1.3 『うさぎ姫』とのお誕生日デート、もしくは俺たちのぴかぴかな『特別の日』 ~イツカの場合~
By 秋の桜子さま!
「俺」になっている、漢字バージョンです!
イツカ視点ということでこちらに……♪
2020.10.17
猫屋敷たまるさまからいただいた『待ち合わせ時のソナタちゃん』を挿絵に追加させていただきました!!
石造りの門をくぐれば、ちょっとゆるめの『中世ヨーロッパ風異世界』系の町並みが広がった。
ミルドの町。ミッドガルドのあちこちにある、中くらいの大きさの町の一つ。
二年前、依頼のついでに来て気に入ってから、俺たちはずっとここを本拠地にしてる。
大きさや活気で言えば、王都ルーブルや商業都市マリノスとかのが上だけど、なんかこう、ほのぼのしてて、ちょっとゆるめなとこがいいのだ。
道をゆく人、店にいる人。たまにいる衛兵や冒険者。窓から外を見てる人。
みんな、笑顔をむけてくれる。
こっちからあいさつをし、あっちからあいさつをされる。
仲良しのわんこにゃんこをモフるのは、いまはガマン。
俺たちは一直線に、『冒険者通り』へかけこんだ。
「おれ達成報告やっとくね!」 ミライはゆるく右にコーナリングして、冒険者ギルドへ向かう。
「おれは換金いってくる!」カナタは、その左どなりの素材屋へ。
「んっじゃー俺は献上いってくる!」 もちろん俺はかくっと右に折れ、教会へと向かったのだった。
大きく開いた聖堂入り口からなかへ入ると、ちょうど女神像まえは空いていた。
ラッキー。俺はスピードを落とさずに、その正面に立った。
白い石造りの、翼を生やした女性の像のまえ、剣を抜いて天へと掲げ、目を閉じる。
そうして奪った命の冥福を祈れば、清涼感とともにすうっと『抜けてく』感じに包まれた。
俺がためこんだBPが、守護女神『ティアラ』に捧げられ、浄化されているのだと肌で感じる。
これが『献上』。正式名称『奉納』だ。
BPはバトル、物を壊す、口ゲンカ、自分を殴る……ほか、『ダメージを与える』ともらえるポイントだ。
バトル技のほか、アイテムの錬成ほか、多くのスキルの発動に必要とされる。
だがため込むほどに見た目やスキルが魔物化していき、50万を超えれば『魔物堕ち』完全にモンスターになってしまう。
するといろいろやっかいなことが起きるんだが、とりあえずこの状態でTP100万達成しても、『高天原』には行けない。
俺たちとしては、避けなきゃならない状態だ。
だから俺はほんとなら、もうすこしこまめにやっとかなきゃいけなかったんだが……。
いや、たぶん、いらない気づかいだ。
二人が気づく前にさっぱりとしてしまって、これでよかったのだ。
ちなみに、BPと真逆のやつがTP。
通貨としても使えるし、100万集めればα(アルファ)プレイヤー候補として認められるし、いいことばっかのポイントだ。
これは『献上』でももらえるので、その点でも『献上』をやらない手はないというわけだ。
こればっかりためると天使になるとも言われているが、まあたぶん都市伝説だろう。
ともあれしばらく祈れば、BPは6万台、充分かつ安全なレベルになっていた。
ティアラに感謝を告げ、『献上』を終わらせれば、通知用ウィンドウが目の前にポッと開いた。
『! 女神ティアラからのご褒美を賜りました。
・ティアポイント 4万
振込先:イツカ個人口座
・HP回復ポーション@500 6つ
振込先:イツカ個人用インベントリ
以上です』
よし、とそれを閉じると、入れ替わりで次の通知用ウィンドウが開いた。なになに……
『! パーティー『ミライツカナタ』用口座から個人分報酬の振り込みがされました
・ティアポイント 10万
振込先:イツカ個人口座
以上です』
「しごとはやっ!」
ミライのやつ、いつもながら仕事早いな!
女神像前からどいてステータスウィンドウを開けると、俺の個人口座……つまり俺自身がもつTPの総額は、98万ちょっとになっていた。
よし、今回はちょっと多めにしておこう。
俺はカナタ名義の『ソナタちゃん口座』に、いつもの倍の20%、額にして2万TPを振り込んだ。
すると、三秒後。聖堂入り口からバタバタバタという足音とともに、いつになくあわてたカナタの声が響いてきた。
「イツカ!! ちょっと!!
