27-6 ニノ、ヤンエグになる?!
思い返せばきっかけは、イツカのあの一言だった。
『ノルン旧坑道のイベントってまだ続いてるのかな?』
おれとイツカを『月萌杯』突破者とするためのプロジェクトが動き出してすぐ、われらが『うさねこ』は強化合宿を計画していた。
目的は、主に一ツ星クラフター陣の強化。いわゆる『元・トラオ被害者の会』――クレハ、チナツ、ハルオミ、フユキ、レン――プラス、チアキの六人を二ツ星にすることで当番から解放。『月萌杯』のためのアイテム開発に参加できる時間をつくることだ。
そのため、各人のけも装備などにあわせて合宿地を考えているとき、ふいにイツカが言いだしたのだ。
『え、なにそれ?』
『いやだってさ、おかしくね? あすこ鉱脈枯れたとかいってんじゃん。
イベントでもないのに、ゲーム内の鉱脈が尽きるわけないだろ。
その奥の女神ダンジョンにも入れないって、完っ全にイベントだろそれ。
ニノたちの入るチームはさ、それやるのがいいんじゃね?』
『え……』
『あそこにイベントなんかなかったはずだぜ?』
イズミ復学のさい、ミソラ先生もその情報はつかんでいた。
ゆえにそのことは気にしており、それが今回の3S確保、コピーうさぎまん事件の解決につながったというわけだ。
西坑道を取り戻したノルンの街は、これからますます栄えることだろう。
もっともまずは、イースト・パラダイスグループの件をどうにかしないといけないけれど。
しかしそこからは、ミッドガルドの問題となる――つまり、おれたちに手出しができる範疇を超えている。
だからおれたちは、当初の予定通り、女神ルーレアに加護を賜り、試合をこなし、開発と鍛錬の日々に戻る。
3Sの件が落ち着いたら、ミツルと元バディの面会をセッティングして、あとは『月萌杯』めざして一直線だ。
そのときは、そう考えていた。
まさかあんな申し出がされるなんて、夢にも思わずに。
* * * * *
あれからルカとルナが歌い終え、つづいておれたちも歌い終えると、アスカからメールがきていた。RDWでの捕り物、無事終了と。
ほっとしながらアンコールまでを終えると、おれたちは一旦ログアウトした。
朝、RDWのお菓子工場見学に行って、『マトリョーシカ式にせうさぎまん』に対面。
慌てて逃げようとする『虚栄』を、ちょうど跳んできてくれた先生たちとともに捕縛。
ラビットドリームキャッスルへ移動しながらの、ニノによる尋問。支配人室前で『強欲』に挑戦状をつきつけられ……
来場者たちをパニックさせずに外に逃がすため、突発空中ライブ開催。
全て終わってログアウトすれば、リアルでの時間もまだ、昼すぎだった。
しかし、昨日今日と授業を休み、内容の濃いプレーを長時間続けていたおれたちにはすっかり疲れがたまっていた。
そのため、とりあえず三十分ほど仮眠。学食で食事をとりつつ『あること』について決めたら、メンテは明日午前に回して、今日はもう休むことにした。
『あること』とは、明日の試合とライブのことだ。
明日は金曜で、定例学園闘技会がある。
今回のミッドガルド行きは急なことだったので、おれとイツカ、ルカとルナは試合とライブの予定をいれたままだったのだ。
ミソラ先生にはそれらも公欠あつかいでキャンセルにしていいとは言われたが、ドタキャンとなるとやはり申し訳ない。
ルカとルナも同じ気持ちだったようで、次週のライブをあの空中ライブの動画配信にしてもらう事で、今週は何とか予定通り頑張ることにしたのだ。
クレハたちの昇格試合も、ぜひとも最前線で応援したい。昇格祝いもかねて土曜は、ソーヤプレゼンツ『まぼろしの南国メニュー尽くし』ランチ会。ここはふんばりどころである。
『強欲』を説得するためにとログインしているノゾミ先生にはちょっと悪い気もしたが、ライムの入れてくれたミルクティをゆっくり飲んで、リビングのソファーでぼうっと過ごしていた、その時だ。
携帯型端末に同報メール。アスカからだ。
「えっとなになに……は?!」
「え……う、うそうそ!」
ソファーの向かいの席でイツカが、横手の席でミライも驚きの声を上げている。
「ニノがイースト・パラダイスグループの名誉会長に推されてるだって――?!」
ブックマークありがとうございます……なんてことだ、信じられんです……よし、ちょっと水飲んで踊って来よう(※ダンス下手です!)
次回、落ち込むニノと元気づけるイズミのボナトラです。お楽しみに!




