21-8 そして、大浴場へ……。
結局、形としてはゼロ回答となった。
零星たちの一ツ星引き上げは、不公平性があるという事でなしに。
二ツ星たちの全員当番も、月給変更も立ち消えた。
ミズキも零星にはならず一ツ星のまま、引き続き零星をメインとした生徒たちの支援を続けることに。
突然の学則変更騒ぎは、『当番の負担集中が懸念されるというのが本当なら、明らかに先延ばし的な』結果となった。
しかしこれを機に、多くの有志が自発的に当番に加わることになったので、零星、一ツ星たちの負担は明らかに減った。
イツカはというと、『掃除するんだから入っていいよなっ!』というので、さっそく大浴場にうきうきレッツゴーだ。
イツカのおまけということでおれもお邪魔したのだが、なぜだか多くの生徒たちにショックを受けた目で見られた。脱衣所の隅で壁とお友達になっている人もいた。解せない。
さらに解せないことには、『お前らだけだとなんかあぶねーから』とレンが、『よくわかんないけど僕もいっしょにいくねー』とチアキがついてきてくれたこと。
大浴場にはモンスターエンカウントがあるのだろうか。だとしたら厳しいお風呂だ。
『あー、うん、まあそんな感じで考えてくれ……』
とレンは言っていたのだが、どうもそんな様子はない。なんだったのだろう。
ともあれおれたちは無事に頭と顔と体を洗い、まわりのみんなと湯船で談笑中だ。
「しっかしイツカって変な奴だよなー」
「そーそー。せっかくいい部屋にいい風呂なんだろ? それをこんな混んでて騒がしい風呂にさ……」
「そっか?
俺としちゃー風呂はみんなでワイワイ入るもんだったからさ。こっちきて寂しかったんだよなー。せめてカナタと一緒に入ろうと思っても狭いし」
「ぶっ?!」
「か、かかかなたさんとふたりで、おおおおふろっ……」
周囲の何人かがソワソワしはじめた。のぼせたらしくざばざばと上がる者もいた。
「いや、ここ来るまではカナタともずーっとフツーに一緒だったし。なーカナタ?」
「うん、五歳のころからの腐れ縁だからね」
「ごさいのかなたさんっっ!!」
「お前はもう上がれ。」
幸せそうな笑顔の少年が一人担ぎ出されていった。
……なんとなく理解した。
「ありがとねレン、チアキ。
なるほど、おれみたいのはやっぱなんというか、好奇の目で見られがちなんだね。
みんなおれが男なの、わかってると思ったんだけどね……」
その後、学食に引き上げたおれたちは、湯上りフルーツ牛乳をチョイス。
ここまでついてきてくれたレンたちにお礼を言った。
「わりーな、つかまあ悪気じゃねーんだよ。
あいつらにとってカナタってやっぱ、どっかミステリアスなソンザイだからさ。
……実は女子だったりして、とか夢見てた野郎どもも何人かいたし。
ほんと、気ィわるくしたらごめんな。あとでまとめて吹っ飛ばしとくから」
「ううん、平気だからいいよ。
それに、うん。やっぱ、楽しかったし」
「カナタがミステリアスねー……」
イツカのやつが首をひねる。いや、完全否定というのもなんだか穏やかじゃないな。
そう思ったおれだが、やつは逆を行ってきた。
「……確かにミステリアスかもしれない」
「えっ?」
「結構きまぐれだしさー。ニッコリ笑ってすげえこと言うしさー。何考えてんのかたまーに謎すぎだし!」
「それはミステリアスって言わないからねイツカ?
