Bonus Track_22_2 数日前。とある医療施設にて。~ノゾミの場合~
ちょっと所用+書き直しで遅れました。
大丈夫です、無事ですよー!
待合のソファーに掛けている間、ふと、今日の授業の内容が思い出された。
いまや、この地球上のほぼ全域を管轄する『ティアブラシステム』。
これは、旧来の地球環境にはなかったモノを、色々と我々に与えた。
そのひとつが『PEF』だ。
『ティアブラシステム』内にある生物とアイテムは、すべてこれをまとわされている。
しかし平素、通常の人間の知覚では、その存在を感知しえない。
言い換えれば、コマンド『表面換装』の実行により外観や質感を変更することで、見たり触れたりが可能となる。
この『PEF』は、ある程度体やアイテムの中にまで浸透し、そこから全周囲にむけて広がっている。
その『体に浸透している深さ=浸透深度』『表面換装などに対する変化のしやすさ=可塑性』『一度獲得した形態を保ち続けるための耐久度=形状靭性』『周囲に向けて広がる大きさ=展開半径』そしてはある程度の相関関係がある。
これらは二つのグループにまとめられる。
浸透深度と可塑性(グループI)、展開半径と形状靭性(グループII)の二グループだ。
各グループ内に含まれるペア。すなわち浸透深度と可塑性、展開半径と形状靭性は互いに比例することが多く……
逆に各グループの対応する特性。つまり浸透深度と展開半径、可塑性と形状靭性は反比例の関係にある。
それに基づけば、我々人類は三つのタイプに分類される。
グループIIの力が大きく、グループIの力が小さな個体をタイプ-α
その逆の個体をタイプ-Ω
中庸の個体をタイプ-β
これが現在のα、β、Ωの源流であり、本来それらの間に貴賎は存在していない。
しかし、極端な可塑性の大きさはBPを利用してのPEF、ならびにその内側に対する本体構造に対する強制変更、ぶっちゃけ言えば各種攻撃に対する『弱さ』とつながることは否めなかった。
これに対抗する力を与えるものがTPなのだが、それを多く持たないΩ個体もおり、彼らは戦闘の激化とともに徐々に『下層』の存在として扱われるようになっていった。
しかしながらその高い可塑性は便利なものでもあるゆえに、BPの利用に長けない個体の所持TPを低く抑え、意図的に下層Ωとすることで身辺の利便を供する存在として特化、利用することで――
やめよう。
これは歴史であり、事実だ。
これから見舞いに行く二人が、身をもって体験する羽目になった現実でもある。
しかし、愉快なものではないし、そのままにしておきたいものでも絶対にない。
そして、今考えるべきことでも。
いま、受付番号がコールされた。
おれはミツルとアオバとともに立ち上がり、受付カウンターに向かった。
「先生!」
「ありがとうございます、今日も来てくれて……」
ミツルとアオバをドアの外で待たせ、まずは俺一人が入室した。
俺の姿を見ると二人は、ぱっと顔を輝かせた。
ベッドに腰かけた二人は、昨日よりも元気そうな顔をしていた。
身に着けているものももちろん、メイド服なぞではない――淡いブルーの清潔な入院着。
PEFの特性も、すっかり一ツ星の標準レベルで安定している。
「食事はとれてるか? 昨日は、よく寝られたか?」
「はい、おかげさまで……」
「体的には、もう大分だいじょぶみたいです。
これなら、一週間もすれば退院できるそうです」
そして精神的にも、かなり安定してきている。
よかった。俺は手を伸ばし、わしわしと二人の頭を撫でていた。
「そうか、それはよかった。
自我を封じられていたとはいえ、お前たちは一年近くあの屋敷でこき使われていたんだ。しばらくのんびりしても罰は当たらないからな」
「ありがとうございます。何から何まで……」「俺たち、あそこで斬り捨てられていても、文句は言えない立場だったのに」
「助けてくれと言ってる子供を見殺しにする教師がいるか。
