Bonus Track_24_6 合宿・サウザンドシー!(4)~クレハの場合~
女神パワーで元通りになった『シークレットガーデン』。その一角にある広場にて、俺たちはイベントクリア者としての歓待を受けていた。
ふかふかのラグの上、ふかふかのけも装備と南国風の衣装をつけた美男美女たちがお酌(※ノンアルコール飲料だった)をしてくれ、料理を取り分けてくれ、大きな羽であおいでくれ、と至れり尽くせり。
クレイズ様も酒杯を手に、上機嫌だ。
「見事じゃったぞ、勇士たち。
つかどーやって我がサクラの『前』に出てくると見抜いた、セナよ?」
「『エコー』です。
一度クレイズ様が俺たちの前に出現したので、そこからずっと『あなたの音』をたどり続けていきました。
皆には、俺の視線の向く先で位置を示しました。
楽しむことを求めていたあなたが、時間切れまでひたすら身を隠し続けるわけはない。必ずや、姿を現す。……そう踏んでの作戦でした」
セナがてきぱきと答えれば、形の良い顎にすらりとした指を添え、うんうんとうなずいた。
「ふむ、やはりな。
しかし土中の音をあの距離から、そこまで精密に聞きわけるとは、なかなかもって大したものじゃ。
さらにはわが心根を見抜き、仲間たちの力もうまく使い、的確に我を狩りだした。その優れた能力、知力は称賛に値する。
本来であればおぬしはシャスタ姉の――清き水の加護を受ける方がよいとは思うが、おぬしにあの地は寒くてかなわなかろう。良ければ我が話を通すか?」
「いえ、俺がクリアしたのはあくまでクレイズ様の試練ですから。頂くならクレイズ様の加護がいいです」
「嬉しいことを言ってくれるの!
なら、遠慮なく授けるとするか。さあ、手を。
――汝には我と同じ、『地中遊泳』のスキルを授けよう。
ぶっちゃけオルカ・フジノと同じスキルじゃ。磨けばいずれああなろう」
「ま、マジですか……?! ありがとうございます!!」
クレイズ様の緑の指先が、セナが差し出した左手の甲を軽く滑ると、エメラルドブルーの紋章が浮かび上がる。
陸、海、空をバックに泳ぐイルカの意匠だ。
続いてスキル獲得のシステムボイスが響けば、セナは左手をじっと見て、ぎゅうっと握って満面の笑みに。
これほど素直に、うれしそうな顔をするセナは珍しい。
その様子にクレイズ様は優しく目を細めると、ぱんぱんと手を叩いた。
「ほれ、他の者らにも。
祈りの子らには我が加護の証たるチャーム。戦いの子らには森の恵みの組みひもを。
創造の子らにはこれを授けよう」
すると、リンカさんとナナさんの杖に緑色のチャームが下がり、トラオ、サリイさん、サクラさん、ユキさん、アキトの手の中には緑と青の微妙な色合いが美しい組みひもが現れる。
そして俺とチナツの前には、バナナのそれのような、大きな葉っぱで包まれた包みが一つずつ。
「……開けてもいいですか?」
「おお、よいぞよいぞ!」
そうっと開くと、俺の方には様々なサイズの琥珀と真珠が。
チナツの方には、大きな羽が十枚ほどに大小の爪と牙がいくつも。そして、なにやら動物の絵の描かれたチケットが一つづり。
おれたちは顔を見合わせた。
「ええっと……とりあえず、このチケットは何なんでしょうか……?」
「おお、これはわがしもべたちの希望で入れたもの。ごしめ……ゴフン、召喚チケットじゃ。
券面に描かれている者を、一枚につき一回召喚することができる。
ただし十二枚すべてを使い切ったなら……このさきは我が口からは言えぬ」
「え……」
いまなんかおかしな言葉が聞こえかけた気がしたが。
クレイズ様はふっふっふ、と意味ありげに笑う。
「召喚したしもべたちはその後24時間チナツのしもべとして侍る。チナツのいう事をなんでも聞くがゆえ、でーとを楽しむもよし、試合に加勢させるも良し、異界の知識や技の伝授を願うもよしじゃ。
ただし、えっちな命令はだめじゃぞ。わかっていると思うがな?」
「ぜってーしませんからっ!!」
「ちなみに捨てても売り払っても無駄じゃ、運命の手で巡り巡ってその手元に戻ってくるゆえな……」
