24-6 テンサイ・ノ・ジッサイ
「それじゃ、俺はいくから。
……夕方まではジムにいるから」
ハヤトはわざわざそう言って席を立った。
不器用なハヤトなりのメッセージだとすぐわかった――ナツキがもし、身体を動かしたくなったら付き合うから、という。
フユキのなかのナツキにも、それはしっかり伝わったよう。はちみつ色の瞳がちらりと茜色になり、端正な顔立ちがニッコリ笑顔になった。
ナツキがナツキとして体を動かす機会は、これまでそう多くなかったに違いない。今日は方針だけ決め、後はナツキを遊ばせてやろう。おれとフユキはうなずきあった。
そのとき、三つ並んだマイクロアナライザが解析終了のチャイムを鳴らし始めた。
外装、信管、炸薬。ひとつひとつ構造を確かめていくのは確かに手間ではあったが、非常に興味深いものでもあった。
吐き出されたデータに目を通したレンは、驚きの解析能力を発揮して大興奮だ。
「なるほど、外装のこの……燃焼速度との絶妙なバランスで……すげええええええ!
はあああ! アスカまじ天才!! オレが女だったら結婚してっていうレベル――!!」
ついでになんか変なスイッチ入ってる。ほほう、これは聞かねばなるまい。
「それじゃーチアキはどうするのレン?」
「えっ。
えっ、えっとー……」
真剣に悩み始めるレンに、アスカが笑いながら言った。
「いんやー、残念ながらというか幸いというか、レンレンの想いにはこたえられないよー。
おれにはハーちゃんという守らなきゃいけない大本命がいるからねっ。
ってわけでここは愛人ポジでっ!」
「ダブル不倫かっ!
……うん、言ってて哀しくなってきた。」
「お互いにね……」
ノリノリでボケ突っ込みをかましたかと思うと、そろって遠い目になる二人。
やがてアスカが言い出した。
「実際のとこさ。『天才』なんてそういいもんじゃないよ。
むしろおれの一挙手一投足ぜんぶが誰かの決めた型どおり、知らないレベルで操られてんじゃないかと思うと、薄気味悪さすら感じる」
「そういうもんなのかね……」
「おれにとってはね。
ま、ハヤトを守るためならそれも、安い代償だよ。
いまは、君たちもいるしね」
「お、おう……」
レンが照れて頭をかく。
「こーやってさ。なんでもないバカ言ったりやったりしてると、それだけで自由になれたっていうか、救われる気がするんだ。
ありがとね、みんな」
アスカの優しい笑みに、錬成室は柔らかい雰囲気に包まれた。
シオンが黒く短いうさ耳をパタパタ揺らしてニッコリ。
「アスカがそんな風に思ってくれてるなら、よかった!
オレに、オレたちにとってアスカは恩人だもん!」
フユキが至極まじめに問う。
「……俺ももっとこう、馬鹿なことをした方がいいのだろうか」
「いや、だいじょぶふーたんはそのままでおもろいから」
「そ、そうか……」アスカの答えに戸惑うフユキ。
「ぶふっ、なんだよそれ! 面白すぎだろフユキ!」そのやりとりにレンが吹き出す。
「いや面白いのか?!」
アスカが、シオンが笑っている。おれもなんだか笑えて来たけど、フユキが戸惑っているので助け舟を出すことにした。
「そういう自然なやりとりがいいんだよ。ね、アスカ」
「そうそうそうそう! カナぴょんわかってるー!」
「そ、そうか……それで、いいのか」
アスカがおれとフユキの間に入って肩を組み、フユキもふんわり笑顔になった。
「よーしよーし! がんばってこー!
おれたちみんなが揃って笑いあえる未来のためにも、ここはテラフレアボムの実現、そしてカナぴょんの銃の改良作の策定と試作チャレンジ! しまっていくぞー!」
「おー!」
ボムの肝というべき存在――炸薬の構造解析がすんだら、こんどはその再現方法の策定だ。
これまた、シオンのテストプログラムのお世話になることに。
候補が算出されるまでの間、シオンは新作の脚本を書きはじめ、レンとアスカは仲良く錬成開始。おれとフユキは、今出たデータをおさえつつ、魔擲弾銃改良、もしくは新規銃開発の方向性を軽く話し合うことにした。
「わかってると思うがカナタ。お前の言った銃、とくに『自在錬成銃』はトンデモアイテムだ。それでもやってみるか?」
フユキはひとつ、息を吐くと口火を切った。
「もちろん、トンデモなことはわかってるよ。
錬成には、錬成陣が必要。それを高速で描くこと自体はできても、マトモにやるなら陣への材料の配置、パワー注入ポイントへの順を追ってのパワー注入と問題は多い。
さらには何パターンもの陣を切り替えてとか、もう素直に護符を使った方が早いよね。言っといてなんだけど、おれもそこはそう思った」
でも、とおれは言葉を継いだ。
「――二種類。二種類だけでも使い分けられたら、バトルが変わる。
例えば、おれの場合なら『斥力のオーブ』とボムを使い分けるけど、それがリロードなし、実質弾数無制限でできたなら……」
うん、とフユキはうなずく。
「確かに、『瞬即装填』はできない体勢やタイミングもあるし、一瞬だけとはいえ確かに時間もかかる。エクセリオン相手なら、そんなスキでも容赦なくつかれるだろうからな。……
ただ、カナタ。イツカの移動アシストは、お前がやらなきゃならないものか?」
「えっ?」
「それこそ、イツカの『マルチフットパッド』に斥力発生の仕組みを何かつけ、やつはやつ、お前はお前で動けるようにした方が、より有利にはならないか。
アカネ・フリージアが一皮むけたのも、浮遊装備を使いこなすようになった事で、だったな」
「あ、………………」
思ってもいなかった指摘に、おれは言葉を失った。
ぶ、ブックマーク……ありがとうございます……!!
逆方向に天才(=ほぼ裏目に出る星人)である私にはなぜだか不思議なくらいなのであります……!!
次回、たのしい女神様がいいたいほーだいやりたいほーだいしそうです。チナツの災難はまだまだ続く……? お楽しみに!




