Bonus Track_27_5 あすへのやくそく~ミツルの場合~
おまたせしました――!!m(__)m(スライディング土下座)
この状況はすこしだけ、一年前のあの時に似ていた。
二人ともに、パイプ椅子に腰かけて。
間には透明な、けれど俺たちの力じゃ壊せない仕切り。
それでも今は、あいつはうつむきがちにでもこちらを向いていたし、俺もまっすぐあいつを見ていた。
この状況はすこしだけ、一年前のあの時に似ていた。
透明な仕切りの向こう、変わらない姿のあいつがいた。
けれどいまは、やつも俺も私服で、俺は両目を隠す前髪を短く切っていた。
そして俺たちの後ろには、誰もいなかった。
「伸び、たんだな、……その。背」
深く頭を下げられて、それを受け入れて。
そこから言葉を探していると、やつのほうから、口火を切ってくれた。
一年前と変わらない姿。天使みたいにきれいな、あの姿で。
けれど、ちらりとみせたまぶしそうな目は――
その表情は、ずっと大人びていて。
必要なかったのかもしれない、そんな風にも思う。
一年前なら、ここで黙り込んでいた俺。
けれど今は、それを確かめるためにも、口を開く。
「どう、してた。
この、一年」
「しばらくは、あの女のとこでメイド兼被験者。
もともと俺たちは、てかオレは、宿主候補として目、つけられてたらしいんだ。
午前は屋敷のシゴトして、昼からは研究所で憑依実験。
イザヤとユウは結局、普通の結果しか出せなくてメイド一色んなっちまったけど、逆に俺は安定して複数憑依が可能っぽいってんで、研究所に引き取られてさ。
……あとは聞いての通り。
『憤怒』をつけたら不安定になっちまって、半年くらいはああしてたっけな」
それを聞いたら言葉は、自然にあふれていた。
「戻りたく、ないか」
「え?」
「前に研究所にいた奴らに、新薬実験と偽って、3Sを憑けられて、……
その上のことであるって。明らかにされてる。
だから、戻れる。だから…………」
「俺は、殺そうとしたのに。魂を。お前の」
「あれは、俺が悪かったと思ってる」
「………………なんで!」
「お前を、甘やかした。
いい加減にしろと、言えばよかった。
何も言わず、あんなふうに切れるべきじゃなかった。
きちんと話せばよかった。
そのうえで解散なら解散と解決すればよかった。
そうすればお前がグレる前に止められた。
そうしなかったのは……俺が、お前に執着していた。そのせいだ。
俺は自分を甘やかしていた。甘やかしてでも、お前といたいという自分を。
だから、悪いのは俺だ。お前を本当の意味で守れなかった俺のせいなんだ。お前が全部捨てる羽目になったのは。俺が守れなかったから。ごめん。ごめ……」
息が苦しい。過呼吸だ。
胸元を押さえていると、懐かしい声がした。
「ミツル落ち着け。大丈夫だから。
まず、息を吐いて。吐いて、吐いて、全部吐いたら吸って……」
高天原に入ったころ。試合前にはよく過呼吸を起こしかけていた。
そんなときはこいつがこうして、声をかけて、背中をさすってくれた。
そのことを思い出すと、急速に呼吸が落ち着いていく。
「お前は、守ろうとしてくれたよ」
そしてそこに、優しい声がかけられた。
顔を上げれば、あの頃のような笑顔。
「お前は、お前なりの最善を考えてそうしたんだろ。
お前はいっつもバディの安全を優先するやつだった。そして正直だった。
あの試合で切れたときだって、嘘と打算でそうしたわけじゃないんだ。
……今ならわかる。
ありがとう。本当に、すまなかった」
「カケル!」
頭を下げたやつ。その名を、俺は呼んでいた。棄てられた名前を。それでも一日たりとも忘れたことのない名前を。
カケルはしかし、顔を上げて哀しく笑った。
「けれど、オレはもう、戻れないよ。
『カケル』は、戦死しちまった。親父もおふくろも友達もご近所も、みんなそう思ってる。
そこにのこのこ帰ることはできないよ。
それも、バディに乱暴しようとした犯罪者として、なんて。
3Sが憑いていたなんてのは、言い訳にしかならない」
「それを変える方法を俺は知ってるといったらっ!」
俺は食いついた。そう、いまの俺は知っている。
ただ、仲直り、だけじゃない。
あの頃を『本当に』、取り戻すための方法を。
「……そこまでするほどのことじゃないって。
こんなこと、言っちゃいけないかもだけど。俺は今の生活、それなり気に入ってるよ。
お前たちのおかげで3Sとの関係も安定してさ。いずれ戦場に出られるんだ。本物のヒーローになれるんだよ。そしたら、新しい名前がもらえる。戦功しだいではα抜擢もアリだって。
そのほうがずっと、誰にとってもいいんだ。
だから、いいよ。
闘技場のてっぺんは、テンリュウと獲ってくれ。
もし『月萌杯』突破できる力があるってんならさ。イツカナ助けてやれよ。
たとえそれができるとしても、一年前に時間もどしたら、ここまでのあいつらのがんばりだってパアになっちまうじゃん。
……いいんだよ、俺はこれで。
お前は守らなきゃだろ。テンリュウも、イザヤとユウも、それと、ユゾノのことも」
「そっ……!!」
「早く楽曲コラボやってやれよ。そしたらさ、……
オレも彼女たちのステージ。見れると思うんだ」
カケルはニッコリ笑った。ちがう、それじゃ足りない。
「俺は、そこに、カケルもいてほしいっ!!」
おれの目の前に立ちはだかる、透明だけどぶ厚い、ぶ厚すぎる壁。
どけ。どいてくれ。そこにあったら、カケルを引っ張り出してやれない。
両手で全力で押しながら、俺はカケルに叫んだ。
カケルは、あの時のように笑った。
「わかったわかった。ちゃんと見てるって。
……お前がαになって、戦場に出たら。
その頃には俺も償い終えて、αにもなってるはずだから。
そしたら、語り明かそうぜ。な。
テンリュウも一緒でもいいし、二人でも。
どうせなら、ヴァルハラのてっぺん獲ろうぜ。夢は大きく! な?」
そうして壁ごしに、俺の手に手を当ててくれた。
感じるわけなどないのに、ほのかに暖かく感じた。
「約束、だからな」
「ん。やくそく」
そうして、面会時間は終わった。
面会室を出ると、アオバが待っていた。
ふさふさの猫耳が倒れたままの、心配そうにしか見えない顔で言うには。
「ステージ。……見てくれるって?」
「早くやれって言われた。
闘技場のてっぺんは、アオバと獲れって。
αになったら、アオバも一緒でも二人でもいいから語り明かそうって!」
「……そっか。そっか。
できたんだな、仲直り」
「うん」
そう伝えると、やっとアオバはほっと笑ってくれた。
次回新章突入! 昇格試合をボナトラという安定のパターン、の予定です!
どうぞお楽しみに!!




