Bonus Track_26_3 潜入、アンダーグラウンド~ケイジの場合~
2020.06.30
ミツルのバディと→ミツルの元バディと
アオバと混同する危険があるのではと考えたため、明記致しました。
これはゲームだ。わかっていても、気は滅入る。
暗い。狭い。うっかり大声も出せない。
監督官を務める男に、あらかじめ言い渡されていたからだ。
『変な気は起こすなよ。この辺の岩盤は比較的ゆるい。下手に大声だしゃ崩れるし、必殺技なんざ使ったら全員生き埋めだからな!』
俺様以外はな! とそいつはでかい声で笑った。
いろいろと残念な監督官に監視されつつ、『同僚』たちにまじってつるはしをふるった。
ぶっちゃけ暗くて狭いところは好きじゃないので、どうしてもしょっぱい顔になってしまう。
けれど、これはこれでちょうど良いのだろう。
おれたちはまんまと、作戦に王手をかけたのだ――すなわち、ミソラ先生が予測していたこの場所に潜入することができたのだから。
『一言で言えばね、あすこのまわりはちょっとおかしいんだ。
冒険者プレイヤーの破産が増えすぎてる。
比率も、金額も、ほかのカジノと比べて突出してる。
当事者たちは東坑道などでの『アルバイト』で賄えてるって言ってるけれど、とてもそんなもんで埋めきれる額じゃない。
つまり、ヤミ坑道やそこにつながる部分が絶対にあると見なければ合わないんだよ。ゲームとして設定されてる以外の奴がね』
ミソラ先生がエルカさんに頼んだもののなかには、二人分の偽造アカウントがあった。
すなわち、Bランク冒険者『ジェイ・ケイ』と『テル ユキ』。
おれたちはこれを使ってミッドガルドにイン。イーストパラダイスを訪れ、ビギナーズラックですっかりカジノにはまった演技をし、その足でRDWのアルバイトスタッフ採用試験を受けたのだ。
こうみえて体力コミュ力には自信がある。ハキハキと受け答えをし、ケイジとユキテルの『真似』と足の速さとを披露すれば、特に問題もなく採用された。
『仲間によく似た赤の他人』としてイツカたちとお近づきになり、そのうえで、鉱山送り確定の不祥事を起こした――すなわち、やつらのカジノチップを勝手に溶かすという。
事務室に連れられて行ったオレたちは、待ち受けていた男たちによって袋詰めにされた。
どこかの扉があく音、かつんかつんとよく響く足音、『降りてゆく』感覚。
そして、どさり。固い地面に投げ出され、袋の口があけられればそこは、うすら暗いトンネルの中。
監督官だという細身の男に、変な気は起こすなうんぬんと言われ、追い立てられていった先は、枯れたはずの旧坑道だったのだ。
なぜ、そうとわかったのか。オレたちの装備しているアイカラーにつけられた効果ゆえだ。
エルカさんから貸与されたこいつには、『現在地の緯度経度をティアブラ内であればどんな状況下においても取得することができる』というシークレット機能がつけられている。
おもに実プレーでのデバッグのために使われる、それの効果は絶大。
連行されるオレたちの視界にはやがて、見覚えのある数字が姿を現しはじめた。
『傭兵団長』なんてものをしていたおかげで、数字を覚えることには自信がある。それゆえはっきりと言えるのだ。
おれたちはこの数字を見ていると。
そう、ニノを先頭にして、旧坑道の再調査をしたときに。
――これが、きのうのこと。
もちろん今日のログインでも、あたりはやっぱり狭くて暗い地下空間だ。
ため息をつけば、ユキテルもやはりしょっぱい顔をしていた。
「なあ、おまえたち、マジに『シルバー&ゴールド』じゃないのか?」
「いやいやー、そんな似てますか俺たち?」
「あとでまた物真似やりますよ、なっゆっきー!」
声をかけてくる『同僚』たちに如才なく返す。
そうしてつるはしを握った、その時だった。
「おい、新入り」
きた。監督官が声をかけてきた。
「しっけたツラしてんなァ、イケメンのクセによ。
どうだ、もっといい儲けが出るオシゴトやらしたろっか?」
「内容によりますけど……?」
「お、選択の余地があるとでも?
お前らの稼ぎを報告するのは誰だ?
……俺と闘ってくれや。おまえらニコイチで構わねえ。
ギブはいつでも言っていい。だが10分持ちこたえたら10万やンよ。どうだ?」
監督官はぽん、と腰に佩いた剣を叩いてニヤリ。
「名前、聞いていいっすか」
「名前? ンなもんはねえが……
そうだな、レイジ。レイジとでも呼べや」
ミツルの元バディと同じ顔をしたそいつは、繊細な美貌をニヤリと歪ませ、くいと親指で背後を指した。
最初は二日目働きはじめたとこでもうどばーんと助けが来ちゃう予定だったりしました。まじか。
次回、90%の確率でバトル! お楽しみに!!




