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<ウサうさネコかみ>もふけも装備のおれたちは妹たちを助けるためにVR学園闘技場で成り上がります!~ティアブラ・オンライン~  作者: 日向 るきあ
Stage_3 勇者誕生! ポテンシャルテスト!!

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3-2 対決・『青嵐公』~実戦試験は騙りを添えて~

 クラフターズラボを出れば、『学園闘技場』はすぐそこだ。

 もっとも闘技場そのものはヴァルハラフィールドにあるので、おれたちが向かっているのは正確には『闘技場ログインセンター』なのだけど。

 ただ、そこを闘技場と呼ぶのに、特に違和感は覚えない。

 なぜって、センターそのものの外観が、古代の闘技場を模してあるのだ。それも、無駄にハイクオリティに。

 いや、どうしてこうなった。嫌いじゃないけど。


 そんな闘技場へと続く小道は、左右のところどころに木々が植えられ、ゆったりとしたつくりになっていた。

 普段はきっと、さんぽに最適のしずかな場所なのだろう――そう、おれたちの後ろをついてくる、100名近いやじうまたちがいなければ。

『青嵐公』先生は構う様子もなく、九本のもふもふしっぽを揺らしながら歩いていく。

 イツカももう慣れたのか、先生について歩きつつ、んーと大きく伸びをした。


「うあーやっっとこれでラストだぜー。長かったー!」

「朝からずーっとテストだったもんね……」

「ていうか昼までカンヅメとかな……出前がタダだったのがせめてもの救いだけどさー……」


 そしてイツカは大きくため息をつく。

 そう、今日は昨日に増してやじうまがすごかった。そのため学校側の判断で、お昼は部屋で。

 それも、ドアの外に見張りが立ち『カンヅメ』にされて、だったのだ。


「だからイケメン税だろ、イツカの場合」

「いーや、それはカナタの方だね!

 ってかお前の投てき射撃スキル、リアルでもマジで半端ねえんだからな?」

「…… もう、そんなに何度もほめても何も出ないよ?」

「はー。やっぱカナタはカナタだったかー」

「ちょっとー、なんだよそれー」


 まあ、イツカの言いたいことはわかる。

 おれは今日の昼、同じようにほめられて、言ってしまったのだ――ありがとう、と。

 完全にほめすぎだ。ティアブラ内ならまだしも、リアルのスキルまで半端ないなんて。

 そうは思いながらも、いつになく素直に。


 正直うれしいきもちだったから、というのがある。

 おれたちを見るみんなの目が、キラキラしていたのが。

 緑、黒、紫。赤、茶色。金と青のオッドアイ。

 暗く斜に構えて失敗を待っていたひとたちまでが、いつしかまっすぐな視線をくれて、だんだんに身を乗り出し、ついには拍手と歓声をくれたときには、本当にうれしかった。


 おれがαプレイヤーにあこがれる理由もそこにある。

 αプレイヤーは全員、とにかくかっこいい。

 その活躍に、たくさんの人が笑顔になる。

 裏を返せば、自分の活躍でたくさんの人を喜ばせることができる。

 それがαプレイヤーという存在なのだ。


 おれは自分が、どこかさめてて素直じゃない、かわいげのないやつだという自覚はある。

 けれど、おれの手助けやクラフトで、誰かが喜んでくれたり、助かったりするのは純粋にうれしい。

 おれがもっと『たたかうクラフター』として腕を磨いて、αプレイヤーになり、みんなに知られるようになれば……


 どこかで誰かが困ったとき、『この人を頼ってみよう』と、思い出す名前を一つ増やすことができる。

 それはとても、素敵なことだと思う。


 だから、がんばるのだ。

 目の前のことを一つずつ。

 たとえ困難に思えても、一歩ずつ。



 というかまさしく今、とんでもない困難が立ちはだかっているんだけど。

 学園闘技場バトルフィールド。

 闘技者用ブースでログインし、ボス戦用のフル装備で出た、おれたちを待っていたのは……

 先生、いや、ガチモードの『青嵐公』だった。


「これより、ポテンシャルテスト最終パート『実戦試験』を行う。

 形式は模擬戦だが、ガチでいく。殴るし斬るしスキルもかます。

 いいか。これは、勝負だ。お前らの全力で来い!」


 青の戦装束に身を包み、銘刀『青嵐』を腰に佩いて。

 さらには全身からわかりやすく闘気を発し、どんっと腕を組んで仁王立ち!