「もはや呪いのアイテムじゃないですかあああ!!!!」
半泣きで叫ぶチナツ。クレイズ様と給仕に当たってくれた皆さんがまあまあとチナツをなだめて――そのとき、俺は悪魔の選択肢に気が付いた。
いや、いや。それはいくらなんでも『なし』だろう。
俺は雑念を振り払い、チナツをなだめてやることにした。
女神様に送還されて『シークレットガーデンケイブ』を出れば、俺たちはおめでとうの嵐に包まれた。
まずは入り口の見張りたちにすげええええマジかサインくださいと言われ。
クエール島の冒険者ギルド出張所も、上を下への大騒ぎ。
船でサウザンドビーチに降り立てば、どこにこれだけの人がいたというほどの人だかりで迎えられた。
なかでもミッドガルド時代この地に居を置いていたセナは大人気。いっそ銅像でも作ろうかと盛り上がり始めたのを本人が必死に止めていた。
ともあれここまでの騒ぎになっては、遊んで帰るどころではない。やむなく俺たちは短いスピーチののち、天界帰還を余儀なくされたのであった。
「すまない、みんな。
俺のわがままで、予定前倒ししたせいで。
とくにセナは、久々の『里帰り』だったのに……」
その後最初に俺がしたことは、皆に頭を下げることだった。
そう、本当ならもう少し遊んでから物資調達、ダンジョントライの予定だったのだ。それを切り上げさせて、これだ。正直申し訳なくてたまらなかった。
しかし、みんなは優しかった。
「俺なら構わないよ。ほとぼり冷めたらまた何か理由つけて行くさ。
サウザンドビーチは逃げないからね。……って、イルカたちも言ってくれたし。
つぎはケイジとユキテルもつれてきてよ、とも言われたからさ」
セナが包み込むような笑顔で俺の手を取ってくれれば、皆が次々優しい言葉をかけてくれる。
「そーそー、ダンジョンも試練も楽しかったしな!」アキトが。
「遊びすぎて疲れてたら、ああはいかなかったかもだし!」チナツが。
「クレイズ様おもしろいひとだったしね~」ナナさんが。
「今度はもう少し、余裕を持ったスケジュールで行きましょう?」リンカさんが。
「そんときゃグルメも満喫しようぜ!」トラオが。
「マリンスポーツもやりたいわね!」サリイさんが。
「花火とかビーチバレー大会とかも!」サクラさんが。
「遊んだ後には景色見てゆっくりってのも、悪くないわよね?」そして、ユキさんが。
――ユキさんと二人、ビーチで夕日を。
もしも実現したなら、それはどれだけ幸せだろう。
考えただけで、胸に小さな灯がともる。
「そう、だな。
また、いこう。
ケイジ君と、ユキテル君も一緒に」
サウザンドビーチの人たちによれば、二人もまたあの地に居を置いていた冒険者。
親切で明るくて、セナたち後輩にも対等に接し、みんなに愛されていたという。
今回は予定が合わなかったが、次回はきっと。
ただしその前に、やらなきゃいけないことはたくさんある。
まず、アスカたちに報告。報酬のアイテムをどう使うか決める。
よいアイテムを作り、もしくは既存の武具のパワーアップを。
とりあえず、金曜までに俺たちの武具を。そして俺とチナツは金曜の試合に勝って、昇格を決める。
週末は身体を休め、月曜にはニノからいくつかの引継ぎをする。
第三次合宿は『うさねこ』総裁というべきアスカが加わるため、そのあたりでの手伝いが発生することも大いに考えられる。
その後、ことによってはイツカとカナタの武具改良の手伝いもすることになるかもしれない。
もちろん、宿題も実習も、昇格が決まるまでは当番もある。
けれど、なぜだか今の俺は、行けるような気がしていた。
「でもくれっちゃん、イー顔してんな! やっぱ遊びは大事ってね!」
そのときチナツが笑いながら俺の背中を叩いてきた。
かもなと答えて俺は、チナツの背中を叩き返した。
これにて海合宿おしまいです!
次回、新章突入。ボナトラ、ミツル回です。
……これ一章ぶんで第三次合宿まですませられるんじゃろか(ガクブル)お楽しみに!




