22-4 誤解と本気とバディのココロ
「放校に、Ωになったとき判明して。……
『オッドアイの黒うさぎ』のイベントを経て復学できたのは、それに対する恩情的措置でもあるんだ。
そのときに『嫉妬』は取り除いてもらってるから、そこは安心して。
だから、それ以降のことは……純粋に、おれの責任、だ」
いつものように、抑揚少な目ながら。顔に浮かんだ表情は、ほとんど変わらないながら。
それでもはっきりとわかるほど、イズミは申し訳なさそうだった。
黒く大きなうさ耳も、眼鏡の奥の目も――青の左目も、金のアイカラーに彩られた右目も――しゅんと下を向いている。
「ニノはおれより大人で、合わせてくれるやつだから、おかしいのは、おれだ。
そうか、そんな風に見えて……
ニノ。みんな。不快な思いをさせて、すまない。直すようにする。悪かった」
そしてイズミは深く頭を下げてきた。
「おれ、部屋に戻ってる。
ニノ。そのアイカラー、もう外してくれていいから。
おれにとってはこれはお守りだから、外したくないけど、……ニノが嫌だっていうなら、なんとか、……なんとかするから」
視線を下げたまま早口で言い切ると、イズミはぱっと飛び出していった。
「お、おいイズミ!」
ニノは小包を机に置くや駆け出す。
おれもとっさに、そんな二人を追っていた。
速い。おれが錬成室を出た時すでに、イズミはラボの玄関への角を曲がるところ。
素の身体能力に加えて、けも装備はジャッカスラビット――うさぎ装備のなかでも最大の速度修正をもつものだ。
つまりスキルまで使われたら、確実に見失う!
イズミを呼びつつ追うニノに、おれは近づき声をかけた。
「おれが捕捉しとく。まずそうなら連絡入れるから!」
「悪い、頼んだ!」
了解を得られたおれは『ムーンライト・ブレス』『超聴覚』『超跳躍』を起動。イズミの位置を足音でとらえつつ、一気に加速した。
結論から言うと、イズミは町の外には飛び出さなかったが、寮室にも戻らなかった。
向かったのは、校舎の屋上。
イズミはひとり、膝に手をつき、ぜえぜえと肩で息をしている。
おれが屋上につづくドアの影でそれを確認したとき、メールが届いた。
その内容をたしかめたおれは、屋上のドアをノックした。
イズミはぱっと顔を上げ、えっという目でおれをみた。
「……カナタ。何で。どうやって」
「ごめんね、どうしても心配で。スキル使って追っかけたんだ。
おれ、同じ状態で高天原飛び出して死にかけて……イズミがもし同じ目にあったら、嫌だったから」
「それ。校則違反だろ……?」
気遣うような問いにこたえたのは、おれの後ろから駆け込んできたもう一人。
「大事な相棒がっ……泣くの我慢して走ってくのなんざっ……非常時以外の何物でもないだろっ……」
「ニノ!」
ニノはおれ同様、各種強化の淡い光をまとっていた。
オレンジのきつねしっぽを振ってそれをかき消すと、ニノはまっすぐイズミを見た。
その右目にあった色彩は、金色。ニノは、例のアイカラーを外していなかった。
「それ……はずしてないんだ……」
「こいつは、俺の一番の傑作なんだ。
お前が心配で。お前に俺を忘れてほしくなくて。それで渡したものなんだぞ。
外すわけねーだろうよ」
「………………。」
おれは静かにわきに退いた。ここはおせっかいをする場面ではない……まだ。
対してニノは、小さく一歩踏み出す。
「俺はお前が高天原行っちまった時こっそり泣いたわ。
未練がましくお前そっくりのうさぎのぬいぐるみまで作った。
『一足先に行け』なんて強がったこと、めっちゃくちゃ後悔して。ネットでお前の情報探しまくって。それっぽい書き込み見ると夢中でレスつけて。試合のたびに、投げ銭連打して。
怪我したこと知ってからは心配でたまらなくって。『オッドアイのウサギ』になっちまったときには、……
そんな相棒が今は元通り側にいて。
やきもちやかれるのも、うれしいって思っちまったりして。
うれしくって、甘やかして……。
つまり、おかしいのは俺の方なんだよ。
甘やかすのは、改善する。それでもちゃんと、お前を守る。
みんなには俺から説明するから……」
「説明するって、なんて?
……いっそマジにラブラブなんですとか?」
語気鋭く斬り込んで、苦い笑みを浮かべたイズミ。
ニノの答えは簡潔だった。
「誤解助長してどうするよ。
だから、この世で一番大事な相棒ですって」
「それ完全に誤解されるだろ……」
「『この世で一番大事』が恋人同士って、誰が決めたよ。
我が子が世界一大事な親だっているし。妹が命より大事な兄貴だっている。
子供のころからの親友で相棒なバディがそうだってのも、断然ありでおかしくない。
違うか?」
しばしの沈黙ののち、イズミはかみしめるように口にした。
「おかしく、ない」
「だろ?
さっ、戻ろうぜ。みんなちゃんとわかってくれるさ。
少なくっともここにいるカナタは味方になってくれるみたいだぜ?」
「あ」
ニノの差し出した手をとってから、イズミはおれの存在を思い出したらしい。大きな耳が慌てたようにパタパタする。
その様子はすっかりいつも通り。おれの顔にも、自然と笑みがわいてくる。
「おれもよく、イツカとのこといろいろ言われるよ。だからわかる。
……ほかの子たちもそう言ってる。
レンたちは、謝りたいって。ちょっと無神経だったかもだから」
さて、それではいよいよおせっかいの時間だ。おれは、携帯型端末の画面をイズミにむけた。
そこにはさっきのメールの文面が表示されていた――
シオンがみんなのあたたかな声を、すばやくまとめて送ってくれたものが。
イズミが小さく涙ぐみ、その頭をわしゃわしゃとニノが撫でる。
こんなときは、ちょっとだけ二人になりたいもの。
おれは一足先に、ラボへと戻ることにした。
いつもありがとうございます!
相変わらず筋肉痛です……
次回、前のめりなモラトリアム(予定)!
俺、この章で生ソナタちゃん出すんだ……(フラグ)
どうぞお楽しみに!