『青嵐公』は『生ける伝説』とすら呼ばれる無双将軍。勝てるわけなど100%ない。

 けど、負けてなんかいられない!

 いきなりスキル『威圧』が飛んできた。爆風にも似た無言の圧力。それだけでどくん、と体が反応する。

 けど、踏みとどまれた。

 おれを守る位置についているイツカが、『挑発』で返してくれたためだろう。

 闘技場に取り付けられた大型スクリーンには、前から見たイツカの姿が映っていた。

 いつも通りのニカッとした笑顔、力みのない立ち姿で、左手親指を地面に向けている。

 さすがに抜刀に使う右手でないあたりは、『青嵐公』の強さへの敬意もうかがえる。

 相変わらずのバランス感覚、というかこの状況でそれを維持しているあたり、たいした奴だと思ってしまう。


「すげえ……」

「『青嵐公』相手に『挑発』かよ……本物のアホか勇者かどっちかだ……」


 観客席を埋めたギャラリーがざわめく。うん、おれもそのきもち超わかる。

 でも、イツカはアホじゃないのだ。だからアホになんか、絶対させない。

 そのために、バディのおれがいるのだから!

 おれはひとつ深呼吸すると、『青嵐公』に微笑みかけた。


「『先生』。

 全力でってことは、『ムーンサルト・バスター』、いいんですね?」

「好きに撃て。だが、やられてやるとは言っていないぞ」


『青嵐公』が笑い返してくる。

 整った顔立ちがつくる、凄絶な笑み。

 どこか妖艶さすら漂わせつつも、押し寄せる、絶対強者の存在感。

 普段なら逃げる方法だけを考えるようなそれを前に、おれは笑みを深めていた。


 ギャラリーの声は、もう聞こえない。


「イツカ」

「っしゃあ!」


 イツカが地を蹴る。『短距離超猫走スプリン・チーター』を垂直方向に使っての、目にもとまらぬ跳躍だ。

 同時におれは両手で同時に『抜打狙撃クイック・エイミング・ショット』。

 打ち出すのは『斥力せきりょくのオーブ』。一発を上空に、一発をイツカの足裏に。


 冴えていた。ミリ単位まで正確に、狙った場所に撃てたのがわかる。

 だから見えた。

『青嵐公』が、コンマ一秒で抜刀し、まっすぐおれに突撃してきたのが。

 イツカが『斥力のオーブ』を、いつもの下向きでなくナナメ上横向きに蹴って、『青嵐公』に向けて跳んだのが。

 その瞬間おれは、イツカの足裏のオーブに、もう一発、『斥力のオーブ』を放っていた。


「なるほど、『ムーンサルト・バスターを受けられるか』とは聞いたが、放つとは言ってないと……」


 イツカとつばぜり合いを演じつつ、『青嵐公』がうそぶく。

『斥力のオーブ』での後押し追加により、音速を超えたイツカは衝撃波をまとっていた。それをあっさり切り飛ばし、返す刀でイツカの居合斬りをガッと受け止めてのことだ。


「ええ。先生も『受ける』とは言ってませんでしたからね。いけませんでしたか?」


 おれはニッコリ笑顔で返す。もちろんハッタリなのだけど。

 すると、ふん、と鼻を鳴らした『青嵐公』は、やおらぽーいとイツカを投げてきた。

 まるでつばぜりあいなど、最初からしてなかったかのように。

 おれが充分受け止められる、受け止めてしまう軌道とスピードで。

 いうなれば、まるでじゃれあいの延長のように。


「及第点だ。

 その技量と威力では、五ツ星には通用しない。

 おまえらの卒業試験は、俺とのガチバトルだ。いまからそのつもりで鍛えていけ。

 期待してるぞ」


 おもわずイツカを受け止め、あっと『青嵐公』を見たときには、彼はもう納刀していた。

 さっきまでガンガン来ていた、迫力と色気もどこへやら。

