23-4 三か月で支度しな!
「ひとつ朗報がありますわ。
運営側の理由で欠員を補充できない場合、その段階の試合は免除となりますの。
つまり、参加者二名のみで『月萌盃』に参加すると、一次予選が実質準決勝となり、二連勝するだけで優勝が可能となりますのよ。
さらに。もしも出場者のなかでバディを組めぬ者がいた場合、そのひとりのバディ役もエクセリオンから出されます。
つまり参加者が一名のみの場合、エクセリオンをバディに据えてさらに有利に戦うことができるのですわ。
さらにエクセリオンの人数が減り、参加者とエクセリオンの合計が四名ならば一試合のみ、三名以下の場合は不戦勝で優勝が決まるのですわ」
ぽかんと口が開いていた。それっていいのか。ぶっちゃけザルじゃなかろうか。
しかしライムは静かに言った。
「試合外での運びとはいえ、過半数のエクセリオンを出場不能に。もしくは、辞職に追い込むに至った者の意見ならば、通されるのが相当という判断からのルールですの。
ですが、実際にエクセリオン過半数の支持なしで国を担う覚悟のあるものは、いまだに出ておりません。
わたくしたちソレイユもふくめて誰も、真に『マザー』の隣に立とう、立てるというものはいないという事ですわ」
「………………。」
ライムが切ない声音で言えば、イツカが息をのんだ。
さすがに、女神の隣に立つ。なんてのは、破天荒でフリーダムな猫野郎にも重い選択なのだろう。
たとえ彼女と個人的に親しいといっても、イツカはまだ15のガキんちょだ。
ライムが、声をはげまして続ける。
「イツカさん。
……セレネさんの気持ちを考えるなら、哀れみから、というのはおやめになって。
相手がたとえ『マザー』でも、恋をするのは、自由。
けれどその先は、哀れみからではもちません。気持ちも、こころも」
「あいつ、そんなに、『ひとり』なんだな」
イツカはうつむいたまま、ぽつりと言った。
「はい。
彼女とおなじものを見て、求められずとも肩を抱く。真にそれを許してもらえる存在に、わたしたちはまだなれないでいる。
だから、…………いえ。
いまは、『月萌杯』を正攻法で制することを考えましょう。
まずはエクセリオンを相手に勝つ力を身に着ける。大会に優勝し、高天原学園の学則を変えるとしても、細部を詰めるまでに時間はかかります。高天原の放校者を必要とするものたちは、あらゆる手を用いて抵抗するでしょう。
それを考えると、一年は短すぎるくらいです。
猶予を見て、三か月。それが、『月萌杯』までに許された期間ですわ」
イツカは少しだけ顔を上げた。ノゾミお兄さんが言う。
「そうだな。
現エクセリオン全員が辞職するということはありうる。
だが、そんな形での不戦勝では世の中が納得しない。
イツカ、カナタ。お前たちの決意を、力を。実際に見える形で示すためにも、最低一戦はエクセリオンたちと戦い、勝つべきだ。
不可能なことじゃない。忘れたのか、お前たちの卒業試験は俺とのガチバトルだ」
ふんす、と腕を組んでノゾミお兄さんはとんでもないことを言った。
「俺はエクセリオンの座を蹴った男だ。実力だけならエクセリオン以上。つまり俺にガチで勝てるなら、あとは一人分だけ。そこからは大した差でもない。」
「大した差ですよっ!!!!」
あらあらうふふと笑うライムとルナ以外の全員がつっこんだ。
「まったく、いい若い者がそんなことでどうする。
考えろ。お前たちには打てる手がいくらもある。冷静に視野を広げればな」
「『冷静に』………………」
そこでおれは気が付いた。
やっとエクセリオンに一勝できるようになった新米αのバディでも『月萌杯』で優勝する、ひとつの冴えたやり方に。
ともあれ、まずはαにならなければはじまらない。
その間に、力をつけ、装備もよりよいものとする。
急務は、エクセリオンとの戦いにも耐えられる装備の開発だ。
おれたち自身を鍛え上げるのはあたりまえだが、それでも装備が破損してはどうにもならないだろう。
おれたちが知る中で最高のクラフターは、やはりアスカだ。
アスカに装備を作ってもらえるよう相談しよう。もしくはアスカに学んでおれが、それだけの腕を身に着ける。それと並行して修行を。ざっくりとそう決めた頃、俺たちは高天原の市街に戻ってきたのであった。
おはようございます。
昨日予想外の作業がありましてほぼ全く書けず(くそう、筋肉痛!)ストックゼロの笑うしかない状態です。
大丈夫きっと何とかなる…………たぶん。
次回、たぶんライカの弟を作る話になるという予想! お楽しみに!




