Bonus Track_26_4 ニセ闘技場のラビットハント!~ケイジの場合~
「ここって……」
「学園、闘技場……?」
連れられて行った先には、見覚えのある、ありすぎる光景が広がっていた。
そこは、オレが毎週のように剣を取ってきた場所とうりふたつ。
視界の隅にうつる数字は、ここがカジノ・イーストパラダイスとほぼ同じ緯度経度であることを示している。
もっと正確に言えば、カジノ本館に併設された、闘技場と。
しかし、あそこはもっと華美だった。
ということはここは、文字通りの地下闘技場というわけだ。
アングラ闘技場なんていうと、もっと血なまぐささを期待させる造りと思っていたのだが、拍子抜けしてしまう。
ユキテルもおなじ感想を抱いたようで、おれたちは顔を見合わせた。
そこに飛んでくる、バカにした声。
「っなワケねーだろォ? おまえらみたいなカジノ狂いの犯罪者どもは高天原なんざいけねーよ!」
レイジは満場のギャラリーに手を振りながら、鼻で笑った。
どうやらやつは、ここでのアイドルであるようだ。レイジ、やっちまえ、とさかんに声援を浴びている。
「お前ら無駄にイケメンなんだし、もっと上に行けたはずなんだがな~。
ま、こうなった時点で中身はお察しってな。
見てくれだけのクズ野郎は、高天原なんざ一生いけやしねえよ!
せめてここを学園闘技場と思って、華々しく散りな!」
その言いざまにむかっ腹が立ってきた。
こいつはここで、何人もの冒険者たちをこうして馬鹿にしてはボコってきたのだろう。なかには、イカサマでハメられた人だっていたはずなのに。
そのことは、観客席から降り注ぐヤジからも推測される。
この試合、負けても構わない。とにかく身の安全を第一にと先生からは言われていたが――オレはことばのジャブを放っていた。
「『もっと上』に行けないのはアンタも同じと思うけれどな?」
「はーァ?
お・れ・は、上から来たの。天使様たちとおんなじよォ。見りゃーわかんだろ? この神々しいばかりのイケメンぶりをよ。
ぶっちゃけ高天原生なんかより俺サマのがゼンゼン強いぜ! おまえのモノホンちゃんだってヘっでもねえよ!」
するとユキテルがまあまあとオレの肩を叩いて……
「なるほどなるほどォ。
高天原生より強くってカッコイイのにこんなところで一般人狩りかァ。いやあカッコイイカッコイイ。まさしく『無駄に』イケメンてやつだ!
それともなんだ、あらたな女神ダンジョンはここですよってか? まー確かに西坑道からつながってるし間違いじゃな」
「ちょっゆっきー!」
オレ以上の挑発をかました。それも、レイジの真似をして。
煽りすぎだ。おれは慌てた。
傭兵団長としての経験からわかる。あの手のタイプは煽りすぎるとむしろやっかいなことになる。
しかしユキテルは、鼻のつけねにしわを寄せていた。ほんもののわんこ同様、これもユキテルがガチで怒っているときのサインだ。
陽気でやさしいユキテルがこんな風になるのは、決まってオレがバカにされた時。
そっと腕を叩いて、ささやいた。
「平気だからオレだったら! それ以上は挑発しないで!」
「でも……」
すると、レイジは噴き出した。
「『平気だからオレだったら! それ以上は挑発しないで!』だってェ?
俺様をクズ冒険者風情とお笑いになろうとなさったお犬様が!
いやあケッサクだねえ! まったくケッサクだ!!
きいろちゃんはハイイロちゃんの盾になり? ハイイロちゃんはきいろちゃんのストッパー? うっわぁ、まさしく劣化版『S&G』じゃねーかよ!
