28-6 緑のきつねの百面相!
おれたちの目の前には、レンが作り上げたばかりの『新時代』が横たわっている。
その名も、テラフレアボム。
クラフターとしての直感が告げる。これこそは、テラの名を冠するにふさわしいものだと。
さいしょに口を開いたのはミツルだ。
「これ……『ハンマー・アロー・ボンバー』? ユゾノさんの……」
「おう、ぶっちゃけそれがさいしょのヒントだな。
もっともこいつはスキルじゃなくて純然たる物体だがな!」
できたてほやほやのテラフレアボム。レンはそのつやつや輝くどてっぱらをぽんぽんと叩いてみせる。
とたん、ざざっ。ミツルはもちろん、先生とクラフタークラス履修者以外が、全員顔色を変えて距離を取った。
「だ~いじょぶだ、信管はアクティブにしてないから爆発しねえ。
とりあえずいま入ってるのはキーワードでアクティブになるやつだが、そこはいろいろ変えれるようになってるぜ」
まあおれも、さすがにレンほど平気ではいられないけど。
深呼吸してから問いかける。
「ええと、明らかに1トンとかありそうなんだけどこれ、どうやって使うの?
投げる……のは、きつい気しかしないけど」
するとレンは誇らしげに胸を張り、陽気な笑顔でまくしたてた。
「おう、さすがカナタだなっ。
こいつの総重量は9520kgだ。覚醒したうえフル強化でもなけりゃまず持ちあがらねえ。
というわけで使い方は、まず相手の頭上を取る。こいつを入れたマジックポーチを逆さに降る。するとインベントリから下向きにニュッと出てくるんで、距離を取って決めておいたキーワードを唱える。
そーすりゃブオーッとロケット噴射して超速でブチ落ちてって、防壁に当たったらドーンぶち抜いて、最後に時間差で本体にドーン! とやってくれるぜ。
イメージ的には、アカネちゃんの『ロリポップ・シャワー』を一発にした感じだな。
まああれだ、いうなれば『ムーンサルト・バスター』を再現する爆弾といったらいいかな。ただイツカとちがってこいつは爆発するから、落としたらその後は全力退避だけどな!」
背中の黒の翼までパタパタさせての身振り手振り。しかしその内容におれはいろんな意味で唖然とした。
「まじか……
いや、頼んでおいてなんだけど、これって人に向けてもだいじょぶなものなの……?」
そう、エクセリオンだって人なのだ。そしてこれはもはや兵器。たとえば昔のライムにこんなのを投げつけるとか、絶対絶対おれには無理だ。
のんびりと疑問に答えたのはマイロ先生だった。
「エクセリオンあたりはもう人間やめてるレベルだからねぇ。
『うまく当たればHP三分の二は削れる』ぐらいじゃないかしら」
「え゛」
こんどこそ絶句した。
化け物体力といわれるイツカでも、無対策でギガフレアボムが来たらまずアウトなのだ。
取れる手段と言ったら、魔法とアイテムとスキルで強化しておいて塹壕に隠れるか。
もしくはあらかじめ、炎吸収もしくは無効化のアイテムや装備を整えたうえに、トラオとサリイさんがしたように必殺技などを重ねてしのがなければ、衝撃に押し潰されてしまうだろう。
顔を見合わせたイツカとおれにむけ、マイロ先生は言った。
「バトルの実力だけなら、カナタくんとイツカくんはもう十分に五ツ星レベルよ。
ただ、――そうね。あとはノゾミ先生から聞いた方がいいわね。
まずは焦らないこと。目の前のことをひとつひとつしっかり積み重ねるの。
勉強も、実習もね」
と、マイロ先生は錬成室の出入り口を軽く眺める。
「あら、噂をすれば。きつねさんたちのお出ましよ」
争うようにやってきたのは、ノゾミ先生とエルカさんだった。
「い、いや落ち込んでなんかいないよ? 今日はそもそも来れない予定だったのだし。それにまだ調整はするんだろう? 錬成を生で見るのはそれからでいいさ」
生錬成を見損ねたエルカさん、顔はいつもの笑顔だけれど、緑の狐耳とふさふさしっぽが明らかに垂れていた。
「あー。なんかごめん……」
「そうだ、じゃあこんどエルカさんが確実に時間取れるときに、予定組んで第二次テスト錬成やろうよ! エルカさんのアドバイス、僕もききたいし!」
さすがに気の毒と思ったらしいレンが謝れば、チアキが助け舟を出す。
とたんにぱああああっとうれしそうな顔になるエルカさん。
「そうだ、そうだね! ありがとうチアキ君!
もちろん今回のについても気づき次第アドバイスさせてもらうよ! そこはまかせてくれたまえ!!」
そしてキラッキラしながらチアキの両手を取ってブンブン振った。つねに余裕でジェントルなおとなのイメージどこいった。
まあ、おれなんかはこっちのエルカさんの方が、親しみあって好きだけど。
楽し気にはしゃぐエルカさんは、当然のようにしてノゾミ先生に向き直る。
「よーし、それじゃあさっそく試し打ちだ! 安心しろノゾミ、念仏は唱えてやる!」
「おまえな。……まあ、やるつもりではあったが」
「話は聞いたわ!」
すると聞き覚えのある声とともに、どばーんと用具入れの扉が開く。
ニコニコの笑顔で出てきたのはなんと、ミソラ先生だ。
「学長としてノゾミのバディとして、これは立ち会うべきと判断したわ!
フィールドは押さえてあるから、今から行きましょう!」
おれたちは思わずつっこんだ。
「いやなんでそこからっ?」
「そうだな、それは俺も是非聞きたいな??」
高天原生時代は『委員長』があだ名だったという、ノゾミ先生も笑顔でつっこむ。
「あ。
……えーっと、乙女の秘密……?」
かわいらしい上目づかいで笑って見せるミソラ先生。
ぶっちゃけ『縮地』だろうが、それは校則違反である。
ノゾミ先生はもちろん、そんな上司のもとにつかつかと歩いてゆき、ズビシ。軽めのツッコミチョップをくれたのだった。
まさかの、バトルまで届かなかった……!!orz
次回! 次回開始します!
お楽しみに♪