だめだよ、こんなにもらえないってっ!!」
カナタは俺の前まで来ると、膝に手をついてぜえぜえ。
ちょっぴりだけ勝った気持ちで、俺はカナタに告げる。
「いいっていいって。今日の軍資金にしてくれよ!
せっかくの誕生日デートで『お金足りませんでした』じゃ、ソナタちゃんがっかりしちまうぜ?
今日こそ買ってあげるんだろ、レモン・ソレイユのコスチューム!」
「それは、そう、だけど……
もう、ミライといい、イツカといい……みんなといい……優しすぎるよ、ホント……」
カナタのきれいな紫の目が、ふわっと潤むのが一瞬見えた。
水色でかもふロップイヤーにさりげに隠して、目元をぬぐって、一生懸命ごまかそうとする。
ぽろりぽろり降ってくるTPと、ぴろりぴろり上がるポップアップで、どうしたってバレバレなのに。
そんなやつの姿は素直にかわいく思えて、俺はよしよしとその頭を撫でていた。
「何言ってんだよ。
ソナタちゃんは、俺たちにとっても大事な『妹』だ。
その兄貴であるお前は、俺の弟!
だから、いいんだって。
それにお前も、俺にとっては恩人じゃないか。
俺の剣も防具も、お前が作ってくれたやつなんだぜ。
勢いばっかの俺が生き残ってこれたのは、カナタ、お前のおかげもあるんだからな?」
そうして背中をぽんぽんしてやるとカナタは、ぎゅっと俺に抱きついてきた。
「ありがとう……ありがとうイツカ。
ちょっと一部分、わけわかんないけど……
だけどうれしいよ。ほんと、ありがと……!」
涙声を隠そうともしないで告げてくれたありがとうに、俺も胸がぐっときた。
このさい、まんなか部分はスルーしとくことにする。
「うわーん! ふたりともー!! わーん!!」
と、横合いからさらにむぎゅっと抱き着いてくるやつがいた。ミライだった。
もうめっちゃ泣いちゃって、ほとんど何言ってるのかわかんなかったけど……
それでも俺は、すごくすごくしあわせな気持ちになった。
ぜったいにこの三人で、高天原に行くんだ。
そしたら、給料もらってファイトマネー稼いで、依頼も今まで以上にガンガンこなして、ソナタちゃんの手術費用をためる。
手術を終え、元気になったソナタちゃんを、レモン・ソレイユとならぶビッグアイドルにして、俺たちはあこがれのαプレイヤーになる。
俺はもう一度、決意を新たにした。
* * * * *
やがて二人が泣き止むと、俺たちは聖堂を出た。
いつのまにかまわりに人が集まりまくってて、なんでか俺だけ冷やかされたりもしたけど、そこはてきとーにあしらって『自宅帰還』した。
戻った先は、郊外にあるカナタのアトリエ。ティアブラでの俺たちの家というべき場所だ。
リアルとちがって汚れないから、風呂には入らないでもいい。
余計な荷物を置いたら、ちょっとだけしゃれた『お出かけ用』の服に装備チェンジ。
そうして聖堂前に戻ってくると、彼女はもう俺たちを待っていた。
ふんわりした桜色のでかもふロップイヤー。リアルと同じ、きれいな紫の瞳。
これまたリアルとおなじ、空色の髪はふわっとしてて、思わず頭を撫でてあげたくなる。
顔はカナタに似てるけど、カナタより女の子らしくて、もっとずっと愛嬌がある。
小さくって細くって、フリフリした白のおでかけワンピースもばっちり決まって、『可憐』ってのはこういうもんだって、誰もが納得するに違いない女の子。
そう、この子がソナタちゃん。俺たちの大事な『妹』だ。
ミライが「はわわ……うさぎの国のおひめさま……!!」なんて呟くと、ソナタちゃんはこっちを向き、ニコッと笑ってこう言った。
「おまたせ、お兄ちゃんたち!」
「ぜ、ぜんぜん! まってないよっ! だいじょぶだからっ!!」
ミライのほっぺたが、ますます赤くなる。
お兄ちゃんらしく、お兄ちゃんらしく……とつぶやいてなんとか平静を保とうとしてるけど、ぱふぱふしまくる犬耳としっぽが今日も、バレバレに追い打ちをかけている。
突っ込みいれたい。めっちゃ突っ込みいれたい。それはやまやまだが、とりあえず今日はがまんしとくことにする。
「よーす、ソナタちゃん!」
「お待たせはこっちだよ、ソナタ。
調子はだいじょぶ? 許可はもらえた?」
「うんっ。今日はとっても調子がいいし、三時間プレーしていいって!」
ソナタちゃんはいっぱいの笑顔だ。カナタも、ほっとした顔で笑う。
心臓に病気がある小学生のソナタちゃんは、あまり自由に遊べない。
ティアブラは、原則として一日一時間以内。リアルでの外出も、そのくらいが限界だ。
だから今年の誕生日デートは、先生の許可をもらってティアブラのなかで羽を伸ばそう、ということになったのだ。
もちろん、体調次第で延期や時間短縮も、覚悟はしていた。
けれど、運は俺たちに味方してくれたようだ。
ミライが毎日一生懸命、お祈りしてくれたおかげかもしれない。
なんたってミライは、誰よりすごいプリーストなんだから。
「よかった。
それじゃ、行こう。どこから回ろうか?」
「えっとね、えっとね……」
ソナタちゃんがはにかみながら指さした先は、やっぱブティック。
お目当ては、ショーウィンドウの黄色のドレス……『レモン・ソレイユのステージ衣装風コスチューム』だ。
「よし、じゃあ今日は、あれ着て遊ぼうか。
今日はイツカもいるから、いっぱい買い物しようね!」
「おい。」
カナタお前、さっきのしおらしさは一体どこやった。
やつは俺を荷物持ちにご指名すると、ソナタちゃんをエスコートして歩き出す。
まあ、積荷値は俺が一番あるからさ。適材適所ってったらそうなんだけどさ!
