25-5 思ってたんと違う・続!
状況を整理してみよう。
昨日ミッドガルド・サウザンドシーにて実施された強化合宿、通称『海合宿』。
そこでチナツは女神クレイズ、彼女の眷属たる神獣たちから気に入られ、召喚チケットを賜った。
昨日召喚された神獣、大猿のターラさんによれば、大イノシシさんはさがしもの、探し人が得意だという。
実はいま、ミツルが人探しをしているのだが、これがなかなか見つからない。
どうせならということでお願いすることにし、いましも大イノシシさんが召喚されたのだ……が。
「いかがされましたか、ご主人様」
目の前で眼鏡を直している存在は、ビシッとしたビジネススーツに身を包み、長い髪をきっちりと結い上げた、生真面目で几帳面といったふうの妙齢の女性である。
あえて言うなれば、テンプレ的な『お嬢様の家庭教師』とでもいうような。
「え……ええっ?」
そう、チナツに猛然と突進してきたという(婉曲表現)、巨大な獣の面影なんてどこにもないのだ。
おかげでチナツは昨日とは別の方向でキョドっている。
「あ、ああの……あ、あなたさまはほんとうにあの、大おイノシシさまで……?」
「今のわたくしはあなたのしもべ。それに『お』や『さま』などは不要でございます。
どうぞご命令を、ご主人様」
「あー……えっと、はい……その……」
ぎこちない沈黙をブッこわしたのは、ヴァラさんの同僚のターラさんの出してくれた助け船だった。
「ヴァーラちゃーん、そんなに気を使わなくてもだーいじょーぶ!
むしろチナチナのが気にしいだから、おねーさんのほうから肩の力抜いたげてー?」
「ふぴゃっ?!」
後ろに回り込んで肩もみもみ。不意をつかれたらしいヴァラさんは、別人のような可愛い悲鳴を上げた。チナツが鼻をおさえる。
「ほーうほーうチナツさんは年上お姉さまのギャップ萌えがお好きか~」
『いよっ、青少年!』
アキトとライカがニヤニヤとからえばチナツは真っ赤な顔でぴーとかみゃーとか言い出した。どうやら図星らしい。
しかし、無茶苦茶になりそうな場を収めたのもターラさんだった。
「はーいはい。チナチナお願いあるんでしょー? 早く言ってあげてー?」
「そ、そそそうでした! あの、人探し! 人探しをお願いしたく!!
おれ、いやワタクシの仲間が昔の仲間を探してましてっ!!」
ヴァラさんとチナツ、アオバとミツルはさっそく打ち合わせに入った。
おれとイツカは、ハヤト、アスカとともに闘技場に向かう。
「おー、きたきた!」
「ブース取れてるぜ。どっちからやる?」
エントランスにはケイジとユキテルが待っていて、ニコニコと手を振ってきた。
手を振り返し、小走りで合流すると、さっそくアスカが仕切った。
「そだねー。どーだろ、まずタイマンをハヤトと。つぎに金銀ズとバディ戦っていうので?
それぞれで動きが変わってくるからさー。
おれも遊びたいのはやまやまだけど、イツにゃんの体力はわれらが貴重な資源だからねー」
いいようはアレだが、まあ間違ってはいない。
たったの二か月半で最強になるならば、ひとつひとつのバトルすべてが大事な一手となる。
「えー、俺だったらだいじょぶだぜ? ポーションだってもう飲めるし!」
「ようし、イツにゃんにはあとで、おれの新型イリュージョンボムの被験者になってもらおっかなーん? もちろんシミュレーションバトルモードでいいよん☆」
「おい。」
ハヤトが心なしか青い顔でアスカを制止した。
ケイジとユキテルも顔色が悪く、イツカもあれ? 俺言っちゃった? という顔になる。
それを見てアスカはニンマリだ。
「もしもエルエルが相手になった場合は、高い確率でイリュージョンが来るはずだ。
耐性つけとくにこしたことはないんじゃね?
まーともかくまずはハヤトとだねー。楽しんどいで♪」
そんなわけで始まった、イツカVSハヤト。五分制限の一本試合だ。
イツカは初手で斥力ダッシュ。ハヤトのふところへ飛び込んだ。
ハヤトはライカを構え、おちついた仕方で初撃を受け止める。
そのまま叩き付けようとした刀身は、しかし空を切った。
すでにイツカは上空へ。身軽に空を蹴って飛び回り、ハヤトを翻弄しはじめた。
「おーう! こりゃーラクできるねーカナぴょーん!」
「おいおいマジか……オレたちの試合の時以上じゃないかよ……!」
アスカが手を打ち、ケイジが驚きあきれる。
ふたりとも、このイツカのアクションを対戦者として見ている。
そのときには、おれが『溶岩の林』を作り、おぜん立てをした――しかしそのとき『林』は邪魔にもなった。
ボムやポーションをイツカに投げるタイミングも絞られたし、ケイジが覚醒した時には、ケイジから発生した衝撃に吹っ飛ばされ、もろに背中から叩き付けられた。
けれどこれなら、その心配はない。
また、斬撃の連発などでおれとイツカの間を遮られると『斥力のオーブ』を飛ばせず、虎の子の『ムーンサルト・バスター』を最大威力で使えないことも懸念材料だった。
しかしこれなら、そうした心配はない。
イツカは終始有利に制限時間五分を暴れまわった。
「まったく、こう飛び回られたら手が付けられないな」
「何言ってんだよ、当たったじゃん『グランドスラム・改』!」
「それはしょっちゅうやってる俺だからであって、そうでもなければ厳しいぞ」
ログアウトした二人は楽しそうに語り合う。
いい加減慣れてきたとはいえ、やっぱり胸のお餅がやけてくるレベルの仲睦まじさだ。
それはもちろんアスカもで、二人の間からやたらてきぱきとタオルとスポドリをさしだした。
「はいはーいお熱いトークはまた後でねー! はいタオル! はいスポドリ!
イツにゃんにはカナぴょん特製ポーションとスポドリのカクテルねー!
まったくもー、おれもハンターやろっかなあもー」
ぷんすことやきもちをやく様子は微笑ましくて、おれのやきもちはどこかへ。笑って軽口をたたいていた。
「やってみれば? アスカならなんかやれちゃいそうな気がする」
「真に受けるなカナタ。こいつはハンターとしての適性だけはマジにないから」
ハヤトはまじめだが、アスカは悪乗り。
絶対α(こくみんてきひーろー)になれなさそうなネーミングを披露してきた。
「だからーぜーんぶドーピングでー! 二つ名はー、『ウサギの堕神官・薬漬け風味』ね☆」
「やめろー!」ハヤトが叫ぶ。
「闇落ちアスカとかいろんな意味で勝てる気しねえ……」イツカもすっかり青い顔。
「まそーゆーわけでいってら☆ わんわんず待ってるよ?」
見ればケイジとユキテルはもうログインチェアにすっぽりおさまり、おれたちバディのログインをうずうずと待っていた。
思わず頭を撫でたい衝動にかられつつ、おれはイツカをいざなってログインチェアへ。
ヘッドセットをかぶれば、そこはもういつものバトルフィールド。
わくわく待ってた『わんわんず』に、イツカが陽気に声をかけた。
「よーし、はじめよーぜ!」
けれどそのあと展開された戦いでおれたちは、根の深い問題に気づいたのだった。
なぜここまでノゾミ先生が、バトルスタイル改良を示唆しなかったのかの理由とともに。
最後の一文で何とか問題を示唆……セウトな気がする!
次回は! 次回こそは……m(__)m!!
ダブルわんわん突撃バディとのバトルをお楽しみに♪




