22-3 ラブコメと、異変の影と(2)
『ニノの幼な妻』と聞かされて候補に挙がるのは、チコちゃんだ。
ノルン西市街の道具屋の看板娘。マゼンタのショートカットの印象的な、才気煥発な女の子。
ただし、今年で六歳だ。ミッドガルドでも結婚は無理のはず。
つまり、これはジョーク……で、いいのだろうか。むしろ皮肉とかに聞こえるのだが。
不機嫌なうさみみの角度とポーカーフェースのイズミは、つかつかとニノに歩み寄り「これ」押し付けるように小包をよこす。
「いや、なに……?」
「うさぎまんの新バージョン試作品だって。
そこ歩いてたらちょうどパインさんから渡されたからもってきたから。」
「いやちょっと待て。
チコは俺の妻でもカノジョでもねーからなっ?!」
「訂正。愛人」
「むしろ犯罪臭が増したわっ!!」
そのやりとりにチナツとレンが食いついた。
「おいおいおいおい聞き捨てならねーなっ?」
「いまのを総合するとつまり、お前にゃミッドガルドにも愛人がいるってことだよな?」
そうだ、この二人はそこのところを詳しく知らないのだっけ。
解説しようとしたところ、イズミが不穏な声音になる。
「ミッドガルドに『も』……?
ニノ。こっちにもそんな人いたのか。いつの間に」
「ちょ、ちょっと待って?!」
うさぎまんの小包を抱えて、ニノは大慌てだ。
「さっきからなんか変な誤解があるみたいだけどっ!
俺には妻も愛人もいないからな! ミッドガルドにもリアルにも!
それどころか恋人もいないし!! 一体どうしてこんな話になってんだっ?!」
「えっ?!」
イズミ、そしてレン、チナツ、クレハがニノをガン見。
やがてイズミが口を開く。
「まず、聞くけど。チコちゃんのこと、好きじゃないのか」
「チコにそーいう気持ちはいっさいないから。」
ニノがきっぱり言い切れば、チナツとレンが問いかける。
「はいせんせー!」
「ニノとイズミはラブラブだよな?」
「そう判断した理由を聞こうか。」
「ひっ?!」
ニノとイズミは息ぴったりでドスをきかせ、チナツとレンの肩に手をのせる。
クレハが大きくため息をついた。
「……そういうとこだよ」
「えっ」
「おそろいのオッドアイ。驚くほどに一致する呼吸。
さらにイズミはニノのこととなるとやきもちがかなり激しい。
わかりやすいところでは、あれだ。
『イズミが風呂に入ってる間に勝手に出かけるとホットケーキたかられる』というやつ」
「あー」
何人もが納得の声を上げた。確かにそんなことがあった。
『おれとイツカの覚醒』『シャスタの泉攻略』『強化羊毛アイテムプロトタイプの完成』が重なり、急きょ開かれた全体集会の時、ニノはそう言って遅れてきたのだ。
「そーいやニノとオレたちでトラオを落としたときも、部屋の外で待ち伏せしてんなこと言ってたな。な、チアキ?」
「あ……そういえばそうだね。
イズミくんすっごく不機嫌だった!」
レンがぽんと手を打って言えば、チアキがうんうんとうなずく。
それを受けてクレハは、冷静に先を続ける。
「Ω堕ちから救い・救われた間柄であることや、バディであることを差し引いても、友人という間柄には見えづらい。
少なくとも俺たちはそう思っている、という事だ」
「……………………。」
ニノとイズミは不意をつかれたように沈黙した。
ソーヤとシオン、もと『うさぎ男同盟』の同士は顔を見合わせる。
「そういやイズミ、まえはもっとサバサバしてた、よな……?」
「そうそうそうだよ!
イツカとカナタのポテストのときだって、急に『邪眼』なんかかけたりして、らしくないってオレおどろいたもの!」
「……その件だけど。
実はおれ。『嫉妬』の宿主になってたんだ」
するとイズミは、意を決したようすで言い出した。
あわわわ、ブックマークありがとうございます!
こ、こんなに読んでいただけていいものなのか……が、がんばるっきゃねえ(プルプル)
次回、小さな解決編。
『この世で一番大切』は、恋人だけじゃない。




