21-1 カナタ、秘密のもふもふタイム?!
現在おれは、ある意味大変説明しづらい状況にある。
まず、寮室のリビングで、ソファーのまんなかに座っている。
「そっかぁ、そうだったんだね……。
それはおれも迷っちゃうよ」
そして、左の垂れ耳をミライが。
「だからって俺をモフり倒すのもどーかと思うんだけどなー?
けもパーツは透過かけれないんだぜ?」
右の耳を、イツカがブラッシングしていて。
「イツカさん、そういうときにはお耳をしまってみてはいかがかしら?」
ライムがミルクティーを淹れてくれている。
これ、ほかのだれかに見られたら絶対におちょくられる構図だ。
いや、たしかに気持ちいいし、うれしいんだけど……
「その手があったかあああ!!」
「イツカ、耳のそばで大声出さない。」
そのとき大声を上げるイツカ。おれは思わず右耳で、軽くやつをはたいていたが。
「あ、それ気持ちいい」
やつはうれしそうにそれをキャッチしてモフりはじめた。よしよし、そういうことならおれにも考えがある。
おれはさっそくうさ耳をしまってみた。
「…………………………」
するとイツカは、妙な手つきでぱかっと口を開けたままフリーズ。
うん、これはちょっとおもしろい。今後たまにやってみてもいいかもしれない。
「カナタ……」
なんて思ってると左から悲し気な声が!
ハッと振り返れば、ミライがブラッシング用ブラシを手にしたまま、捨てられた子犬のような目でおれを見上げてる。
しまった。あわてて耳を出し直して謝った。
「ご、ごめんねミライ! ほっほら耳出したから! 続きお願い、ねっ?」
「むう……もうやらないでよ? びっくりしたんだから!」
「うんわかった、もうやらないからっ。
えっとほら、その、しっぽ触っていいから、ね? だから許して、ね?」
「えっ、いいのー? わーい!」
「いいなー! カナタ、俺にもしっぽー!」
「おまえはもう耳モフったからだーめ!」
「ええええ!!」
そんなやりとりをしていると、小さくきれいな笑い声が聞こえてきた。
ライムだ。
おれたち三人を優しく見て、微笑ましげにこういった。
「本当に、三人は仲がよろしいのですわね。
見ていてほっこり致しますわ」
「えへへ……」
ミライが照れて笑う。イツカが悪乗りする。
「ライムちゃんもモフモフしていいぜ!」
「それではお言葉に甘えて♪」
「え、ちょ、ええええ?!」
ライムはソファーの後ろに回ると、おれたち三人をまとめてぎゅっとしてくれた。
「……三人とも、ほんとうに、大きくなりましたわね。
初めて会ったときは、こんなにちっちゃかったのに。
まさかこうして、いっしょに高天原で過ごすことになるなんて……
いえ。
どこかで、予感していたのかもしれませんわね」
感に堪えないといった様子。胸がじーんとしてしまう。
やがて、イツカが言いだした。
「ソナタちゃんの手術が終わってさ。
元気になったら、こんどは五人でお茶しようぜ!
そのときまでにαになってさ。ミライも身請けして!」
「そうできたらうれしいけど、おれの身請けまでは厳しくないかな……?」
ミライが心配げな声を上げる。無理をかけるんじゃないかと気遣ってくれているのだ。
おれはそっとミライの頭に手を置いた。
「だいじょうぶだよ。
αになったら『ハートチケット』がもらえる。
それ使えば、手術費用とかは還付してもらえるでしょ?
そしたら、それをミライの身請け費用に充てる。
あとはすぐだよ!」
「そう……だね。
ふたりとも、ほんとにごめんね。おれのために……。」
きれいなエメラルドの目を潤ませるミライを、おもわずぎゅーっと抱きしめていた。
「いいんだよ、ミライはおれたちの『弟』だもん!
どうしてもっていうなら、そのぶんソナタをしあわせにして。ね?」
「そうそう! ミライにはいつもめっちゃ助けてもらってるからな!
こよみんときだってなんか、すげーパワーで手伝ってくれたじゃん。
なんか金色に光ってさ!」
イツカもニコニコ笑いながらそういう。
そう。つい数日前、ミライはおれたちを助けてくれたのだ。
ぎりぎりまで減速されていたとはいえ、『小夜見II』の勢いは相当のもの。
何とか受け止めようと苦戦するおれたちを、ミライはまとめて助けてくれた。
金色のやさしいきらめきをまとったミライに触れられたとたん、重みも苦しさもすっと和らぎ、おれたちは『小夜見II』を無傷でキャッチすることができたのだ。
しかし、ミライは小首をかしげた。
「そういえば、あれ、何だったんだろう。
神聖強化でもないし……」
「え、ミライのなんかパワーじゃないのか?」
「うーん。そういわれればそうなんだけど……それがでてくる『もと』をもらったっていうか……」
「『もと』?」
イツカが驚き、おれも首をひねった。
「なんか、魔法やポーションをもらったみたいな?」
「あ、うん、そうそれ!
かんじ的には……ソナタちゃんの神聖強化みたいな!
あのときね、ソナタちゃんがおれたちのために、お祈りしてくれてるかんじがしたんだ。
そしたらすっごく、うわーってきて……」
「おー! 通じ合ってんじゃんミライー!」
「えへへ! そ、そう……かな?」
うれしそうに照れ笑いするミライをみていると、そうであってほしいと心から思う。
けれど実際問題、そんなことがありうるのだろうか?
こたえてくれたのはライムだった。
「それは、『まれですが、確かにあること』ですわ。
高天原は全周を包む障壁により、外部からの干渉をほとんどシャットアウトしております。
けれど、それを越えることができるものも、ごくまれに存在するのです。
『ティア・アンド・ブラッド』の女神ティアラは、すなわち月萌の『マザー』。
つまり、女神ティアラのたまわりし特別な品ならば、高天原の障壁を超えて、そうした効果を発揮することができるのですわ」
「……あっ」
そのときおれたちは声を上げた。
思い当たるものは一つ。
「『守りの銀十字』!」
イツカの『戦士昇格』のとき、女神ティアラが賜ったアイテム。
首から下げられるよう、おれがうまくチェーンをつけて……
ミライが、おとっときのかわいいリボンをむすんでくれて。
そうしてイツカが、ソナタに渡してくれた。
おれたち三人からのプレゼントというべきそれが、おれたちを助けてくれた。
つまり、あのときソナタはおれたちを見ていてくれて、おれたちのために祈ってくれた。
兄として、こんなうれしいことはない。
しかも、そのパワーが来た先が、ミライという事は……
おれの胸は、しあわせでいっぱいになった。
あと一歩。あともうすこしで、かわいい妹と『弟』が、しあわせの第一歩を踏み出すことができるのだ。
もちろん、ソナタはまだ十歳。いろいろまだまだ早すぎるけど、それでも思えるのだ。
ふたりならきっと、ずっと仲良く、手を携えて行けるはずと。
そのためにも。
おれは、心を決めた。
そして、ライムに向き直った。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回はスイーツバイキングでわちゃわちゃします。
真面目な話をするはずが、一体どうしてこうなった。
お楽しみに!




