するとおれたちは、どうやってか全くわからないが、大フィールドのはじに立っていた。
爆音の残差が消えていく中、フィールド中央にはすさまじいばかりの黒煙。
そして目の前には、銀の刃。
そう、銘刀『青嵐』だ。
それを持つ男の目は、刃の鋭さを宿しておれたちを見下ろしている。
もちろん黙ってホールドアップだ。斬られてもやむなし。それだけのことを、おれたちはしたのだ。
一秒、二秒。やがてその肩に優しい手が置かれると、『死神』はふーっと大きくため息をつき、刺すような視線と『青嵐』を引っ込めてくれた。
「ったく……今のはあんまりだろうが。
あえてミソラを狙って俺にかばわせるとか、一体いつからそんなやり口を覚えたんだ。
って、最初からか……」
ため息とともにうなだれる『青嵐公』、改め、ノゾミ先生。
ぺこんとたれてしまった狐耳がギャップかわいいやら、申し訳ないやらで、おれの口からはごめんなさいが出ていた。
一方、ミソラ先生は上機嫌。ぽんぽんとノゾミ先生の背中を叩いてとりなしてくれた。
「いいじゃないの、ナイス機転だったよ~?
ひさびさにマジでかばってもらっちゃったから、わたし的には役得だったし♪」
「おまえな。」
そう、ルンルンピカピカのミソラ先生とは対称的に、ノゾミ先生はちょっとだけ焦げているのだ。
それでもツッコミを返すほっぺたに、ちょっとだけ赤い色がみえるのはナイショだ。
「ノゾミだって覚醒チャレンジの時、あえてカナタを狙ってみせてイツカにハッパかけたじゃない? だからこれはセーフよ、セーフ。
むしろ冷静にわたしをほっとけば、ノゾミはカナタたちを負けに追い込めたはず。
それをさせなかった勢いと機転を含め、わたし的には五ツ星昇格が妥当と判定します。
ま、甘口寄りではあるけどね?」
「大甘だろう!
……それでもまあ、やれたことには変わりはない。
いいだろう、俺も賛成だ。
どのみち、卒業試験では俺とのガチバトルを制さねばならない。そのときには取りえない手だ、問題なかろう」
そういってノゾミ先生は、とってもいい笑顔を見せた。
「というわけでお前たち、さっそく特訓準備だ。
とりあえず、イツカ。
明日、いや今日から一週間。
死ぬ気で勉強しろよ?」
「へっ………………?」
いつもありがとうございます!
次回、新章突入。
本来まだ中学生のイツカナが卒業する条件は……
猛勉強したり、アイテム開発したり、レモンちゃんとお見舞いに行ったりする予定です。
どうぞ、お楽しみに!