……ところで、お前たちの見舞いにきた、話をしたいという者がいるんだが」
「俺、たちに……」
「見舞い?」
二人は不思議そうに顔を見合わせた。胸が痛んだ。
こいつらは確かに事件を起こしかけた。だが、もとは友人だって家族だっていた普通の子供らだ。
それが、『俺たちに見舞いなんて来るわけない』と、そんな風に思ってしまっている。
「えっと、誰、ですか……?」
「サヤマとテンリュウだ。
……どうしても無理なら、断っていいんだぞ」
「っ………………」
二人はさらに驚いた様子で沈黙した。
やがて、二人は覚悟を決めたようにうなずきあった。
「サヤマ、……君には、謝らないといけません、から……」
「逃げません。会わせてもらえますか」
「あの時は本当に、すみませんでした!」
立ち上がり、深く頭を下げて迎えるふたりを見て、ミツルはああ、と一つ息をついた。
やがて、きっぱりと言う。
「繰り、返さないなら……もう、いい。から。
実際、俺は。なにもされて……いないし。
……あいつは。一緒じゃなかった……?」
「あの、……俺たち。あすこに買われてからの記憶がほとんどなくて。
でも多分、一緒だったんだと思う。
あの女、セットものが好きだったから」
「そうか…………。」
ミツルはうつむいた。深くかぶったフードに隠れて、その表情は知れない。
しかし、背中の羽が不機嫌そうにわさわさするのは、充分に見て取れた。
やがて、ミツルは顔を上げて、新たな問いを口にした。
「二人は。うちに、帰るのか」
「帰れるわけないだろ。
たとえ記憶は消去してもらったって……一年ちょっと高天原にいてそれとか、絶対『何か』やらかしたってバレバレじゃんか。
そうしたら、おやじやお袋がどんな風に言われるか……」
「だから俺たちは。再入学して、αになってから。
そこからじゃないと絶対帰れないんだよ。
サヤマの卒業まで、なんとか住み込みで働けるとこ、みつけて……もう一度、Aランク100万達成して。そこからまた、高天原に入る。何年かかっても」
やるせない笑いを見せる二人に対し、ミツルがさらに問う。
「俺の、卒業、まで……?」
「え、いやだって!」
「サヤマも嫌だろ。俺たちなんかがまた、一緒の学校に……」
対して、きっぱりと首を振るミツル。
後ろ手にぎゅっと、相棒と手を握って。
「別にいい。
繰り返さないんだろう。なら俺は、いい。
俺にはもう、アオバがいる。……怖いものはない」
「……でも」
しかし、その手に震えはない。
それどころか、戸惑う二人に対してこんな申し出をしたのだ。
「なら、俺に協力してほしい。
あいつを探したい。
……あいつに言いたいことがあるから。
その。情報料も、……渡す。から。
あいつを見つけたら知らせてほしい。
……頼めるか」
ミツルは、自らフードを脱いだ。
切りそろえられた銀髪の下、真摯な瞳がまっすぐ、二人を見る。
二人ははっと息をのみ、やがて、我に返ったかのように手を差し出した。
「わかった。……よろしく頼む」
「よろしく、サヤマ」
「ありがとう。よろしく。」
ミツルはしっかりとその手を握る。
『闇夜の黒龍』から奪還した二人との見舞いに、ついていかせてくれないか。そして直接話をさせてくれないか。
ミツルがいつにない勢いでそう頼んできたときに、俺は正直渋った。
相手が相手だ。ミツルの心の傷も、完全に癒えていると断言はできない。
それでもミツルの意志は固く、アオバもバディとしてフォローすると、頭を下げてきた。
その結果は、予想以上のものだった。
俺は大きく息をつくと、新たな話を切り出すことにした。
彼らの復学の話である。
ブックマークを頂いているという現実について400字以内で述べよ(配点:10)
うわーん。ありがとうございます! 60ブクマ達成(二度目)です!!
う、嬉しいからって何度も見ない見ない……
次回! もふもふラブコメからの七つの大罪の疑惑(予定)!
お楽しみに!