っていうかきまぐれ謎生物はお前の方だから!」
「えー」
イツカは猫を愛する猫装備だが、なかみもだいぶ猫っぽい。つまりはふしぎ生物だ。
おれは付き合いが長いから大分つかんでいるけれど、それでもやはり謎は残る。
その本家本元に『謎すぎ』といわれるほど、おれは変人じゃないはずだ。
そんなことを言い合っていれば、後ろから聞き覚えのありすぎる声。ミズキだ。
「あ、いたいたふたりとも。
せっかくだから一緒にとおもったけど、入れ違いだったんだね」
制服を端正に着こなし、色素の薄いほっぺたをピンクに染めて微笑むさまは、野郎とは思えないほど綺麗で、一瞬見惚れてしまう。
それは、同じ一ツ星で何度も一緒しているはずのレン、チアキもだ。
だがおれのとなりの猫野郎だけは無邪気にニコニコ。
「おーミズキー! なんだ、だったらコールくれりゃよかったのに」
「思ったよりはやく財団のことが片付いて、直前で思いついただけだから。
今度は待ち合わせて一緒に行こう?」
「おう!」
そのとき、ふと気になった。
「ねえ、ミズキはそのー、お風呂でその、騒がれたりしなかった?」
「え? お風呂でなんかあったの?」
ふわりと小首をかしげるミズキに、レンが苦笑しながらやわらかめの解説をしてくれる。
「あー。なんつーかさ、アイドルが来たってんでまあ、騒がれたんだよ。
ほら、こいつら特待生だから大浴場初めてじゃん?」
「そっか、それは大変だったね。
俺はべつに騒がれたことはないよ。一ツ星入学だったし、みんなと一緒に普通に。
確かに最初は、ちょっと驚いたけどね。こんなにぎやかなお風呂は初めてだったから」
事態を察したらしいミズキは、癒しの笑顔で思いやってくれた。
頭の回転の速いレンが、あとを引き継いで教えてくれる。
「ミズキは確かにうわーすげー美人いるーとは思われてたけど、自然体すぎて騒ぎようがなかったんだよなー。あ、はい、て感じで。
ちなみにミツルんときはちょっと騒ぎになってたぜ。
あいつ体より顔隠す奴だから」
「あー………………。」
それは確かにちょっとした騒ぎになるだろう。
しかしナナメ上野郎はぽんと手を打つ。
「あー、それ楽かも」
「やめてねイツカ?!」
ちなみにこいつは基本隠さない。今日だっておれが、ほかの人いるんだから前くらい隠せと注意したくらいだ。先が思いやられる。
心の中でため息をついていると、ミズキが静かにおれのとなりの席に掛けた。
「それはそうと、ソナタちゃんの手術の日取り。もう決まったの?」
「あ、うん。何もなければ一か月後。
そこまでに体調を整えて、それで。
……その前後は、里帰りしていいって」
「そっか。
一ヵ月……あれば、間に合うかもね。
αになるのも、ミライ君の身請けも」
「うん。こうなったら、スパートかけていくつもり!
そうなったらさ……」
「俺、もしかしたら零星になってるかもよ? 理事会で言ったみたく。
そしたら、負担にならないかな、ミライ君の。
優しいミライ君のことだもの。ソナタちゃんもいるのに、俺に付き合おうとして、苦しむんじゃないかな……」
はじめてミズキがおれたちにみせた、気弱な様子。なにかあったの、と尋ねると、チアキが小さな声で教えてくれた。
「あのね。ミズキくんも、さいしょのバディと解散してるの。アオバくんとおなじように」
「そうだったんだ……。」
アオバも、困っている生徒たちをほっておけなかった。
それゆえ、初期バディとしてあっせんされたカナイさんと意見が合わなくなり、バディを解散したのだ。
ミズキが小さく視線を落とした。
「あのひとは悪くないんだ。ここにはαになるために来ているんだから。
あのひとの卒業はもう、決まったけれど……迷惑をかけたと思ってる。
スターズエイド財団を作って、志を残すことができた。俺も卒業を目指そう。そう思っていたけれど……それが誰かに余計な負担をかけるなら、俺は責任を取らなきゃならない。
それにミライ君を巻き込むことには、疑問があるんだ。
だから、……」
確かに、ミライはとても優しい子だ。
ミズキの懸念する通り、早くソナタのためのαになりたいという気持ちと、ミズキや仲間のためにという気持ちで板挟みになることだろう。
しかし。
「それでいま断っても、ミライはきっと、そのことを察すると思う。
だから、率直に話してみるといいんじゃないかな。
今日はもう帰ってるから、あとでコールでも、明日直接話すのでもさ」
そう、ミライは賢い子でもある。
大きなところでは『エンジェルティア』や『ワスプ寄せ事件』。小さなところでは日々のあれこれ。
ひとつずつのりこえるたび、どんどん頼もしく成長してきた。
それに、ミライのことを考えてくれる仲間も、たくさんいる。
もちろん、おれたちも含めてだ。
「だな。ミライはちゃんと自分の意志を持てる。
だいじょぶだって、事態が変わったらそん時そん時!」
イツカが明るくニカッと笑う。
つられるようにミズキも、笑顔になった。
いつもありがとうございます♪
次回、新章突入! やっとソナタちゃんの件に……行けると思う!
お楽しみに♪




