23-7 爆走にゃんこ、追いかける!
『どうせ泉に行ってくるなら、シャスタにお使い頼まれてくれる?
もちろんわたしのお使いだから、抗魔力の護符も貸すし、報酬も出すわ!』
エアリーさんからホットケーキを託されて、おれたちはシャスタの洞穴に向かった。
だがその道中は、若干気まずいものだった。
というのは。
「……………………。」
「……………………。」
このパーティー唯一のカップルの雰囲気がなんか微妙だからだ。
コトハさんはなんだかうつむいてるし、フユキは顔に出にくいながらおろおろ。
これだったらまだあの激甘おやつタイムの方がましだ。
最初こそソーヤとレンが冗談を連発してくれたものの、三十分もすればネタと気力が尽きたよう。
ほかのおれたちも軒並みお手上げで、一度のおやつ休憩と何度かのエンカウントをはさんだ以外は、もくもくと洞穴まで歩き続けたのであった。
『どうした、わが覡たち。
姉上から使いと聞いていたが、ふむ、新たな指輪が入り用かの、森猫の?』
そんなこんなで洞穴入り口にたどり着くと、すぐに神秘的な女性の声が響いてきた。
くすくすと、からかうような調子で。
フユキは冷静に率直に答えをかえす。
「いや、けして装備品をたかりに来たわけではなく、純粋に修行をと」
「おい!」
「気にしないでください。私たち別にそういう間柄ではありませんから」
そして、あっという顔になった。
一方でコトハさんがすらすらと答えている――これはまずい。
なぜって、内気で恥ずかしがり屋のコトハさんがだ。初対面の、すごい女神に対してだ。
おそるおそるコトハさんの顔を見れば、眼鏡の向こうの目は無表情だった。
これは……テンパってるときの目だ。それもめっちゃくちゃ。
「い、いや、……その」
「いきましょう。ホットケーキがさめちゃいますから。」
コトハさんはすたすたと歩き出した。
怖がりで慎重なコトハさんが。後衛クラフターのコトハさんがだ。
「ちょ、まっ……」
とめようとしたそのとき、その姿が水色の光に包まれた。
『ふむ、気にしないでよいならば好都合。
今回、この娘にはこちらについてもらうこととしよう。
たまには人間と共闘のバトルもしてみたいものでな?』
「な………………!!」
止めようとフユキが伸ばした手の先で、謎の光は、そしてそれに包まれたコトハさんは跡形もなく消えてしまった。
そこからあとの勢いはとんでもなかった。
もともとフユキは、ミッドガルド時代には兼業だったという。
しかし得意分野に注力するため、高天原に来てからは『ハンター実習はあくまで力を落とさない程度』にとどめていたというのだが……
今回は、コトハさんを守れるようになりたいと、実戦では久々に剣を振るったという状況のはずなのだが。
「おおおいフユキー!」
「まってよフユキくん速いよー!!」
走る走る走る。
「おいっまずは支援すっから」
「突出したらあぶな……くなかったー!」
エンカウントはなぎ倒す。
「フユキってば、そろそろおやつ!」
「後でいいっ!」
おやつ休憩もぶっちぎり。
「ぜー、ぜー、ぜー…………」
おれたちを引き連れてあっという間に最深部、『シャスタの泉』に到達したのだった。
岩壁にかこまれた泉の間には、幻想的な光景が広がっていた。
青い微光をたたえた水面に、シンプルな玉座がひとつ。
おそらくは泉の水を形成しているのだろうそこに、清楚で神秘的な美貌の女性がかけている。
透けるような青いドレープを重ねたドレスのすそも、透明感を宿した水色に波打つ髪も、長く、長く垂れ下がり、水底まで届いているのではないかという印象を受けた。
そしてそんな彼女の足元、玉座にもたれるように座っている少女が一人。
着ているものこそ、シンプルな白と青のワンピースに代わっているが、その顔、眼鏡、もふもふのたぬき装備。間違いない、彼女はコトハさんだ。
『おお、速かったな』
玉座の女性はおれたちを見ると、洞穴入り口で聞こえたのと同じ声で、ゆったりと語り掛けてきた。
おれたちは一様に息を切らして口がきけないのに、フユキは一言。
「コトハを返してください。シャスタ様」
『返せとは人聞きが悪いの。
コトハはわらわの側につくことに同意してくれたぞ?』
「え……ほんとなの、コトハさん?」
「コトハさん!」
シオンとミライがもふ耳を垂らして悲しい顔で問いかける。そもそも単体でも可愛いのに、二人そろうと破壊力がすごい。これで落ちてくれればいいのだけれど……
『くっ……ほ、ほんとなんだから! うそじゃないからねっ!』
「ごめんなさい、シオン君、ミライ君。でもわたし、こうでもしないときっと、ダメだから……」
どうやら駄目だったようだ。
レンはぜはぜはしながら無茶ぶりする。
「ぜー、はー……フユキ、やれ、それ」
「……『それ』?」
『わかったであろう!
さあ、それ以上話をしたくば、われらに勝ってみせるがいい!!』
フユキがきょとんとしている間に、シャスタ様と呼ばれた女性は、はるか見上げるほど巨大な水の龍へと姿を変えた。
「ちょ、ええええ?! なに、シャスタ様ってばマジこんな好戦的なの――っ?!」
ソーヤが半笑いで叫んだ。
にゃんと! ブックマークありがとうございます!
なんだか、打ち切りから首一枚つながった気分です(おい)
次回、やっぱりバトルきちゃったよ!
ただし前回とは様相が違います。おもにぶちきれチートにゃん(灰色)のせいです。
お楽しみに!