モノホンはついに債務奴隷脱出しちまったし、お前ら代わりにやられろよ。
パチモンわんこのラビットハント、はっじまっりだァ!!」
歓声が爆発する。
レイジが高々と抜刀すれば、合わせるようにゴングが鳴った。
ラビットハント。
それは、追い詰められる選手の姿を楽しむ目的で仕掛けられる、質の悪い無理ゲーバトルだ。
攻略法は、必ずある。しかし、その難度は馬鹿みたいに高い。
理事会はその存在を否定しているが、実質として存在していたクソゲーである。
オレが入学したあたりは一番酷いころで、心を病んでそのまま放校になった無星たちが何人もいた。
かくいうオレも、ユキテルが放校になってしばらくはボロカスにされた。
レイジとの戦闘は、まるでその頃の再現だった。
ユキテルの『レトリーブ』でも追随しきれず、次々斬撃をもらってしまう。
奴の反射神経とパワーは、オレたちをはるかに上回っていたのだ。
黒の胸当鎧と片手半剣は特注の上物のようではあったが、けしてそれ以上ではなく……
さらには、『ティアブラ』プレイヤーならだれもが装備している、最強カテゴリーのアイテム『けも装備』すらつけず。
それどころか、スキルそのものを使ってくる気配もない。
というのに奴は、一人でおれたち二人を圧倒していた。
「ゆっきー正面から行くな! オレがっ!」
オレはワイマラナー装備の専用スキル『グレイ・ゴースト』を発動。
これによってオレの姿は不思議と視認しづらくなり、回避力が倍加される。
強敵相手にかき回すにはもってこいのスキルだ。
このスキルと、ユキテルの残してくれた装備。
そして、絶対ユキテルを救い出すという誓いが、オレを逆サイドへと回らせてくれた。
一時は『狂犬』などとさえ呼ばれながら、オレは闘技場のランキングを駆け上ってきたのだ。
「オイオイオイ! グレゴーってたしか回避スキルだよなァ? 全っ然当たってるんですけどォ?」
それでもなお、レイジの攻撃は浅く深く、オレの身を斬りつけた。
レイジは嘲笑しながら、ますます調子づいて攻めてくる。
そして、言った――
「モノホンちゃんだったら避けれてるんだろうねえコレー。
あーあー、パチモンわんわんちゃんは無力でちゅねー?」
――言ってくれた。
オレは、にやりと口元をゆがめた。
「当たってるって、何が?
いつからこのオレが、ホンモノだって思い込んでた?」
「…………は?」
もちろんこれはハッタリだ。奴の剣が斬りつけてるのはホントにオレだ。
しかしオレは『ひっかかったな』というように笑みを深める。
「その見てるモノが。手に届く感触が。耳に届く音が。
いつからすべてホンモノだなんて思い込んでいた?」
ぶん、としっぽを振って見せる。それは、ユキテルへの合図として。
そうしてオレは、言葉を、剣撃を連ねる。
「甘いんじゃないか? 甘すぎなんじゃないか? お前の仲間はなんて奴だ? そいつはここで何をしている?」
「てめえ、テキトーほざいてんじゃねえぞ! きっちしダメージポップアップあがってるだろうが、あァ?」
「それじゃあ、しっかりと見ればいいさ!
こいつがホンモノの……」
ニヤッと歯をむき、パワーチャージ。
反応したレイジが怒声とともに突きにくる。
オレが必殺技をはなったときに、それごとオレを貫くつもりだ。
これでいい。タメたパワーを脚力に回し、大きく大きくジャンプした。
奴の目には、オレが完全に消えてしまったように見えていることだろう。
それでもしゃにむに突きにいく奴は、むしろ自分から突っ込むことになった。
オレの影に隠れ、タイミングを合わせてチャージしていたユキテルの必殺剣に。
「『シャインスノーファング』ッ!!」
驚いたような顔で連撃を受ける奴の頭上から、オレは飛びかかる。
ちょうど、さきのテストバトルでイツカがユキテルにしたように。
しかし、オレが放つのは決めの一撃だ。
次々上がる、大きな赤ポップアップの間をすり抜けるように降下しながら再度のパワーチャージ。
奴の首筋をねらって渾身の一撃!
上がったのは、クリティカルの大きなポップアップ。やつはがくりと膝をついた。
しかし、ゴングは鳴らなかった。
奴も倒れることなく、肩を震わせ笑い始めた。
「あー、いってェいってェ。
おい、見てんだろ。チカラかせやヒーローさまよ。
こっからが本番だ子犬ちゃんども!!
あと、のこり七分間!! 泣いて後悔させてやっから覚悟しな!!」
その背中に、白くつややかな翼が姿を現す。
立ち上がったレイジは、あいつ――かつてのミツルのバディとすっかり同じ姿になっていた。
……け、けっして収まらなかったわけでは……(ry
次回! 今度こそ真ヒーローの登場ですっ!
満を持してあの人登場! 誰が来るのか、お楽しみに!




