Bonus Track_24_3 合宿・サウザンドシー!(1)~クレハの場合~
「これVRじゃなかったら絶対『ない』よねー」
「むしろリアルにあってほしくないわ、ダンジョンとか」
先鋒を務めるサクラさんが無邪気に言えば、隣にならぶユキさんがたははと笑う。
彼女たち、というかおれたちは、見た目だけとはいえいま水着姿。しかしここはダンジョンだ。
所在地はクエール島。少し前までおれたちがいたサウザンドビーチから見える島。その横手に口を開ける海食洞だが、出入り口に常に見張りか結界がついている高難度ダンジョン『シークレットガーデンケイブ』である。
人の出入りのほぼないそこには、海からの水は自由に入り、見事なウォーターケイブを形成している。
洞内は広く景観もよく、見ためだけなら、パンフレットの上の方に載る観光スポット。しかしここには――
「後ろからくる! ブルーアビスバット四体、パラセクトディア三体!!」
Aランクかそれ以上のモンスターが平気で出てくる。
イルカ装備スキル『ソナー』で察知したセナが鋭く警告を発せば、彼とともにしんがりを固めるアキトが素早く振り返り抜刀した。
サリイさんが頼もしく叫ぶ。
「バットはあたしに任せなさい!『スプリンクル・フレア』ッ!」
サリイさんはシャスタの洞穴攻略を途中リタイヤするハメになったとき、火球の制御の猛特訓をしていた。
フィールドとの悪相性は致し方ないが、見つけた課題はなんとかしたいと。
その結果がこれだ。はじけた火球はすべて、岩壁に達する前に霧散。そうしながらも、紺の巨体の蝙蝠たちをことごとく撃破した。
それでも緑に変色した鹿たちはひるむことなくかけてくる。
彼らの両目はすでに、元の色を失い白濁している。彼らを操るモノからすれば、この末期の肉体を犠牲にしてでも、おれたちという新鮮な寄生先を得ることが重要なのだ。
「ぎゃー! こっちくんなあああ!!」
だがその思惑に乗るわけにはいかない。
確かにただのゲームとはいえ、俺たちプレイヤーへの『寄生』はステータス上のものにとどまり、ポーションや神聖魔法で簡単に解除できるものとはいえ、湧きあがる嫌悪感は否めない――チナツが叫び声とともにエアロボムを投げまくり、与ダメージとともに押し返しを狙う。俺も投げ……かけて制止をかけた。
チナツのボムラッシュにより、すでに一体が撃破され、残る二体もかなりのダメージを負っている。
「待て、これ以上は無駄弾になる!」
「うえええ……でも~……」
「任せてくれよ。あとは俺たちでトドメるから、な?」
そういうアキトも、かなり嫌だったらしく『表面換装』を解いてアーマー姿になっていた。
おなじくアーマー姿に戻ったセナが叫ぶ。
「奥からも来た! バット4!」
「神聖強化~」
「っしゃ――! 『ホワイト・ソニック』!」
「『サマーソルト・キック』!」
「『わん・ぱーんち』!」
そちらはナナさん、トラオ、ユキさん、サクラさんが連携して気持ちよく撃破し。
「『神聖防壁』! 大丈夫よ、いって!」
リンカさんの守りの魔法を受けて、セナとアキトが跳びだす。
「『スタンソニック』!!」
「『バックキック』!!」
セナが超音波攻撃で動きを止め、アキトが強力な蹴り技で一気に仕留めるというコンビネーション攻撃で二体を沈めると、最初の戦いは終わった。
結果的にセナ、アキトの負担は減ったとはいえ、チナツの行動はうっかりだった。
まだ行程の半分も来ていないのに、ボムの1/3を投げてしまったのだ。
チナツはすっかりションボリタマリン。殊勝に頭を下げてきた。
「うう、ごめんよみんな……すっかり動転しちまった……」
「ちなっちゃんゾンビものほんっとダメなんだねー」
にしし、とわらうサクラさんだが、チナツは涙目だ。
「サクラはなんでへーきなんだよ……だいたい女子ってそういうの一番嫌がるもんじゃねーか……」
「えー。あたし修道尼だもん。ゾンビはむしろ稼ぎどころだもーん♪
『聖護気』発動してるから直接触るわけじゃないし~」
「ずりぃ……おれも修道尼になる……」
思わずおれは突っ込んだ。
「いやなるなら修道僧になれよ」
「あっ」
ぱかっと口を開けたチナツの様子に笑いが起きる。
しかし、すぐにトラオがわびてきた。
「いやわりぃ。気持ちわかるわ。俺一瞬そっちじゃなくてよかったと思ったもんさっき」
「そんなみんなに残念なお知らせだ。……
前方からパラセクトディア四体。ブルーアビスバット一体。それとサクラちゃん、ダンジョンジェリー一体」
セナがまるでゲームマスターのように言えばその場は、というかトラオ、サクラさん、チナツは阿鼻叫喚となった。
「まじかおいぎゃあああ!!」
「やだぁぁぁぁっ!! クラゲいや――っ!!」
「わあああやっぱりクラスチェンジする――!! この場でする――!!」
「みんな、今回は苦手克服を兼ねてるんでしょ。いっしょに頑張りましょう?」
「そーそー。それにこの子たちからのドロップはぜんぶレアアイテムだよ、一攫千金だよ~」
さすがはAランクプリースト。リンカさんとナナさんが言えば、三人はとたんにもちなおす。
「お姉さまたちといっしょならっ!!」サクラさんがいきなりなぞのキラキラオーラをまとう。
「そうだ、こいつらは……」「お宝――!!」トラオとチナツの目がキラーンと輝く。
その後の行程は順調にはかどり、俺たちはこのダンジョンの本陣というべき場所にたどり着いた。
熱い風の吹き込む岩穴を抜ければそこは、緑したたる熱帯雨林。
緑のカーテンのむこうから、聞いたことのないけものの声が響く。
見たことのない鮮やかな花が咲き誇り、大人の胴体よりも太い巨樹の幹を大蛇のようなツタが伝う。
そう、こここそ、Aランク超の実力者のみが拝むことのできる野生の楽園。
その名も『シークレットガーデン』だった。
息をのむ俺たちに、横合いから声がかけられた。
「めずらしい。我が領域に、客人とな?」
うわーもうすみません……最後の二文をコピペし忘れ! ごめんなさい!