思わずむくれていると、ミライがおれも手伝うから、と背中を叩いてくれた。
そうだ、今日はソナタちゃんのための記念日なのだ。この程度のことでむくれるなんてばかばかしい。
俺は気を取り直し、ミライとならんで歩き始めた。
* * * * *
「じゃじゃーん! どう? 似合ってる?」
「おお! かわいいじゃん。似合ってる似合ってる!!」
試着してみれば、コスチュームはソナタちゃんにぴったりだった。
だけど、ミライ……はともかく、カナタまでなぜか顔が赤い。
「あれ? どうしたの、ふたりとも?」
「い、いや。かわいい。……たしかにすっごく、かわいいよ?
でもさ、その……ちょ、ちょっと胸元、みえすぎ……じゃ……」
「え、そっか?」
思わず見直そうとすると、すさまじい勢いで割り込んでくるものがいた。
それはゆでたように真っ赤な、いまにも泣きだしそうな顔のミライだった。
なんとやつめはこうのたまった。
「だめええ!! イツカのえっちっ!!」
「え゛……。」
その瞬間、そこらにいた全員の視線がおもに俺に集中した。
俺の頭からBP5というポップアップが上がるのが、試着室の鏡ごしに見えた。
「あっあわわ! ごめんねイツカ!
だ、だいじょうぶ、その、えっと……そこまではえっちじゃないから!」
「お、お、おう……」
そんなこともあったりしたけど、その後のお誕生日デートはひたすら楽しかった。
いっぱい買い物して、食べ歩きして、ミニゲームもして。
アトリエのある木立をのんびりさんぽしたら、最後に庭のテーブルで、でっかい丸いケーキも食べて。
そうして三時間後、ソナタちゃんはぴっかぴかの笑顔でログアウトしていったのだった。
今回のちょこっと紹介!
BP
とにかくダメージを与えるともらえるポイント。
・わざポイントとして使える!(回復系以外はだいたい必要)
・クラフトづくりにも!
・奉納でTPとアイテムに変えられる!
・10万以上貯めると魔物化が開始。見た目とステータス、技が変化(強くなるけど怖くなる)
・50万貯めると完全に魔物、モンスターとなってしまう(『魔物堕ち』)
・100万貯めると幻の特殊イベントが……?
積荷値
どれだけアイテムを持てるかを表す値。
STRとVIT、スキル『運搬』の値から算出される。
イージーモードだと、それ以上ものが持てないだけ。
ノーマルモードでは残り具合によって素速さが変化。超過するとHPの消費や、動けなくなることも。
マジックサックやマジックポーチは中身にかかわらず一律1と計算される。
『EXでかもふロップイヤー』
装備品/レア
ひざ下まで垂れる、大きな大きなもふもふのうさ耳。ティアブラ最大級のけも装備。
うさぎ装備としてのボーナス(聴覚、素早さ、跳躍)はMAX近く入る逸品。
これをつけていれば不意打ちはまず受けないレベルだが、反面そのデカさから持て余されることも。
なんか飛べそうだが、飛べない。セットのしっぽも大きめのモッフモフ。
2019/10/14
描写を整理し、『説明』を減らす形で改稿いたしました。
2019/10/17
BPのルビぬけを修正いたしました。
2020.02.27
ちょこっと紹介を付けました。