25-7 いぬねこうさぎの反省会!
「はーやれやれ。怪我の功名っていうかなんて言うか……
『レトリーブ』なかったらオバキル確定だったねあれは。おれも一瞬ヒヤッとしたよー」
そういいつつもアスカは、この事態を予測していた様子。
なぜなら、さっきのバトル。あらかじめアスカがレフェリー権限で『SBモード』に変更してくれていたからだ。
万一の事故でトラウマを負う事態になったとしても、『SBモード』ならその部分の記憶だけを消したり、精神的ショックを和らげることもできる。ゲームならではの便利機能だ。
もっともその機能のお世話になることは今回もなかったけれど。
全員驚きはしたが、それだけで済んだ。
ハヤトと二人でスポドリと蒸しタオルを配ってくれつつ、アスカは脱力した顔だ。大きな白いうさ耳も、めずらしくへたんと倒れている。
「…………。」
一方のハヤトは無言で厳しい表情。それでも、グレーの狼耳としっぽはあきらかに垂れている。
止めればよかった、と思っているのだ。
言っても止まらなかっただろうことも、これが『ゲーム』ということもわかった上で。
「わりぃみんな。ドジっちまった。ごめん。
肝心なとこで、いつものクセがでちまった」
イツカも今回はと思ったらしく、殊勝な態度だ。もちろんおれも同じ気持ちだ。
「悪いのはおれのほうだよ。
オーブを再装填したとき、おれが気づくべきだった。そして止めるなりすればよかったんだ。
ごめんなさいみんな」
「えーっと……これはかるく気にするなっていっちゃダメな雰囲気かなー……?」
ユキテルがうーん困ったなぁと言う顔でほっぺたをポリポリ。つとめて雰囲気を明るくしてくれようとしているのだ。
「あのさ。
いまはクビになっちまったけど、もと傭兵団長として、言っていいかな?」
その傍らでケイジが、青い瞳を優しくして言ってくれる。
おれとイツカがうなずくや、ぱんっ。小気味の良い音を立て、おれたちの肩に力強い手が置かれた。
「新しいことやってりゃ失敗はある! むしろよく今トライした!
これを活かして仕上げていくぞっ!」
「は、はいっ!」
太陽のような笑みと元気全開の大声。つられて返事をすれば、うじうじした気持ちは吹っ飛んだ。
アスカとハヤトの耳しっぽさえピン、と立ち上がっている。
正直言って、すごい。これが、傭兵団を率いた男の実力か。
そう思っていると、ケイジは照れくさそうに頭をかいた。
「……なんてこれ、ゆっきーの受け売りなんだけどな」
すると、とうのユキテルはそれを否定する。
「え、さいしょにこれ言ってくれたのケイだぞ? 俺としてはケイの受け売りだったんだけど」
「えっマジ? いつ?」
「ほら、あれはたしかえっとー……」
言い合う二人は本当に仲がよさそうで、なんだかホンワカしてしまう。
イツカも同じ気持ちだったようで、ふんわかした笑みで言い出した。
「俺がいうのもなんだけどさ。
二人は無理に離れてバディ戦する練習しなくてもいんじゃね?
両方前衛だからF&Fもやることないしさ。
それでもなんかアホな企画きたらさ、お互いみえるところで1on1やってるんだと割り切りゃいけるだろ。二人のチカラならさ!」
するとケイジとユキテルははっと顔を見合わせた。
「その発想はなかった……」
「いーねーそれー!
サンキューイツカー! さすがは噂の『ラビハンハンター』、発想がマジで斜め上だー!!」
ユキテルは陽気に笑ってイツカをわしゃわしゃ。さらに流れでケイジもわしゃわしゃ。
「いやおいゆっきーなんでオレまで?!」
「ほかの子モフったらケイもモフモフと法律で定められてるからな!」
「どこの法律だよ一体!!」
「というわけでさっそくイツカに恩返しといくかー!
俺としてはさ、発想自体はいいと思うんだ!
さっきのアレだって、ふいに『予想外の速度』出ちまったからイツカビビっちまったわけだろ? だったら『予想外』じゃなくすればいい!」
そして返す刀(?)でさっそくアイデアを出してくれた。
すこしやわらかい雰囲気になったハヤトも乗り出してくる。
「具体的には?」
「ハヤトが抱えて全力で走る!」
「………………は?」
が、突然のご指名にボーゼンだ。
ユキテルはニッコリ。弾む声で理由を続ける。
「そもそもイツカは反射神経化け猫クラスじゃん。さっきだって、オーブとのランデブーきっちしやれてたし。
ならばあのスピードに慣れちまえば、ちょっと目算狂っても行けると思うんだ。
だから、アレ以上のスピードにイツカを慣らす!
そりゃたしかに車とかはそれ以上のスピード出してるだろうけど、飛んだり跳ねたり自由にはできないだろ? むしろヴァルハラフィールドで誰かにぶん回してもらった方がずっと実戦に近い。
イツカは体格の割に重いけど、ハヤトなら充分抱えられるはずだし、狼装備の走力修正フルに活かせばかなりのスピード出せるはずだ。慣れてきたらアスカの神聖強化でギアを上げて、オーブ+スキル+強化の三倍くらいまでがんばる。
その一方でイツカとカナタは『ぴょんぴょんブーツ』使って何度もバトって、『イツカの踏み込みには斥力が発生する』ってことを体で覚えてく。
そーすりゃスキがないと思うんだが、どうだろ?」
「おー! なんかおもしろそーだな!!」
イツカはノリノリだが、ハヤトは慎重だった。
「『非覚醒状態のイツカをこれまで以上のスピードに慣らす』『そしていざという時のリカバリー力を養う』。
これはやらなきゃならない課題だ。だから『イツカを抱えてラン』はやる。俺の鍛錬にもなるし。
だがさっきのバトルを見ていて思ったんだが、この時期になってバトルスタイルをガラッと切り替えるのはどうなんだ?
イツカとカナタのスタイルは独特だ。ほかの奴らにはまず真似できないし、逆にこの二人がそれをやめようとする場合も、負担は多大なものとなるはずだ。
それこそ、ケイジとユキテルのように、いまの強みを活かす方がいいんじゃないか?
ブーツの使用はカナタぬきでのバトルに絞ることを提案したい。それこそ、二人が互いのバトルを『お互い見えてる場所での1on1』と割り切って戦えるレベルになるまでわっ?!」
『おー。なーんかおもろそーなハナシになってるじゃーん!
なになに、ライカちゃんにもくわしくおせーて!』
そのときハヤトに後ろからむぎゅっと抱きついた者がいた。
音もなく姿を現したのは、ねこみみ装備のライカだった。
わんonわん……なんでもございません。
次回! なんでここまでライカがおとなしかったのかが判明! お楽しみに♪




