27-7 ニノの決意、そして
まさかのことに疲れもぶっ飛んだ。
人気の高いαプレイヤーが、ミッドガルドの運営キャラになるのはよくある話。
だがニノはまだ二ツ星。それが巨大グループのトップに。実現したなら、前代未聞のシンデレラ・ストーリーと言ってよかった。
当のニノはというと、復活した瞬間にヘッドハントの知らせを受けてびっくり仰天。
それでも『まずは話を聞いてみる』と、ミソラ先生も立会いの下で、ビデオレターを開封することとしたのだった。
学長室内の会議室、こよみん事件の時に集まったあの場所に、おれたちは集まった。
『うさねこ』トップとして、仲間としてのおれとイツカ、アスカとハヤト。
本人であるニノと、バディであるイズミ。
そして、ミソラ先生の見るまえで、動画の再生は始まった。
画面の中にはそうそうたるメンバーが揃っていた。
イェリコさんやその部下さんたち、ノルンの町長、チボリーさんをはじめとした『街の顔』というべき人たちが何人も、きちんと正装して立っていたのだ。
そして彼女たちは、この上なく丁寧に頭を下げてきた。
『イースト・パラダイスグループは、地元の経済を支える大企業。それが突如空中分解してしまえば、ノルンの街やまわりの町村にも混乱が広がることとなるでしょう。そうなれば、いまや西一番の名士となったチボリーさんにもご負担がかかることとなってしまいます。
ノルンの人々の人気も高く、女神ルーレア様にも信頼されるニノ様でなければ、とてもこの状況をまとめることはできない……
それゆえの、無理を推してのお願いなのです。
本当に、できる範囲だけでいいのです。どうか、どうかお願いします!』
動画が終わってしばらく。ニノは、じいっと黙り込んでいた。
隣に立つイズミも黙ったまま、そっと相棒の腕に手を触れている。
やがてニノは静かな声で、問題を整理し始めた。
「俺にとって、ノルンは第二の故郷だ。
その混乱を防ぐために、力になれるならなりたい。そんな気持ちはすごくある。
それでも、対『月萌杯』のアイテム開発に加わると先に約束していた。『プロジェクト・シープ』と『ひとくちシリーズ』だってまだほうってはおけない。新しいうさぎまんも、一日も早く形にしたい……
そこを、どうするかだ」
「『とにもかくにもやっちまって、後はそれから』でいいと思うけどな、俺は」
するとイツカがいつものように、スパッとひとこと言い切った。
「これはニノじゃなきゃ、今じゃなきゃできないことだろ。
俺たちが『月萌杯』突破を目指すのとおんなじだ。
もちろんニノにも手伝ってほしい気持ちはすっげぇあるけど……
俺たちは『みんな、みんなを幸せにする』んだ。
だってのに『月萌杯』のためだけに、チコちゃんたちやニノを幸せから遠ざけたら、そりゃ本末転倒だ。
だからさ。やってくれよイーパラの名誉会長。
で、名誉会長として、新しいうさぎまんを作って、手の届かないとこは頼ればいい。
俺は、そう思ってる」
アスカもぴんっとうさ耳を立ててニッコリ笑う。
「さんせーいっぴょー!
とりあえず引き継ぎは頼みたいけどさ、あとはおれらで全力でなんとかするよ。
つか言っちゃなんだけど、ガチにかいちょー! ってんじゃなくて、お祭りとかで喋ったりする『イベント大使』みたいなもんじゃん? サイアク台本書いてもらえりゃ、替え玉は出せちゃうし、ぜんぜん行けると思うよん。
もち、そんなじゃ納得行かねえ! てなら無理強いとかじゃないからね?」
ハヤトは大きく頷いている。おれもおんなじ気持ちだ。頷いて賛意を示す。
つまり、おれたち四人としては、否はない。
しかし、ニノ本人はまだ少し迷っている様子。
その時声を上げたのは、ミソラ先生だった。
「わたしの知識と経験から言えばね、こういうのはタイミングが大事だよ。
いまだけ、顔だけ、名前だけでもいい。それだけで、皆の気持ちは全然違う。
『現状は学業が忙しくて、最低限しかできないけれど』。その一線をはじめからハッキリと引いて始めればいい。
ほかでもない、君の気持が一番スッキリするのは、その道なんじゃないかな?」
学生時代のミソラ先生は、天才軍師として現役時代、幾多の戦功を上げている。
しかし、その後の現地の立て直しもきっちりやれなければ、『心優しき銀河姫』などと呼ばれはしない。
そんなミソラ先生がぱちんと片目をつぶってみせれば、ニノは静かに両目を閉じた。
一秒、二秒。やがて金青の目が開けられた時、そこには決意の光があった。
「……そう、ですね。
そうしなかったらきっと、俺はすごく後悔する。
でも、でしたらひとつ、出させてもらいたい条件があるんです」
いつの間にか、イズミとしっかり手を取りあっていたニノ。
二人うなずき合い、言い出した『条件』に、その場の皆が笑顔になった。
『高天原卒業まではイベント大使的に、最低限の式典に顔を出す程度の活動となる』。
『バディのイズミもサブとして登用』。
『自分たちなどいらないほどにノルンの街が持ち直せば、ともに辞任する』。
それらの条件は、すべて快諾され……
ニノは相棒イズミとともに、イースト・パラダイスグループの名誉会長・副会長として就任することとなったのであった。
週末には再びノルンの街を訪れ、式典に出席。
そこで、褒章とともにポストを拝命する。
女神ルーレアの祝福も、その時授けられる予定だ。
これは、今回の功労者であるおれたちも同様なのだが……若干不吉な予感がしないでもない。
「すごいじゃんニノ、イズミ!」
「マジにヤンエグなっちまったなオイ!」
「おめでとう!」
「いや、『名誉』! あくまで『名誉』会長だからな?
ぶっちゃけほぼほぼマスコットだから!!」
ともあれ学長室の扉の外、待ち受けていた皆とまじってわちゃわちゃしていると、聞き覚えのある咳払いが聞こえてきた。
ちょっぴりだけ疲れた仏頂面でやってきたのは、いつもの黒の着流しのノゾミ先生だ。
「廊下で騒ぐな、お前たち。
さきほど、『虚飾』『強欲』の説得が終わった。
……ミツル」
「……はい」
その意味するところはただ一つ。
ミツルと、名前を消されたもとバディの再会が叶うという事だ。
ついに、ついにだ。
学長室前は一転して、静けさに包まれた。
いつもありがとうございます!
次回、やっとここまできた……ミツルと元バディ君の対面です。お楽しみに!




