Bonus Track_28_3 錬成、テラフレアボム~レンの場合~
ちょうどWifi斬れまして……遅くなりました……orz
むかしっからオレはチビで、よくからかわれた。
近所の姉ちゃんたちはかばってくれたが、オレとしてはそれはイヤで、ケンカっぱやいガキになった。
身体が強くないオレのスタイルは、『とにかく勢いで押し切る!』。
けれどそれは、ティアブラのバトルでは通用しなかった。
鎧は重すぎて数分と着ていられない。剣をふっても当たらない。
かっこいい剣士に憧れていたオレは、適性のなさでどんどんおちこぼれていった。
それでも威勢だけは良かったオレは、人相手のケンカはガンガンした。
ほかの冒険者どもにからかわれては、ケンカをして。
ケンカして、ケンカして、ケンカして。
ついにはある日、ひとりでいるところを数人に絡まれ、袋小路に追いこまれるハメになった。
絶体絶命のオレを救ってくれたのが、師匠。
そして、師匠の投げたボムだった。
『距離よーし、威力よーし。はいはいそこの君たち―、爆破しちゃうよー?
理由はでっかくって邪魔だからー、以上っ!』
師匠はやつらがオレよりはるかに身長が高いことを利用し、やつらの頭部がギリギリ、スタングレネードの効果範囲に入るように投擲。
一発でグロッキーとなったやつらがバタバタ倒れた後には、『にししー』と笑っているチビ、もとい救いのチビ女神が立っているのが見えた。
それまでボムなど見向きもしていなかったが、オレにはボマーとしての適性があった。
投げる方も、作る方も。
師匠の手ほどきを受けたオレは、楽しくて楽しくて、どんどんと深みにはまっていった。
やがて各地をさすらい、大型討伐依頼をギガフレアボムで制圧しまくるオレは、『爆殺卿』と呼ばれるようになっていた――
* * * * *
「す、すごい錬成陣……」
「これ、ぜんぶレンが?」
「あったぼーよ。天下のテラフレアボムだぜ? 愛情込めて丁寧に描いたさ!!」
錬成陣の下書を披露すると、驚きの声が上がった。
自分で見ても精緻、ホレボレする出来だ。
ボムの錬成は奥が深い。ライン一本分ずれただけで、炸薬の配置が換わる。外装の厚みも。もちろん、それぞれの成分配合も。
そこを考えれば、錬成陣は無駄にでかくない方が書きやすい。
それでもプリントアウトは、一辺が1mを超える大きさになった。
「まーアレだ。今回はオレひとりでのテスト錬成だから、ひとりで発動できるよう各部入れ子にしてあるから、一見複雑に見えるけどよ……
シオンとソーヤって二人錬成できるんだろ? それでやるってならもうちっとシンプルなやつにもできるぜ?」
するとやつらは声を弾ませた。
「うわあ! やりたいやりたい!!」
「うおっ楽しそう! ソーヤさんからもぜひぜひオナシャスっ!」
「おっしゃ、じゃー楽しみに……っつかシオンは構築やれるんじゃねーか? そもそもパターン解析やってくれたのシオンだし」
「え、ホント? じゃあじゃあ、オレやってみるから添削してくれるっ?」
「おう、まかせとけ!」
とくにシオンのやつときたら、うさみみぴょんぴょんでめっちゃキラキラしてるもんだから、思わず頭を撫でてしまった。
オレより若干……若干だけだけど! 大きい癖に、こうしていると小さな弟っぽくてクッソ可愛い。おかげで根っから鳥派のオレですら『ウサギ可愛い』と思えてくる。
まあ、最近だとチアキの影響でワン公も可愛いと思うんだが。いやいやマイベストはカラス、これはやっぱし譲れない。
ともあれオレはマイロちゃん先生に声をかけ、錬成室設置の錬成陣プリンターを起動してもらうことにした。
「それじゃあマイロちゃんせんせ……おーいせんせー?」
「ハッ? あ、ああ、そうね、そうだったわね。それじゃあ下書きをセットして……」
白のスコ耳をピコピコさせて、幸せそうにこっちを見ていたマイロちゃんは、何事もなかったかのようにしゃっしゃか動き始めた。
錬成陣そのものは、魔力を通し、材料ごと変容させるための回路だ。
形がきちんとしているのが必要十分条件。つまり、心がこもっている必要はない。
よって、製図ソフトで書けるし、専用のプリンターで出力もできる。
しかし、オートでやれるのはそこまでだ。
形式が確立された錬成ならまだしも、これは新作、初めてのリアルでの試作だ。オレ本人がしっかり調子を見ながらコントロールしないとならない。
もちろん暴走に巻き込まれたら最悪お陀仏。だが、むしろそこがいい。
すべての可能性を克服し、一発逆転をもたらすでかいパワーの結晶を収穫したときの喜びは、そんじょそこらのレアドロップなんざ比にならない。
胸の高鳴りを抑えつつ、計量済みの素材を陣に配置。
リスト片手の指差し確認を終えると、いよいよ錬成スタートだ。
とっぱじめ、1の陣に手を置く。この錬成全体を支える、パワージェネレータの役割を果たすモノだ。
魔力を注いで起動すると、あらかじめ置かれた『燃料用』の魔石をゆっくり溶かして赤く輝き始める。
二秒で出力が安定。いい感じだ。陣につなげられた経路に手をふれ、順次開いて各部形成用の陣にチカラを流していく。
まずは外殻形成用、2~5の陣へ。
赤く輝く4つの陣が、原料の鉱石たちを溶け合わせて合金としつつ、ロケット状の外殻の各部を作り上げていく。
前方を特に強く、尖ったカタチとし、物理的に貫通力をもつ設計にしてある。
必要なのは、ギガフレアボムに使うよりもずっと硬く重く、粘りのある合金。良質の鉄鉱石はもちろん、ブラックダイヤキューブとホワイトスパイダーウェブは必須だ。
外殻を先にした理由は、なかみの形成が事故ったときの対策だ。
もしそっちが暴走するようなら、6~8の陣が錬成停止薬を外殻内に満たし、強制的に錬成反応を止める仕組みになっている。
外殻が形を成したら、9&10、11~13、14&15の陣を順に起動し、内側に『二重貫通弾頭』と『ロケットブースター』を形成。
露払いとしての先駆弾頭と、真打である主弾頭、そして奴らをまず目的地まで高速で飛ばすためのブースターの三兄弟だ。
こいつらはすべて別物だ。先駆弾頭は防壁をピンポイントで穿つため、前方への指向性に特化。主弾頭はとにかく威力メインの改造ギガフレアボム。ブースターはそもそも爆弾じゃない。さすがに、陣もわける必要があるというわけだ。
これらもまた、赤い輝きとともに信管と爆薬本体を形作っていく。信管は差し替え可能にするため、あえてこれも陣を分けてある。
マイロちゃん先生にもアドバイスをもらい、あらかじめシミュレーションを繰り返していたおかげで、錬成はきわめてスムーズ。
拍子抜けするほどすんなりと、人の大きさほどある『そいつ』を作り出すことができた。