 そこにいたのはもう、いつもの不愛想な、でもちょっとだけ笑顔の『青嵐公』先生だった。


 ありがとうございました、と頭を下げれば、周り中からどっと音が押し寄せた。

 観客席からの、スタンディングオベーション。

 それこそ、うさみみの感度を反射的に下げたレベルの。



 その後、保健室は満杯になった。

 新たな『勇者』が必殺技ムーンサルト・バスターを放つところがやっぱり見たい、いやむしろ一発食らってみたいという勇者が続出したからだ。

 とばっちりを食ったのが、やつらのフォローをするハメになったおれたち後衛だ。

 とくにプリースト能力持ちは、神聖魔法の使い過ぎでグロッキー。おれも初級の神聖魔法なら扱うし、なにより当事者なので、もちろん例外じゃない。


 ちなみに我が相棒の勇者様は、だったらそのかわりおまえたちの必殺技もくれよ! 一口交換な! などととんでもないことをのたまわり、ただいまベッドでご満悦。

 うん、殴るなんてもはや手ぬるい。これはもう、泣いて謝るまでモフりたおすしか――

 そう考えたまさにその時、女神が現れた。

 正確には、どこか間延びした口調での校内放送と、びっくりするような「贈り物」が。


『ぴんぽんぱんぽーん(↑)。

 皆さんおつかれさまー。校長のミソラです。

 闘技場の様子は見てました。楽しそうでなによりなにより。

 というわけで、職権乱用しちゃうよ~。

 素敵な神の戦士<エインヘリアル>諸君がばんごはんを元気においしく食べれるように、全校生徒の皆さんにスペシャルヒールとボーナスポイントでーす!

 これからもその調子で楽しくね~。ミソラでした~。ぴんぽんぱんぽーん(↓)。』


 ちなみに、ぴんぽんぱんぽーんは口で言ってた。

 どうやら、いつものことらしい。


 ともあれ校長先生の一存で、全校生徒に全回復、ならびにボーナスでTPBP、各一万が贈られて、学園内はおおさわぎ。

 というのも『月給受け取り後に星級×100万TPを所持していないと、降格になってしまう』という、特殊なシステムがあるからだ。


 たとえば一ツ星の場合、入学時には個人口座に入学資格の100万TPを所持しており、さらに毎月五万の給与が支払われるわけなのだが……

 遅刻や課題ミス、校則違反等により、TPは引かれていく。

 もちろん学内サービスや、町での買い物、外食などもそこからの支出になる。

 これらがつもりつもって、『月給振り込み後のTP』が100万を下回ってしまうと、零星に転落してしまう。

 さらにそこから下がってTPゼロになってしまえば、放校処分になってしまうのだ。


 けれど今回のボーナスで、そのがけっぷちを脱出できたという人は複数いた。

 その人たちからおれたちは、めっちゃくちゃ感謝されてしまった。


「TPプラス一万ってことは……

 100万60TP!! やっと無星脱出できたー!! ありがとうイツカナ!!」

「俺もだ!! ありがとうマジ!!」

「よしゃ! ついでにBP献上して装備質屋から取り戻してくるわ! 助かったー!!」

「献上すれば俺も100万TP超えるじゃん! やった!! ありがとなー!!」


 こうしておれとイツカは、すっかり英雄に。

 夕飯時の学食はおおにぎわいのパーティーモードになったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 青嵐公相手にガチバトル。 これは燃える展開ですね。 しかし青嵐公はやはり強かった! でもその結果、多くの者が救われた。 カナタとイツカも英雄扱いで結果オーライですね♪
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