Bonus Track_25_1 夜明け前、寮室で~ミツルの場合~
「怖い夢みたのか?」
「……うん」
「ミルクでも飲むか? あったかいやつ」
「……ううん」
「そっか。
……よしよし」
アオバの声で悪夢から覚めれば、そこはいつもの寮室だった。
明かりをつけて、俺の隣に腰かけて、アオバはよしよしと頭を撫でてくれた。
俺よりすこし小さいアオバだけど、こんな時は俺よりずっと大きく思える。
ほっとしながら俺は、もう割り切らなくちゃと繰り返した。
それもこれも、アオバだった。
閉ざされたドアをぶち壊し、勇ましく飛び込んできてくれたのも。
その後、何くれとなく世話を焼いてくれたのも。
やつはすでにイズミをはじめ、何人もの生徒を支えていたのに。
そのせいで無星になってしまったというのに、嫌な顔一つせず、恩に着せることすらない。
こんな男が本当にいるんだと、心の底から驚いたことを今でも覚えている。
それでもやっぱり、彼はきっと別の世界の人間なのだ。
イズミのけがが治ったら、バディを組むことも決まっている。
彼と俺の人生は、これ以上の接点もなく、離れていくのだろう。
仕方ない。人生とはそんなものなのだ――
そんな風に思った相手が、いま、俺のバディとしてここにいる。
俺の恩人、あこがれのヒーローが。
だというのに、あいつを探す。
おかしなことだ。
過去なんかにこだわらず、前を向けばいいのだ。
アオバを支え、ユゾノさんたちのために曲を書く。
『うさねこ』の仲間たちと、大きな夢を目指す。
俺はそちらだけ向いていればいいのだ。
なのに、思ってしまうのだ。あいつを見つけたいと。
心に秘めた言葉を告げたいと。
そのために、もう一度だけ会って話したいと。
けれど、そんなわがままもそろそろ限界だ。
イツカとカナタを、国内最強の戦士に仕立てる。そのための期間はもう二か月半しかない。
俺ももっと力にならねば。アオバもそれを望んでいるはず。
いま俺に協力してくれている二人だって、いつまでも探し続けるのはきついはず。そもそもイツカとカナタの夢が叶えば、あいつを探すのも容易となるはずなのだ。
と、いうか。
そもそも告げたところでどんな意味があるのだろう。
あいつと俺の見た夢は、もう二度と戻ってなんかこないのに。
「……ミツル」
「なに?」
「しんどかったら、俺がいるから。
俺のこと、頼ってくれな?
話せるようになったらでいいから。ミツルのきもち、話してくれな?」
「……ありがと」
それでも俺はきっと、あしたもあいつを探しに行くのだ。
どこまでも優しい、ヒーローの献身に甘えて。
ブックマークいただきました! ありがとうございます!!(ぴょんぴょん)
次回は戦利品会議まえのわちゃわちゃです。手羽元って叫んでるのがいますがその手羽元はもちろん……
お楽しみにです!




