20-5 3S『暴食』(1)
少し迷いましたが、分けました。今回、そして次回は短め(……の予定)です。
2020.11.03
13年前→8年前
単純な計算ミスですすみません……orz
『3S』ときいて思い出されるのは、8年前。
ソナタがやっと、2歳になったばかりの頃のこと。
『母さん』はソナタをあやしながら、何度も言い聞かせていた。
『ね、ソナタちゃん。
もしもお顔に、不思議な模様があって、とっても苦しそうにしている人がいたら。
すぐに、まわりのひとに教えてあげてね』
ソナタはハートチャイルド。心臓に障害を抱え、満足に外を歩くこともできない身の上だ。
そんな子供にさえ、このセカイでは、しっかりと教え込む。
3Sの存在を。
放置すれば世界の危機につながる、危険な病と。
けれど早期に発見、治療すれば、すっかりと治ってしまうものであると。
学校――星降スタディサテライトでも、何度も習ったものだった。
社会の宿題として書いたレポートの一節は、今でもそらで言う事ができる。
『有史以来、社会の不安や不公平感がある一定を超すと、現れる病があります。
『SSS』もしくは『3S』と呼ばれるものです。
3Sは、ランダムに宿主を選んで取り付くと、大きな力と自らの欲望を送り込み、無理にでもそれをかなえさせようとします。
その結果、宿主は人の域を超えた欲望に振り回されることになり……
最悪のケースでは、欲望に狂わされて戦いを起こし、いくつもの国を滅ぼし、最後に自分も滅ぼされ、あとに甚大な被害を残すことになります。
そのため、3Sにかかったかもしれないと思ったら、早期に検査をうけることがどの国でも義務付けられています。
現在では安全な検査法、治療法が確立されているので、このことで不利益を被ることはありません。』
さっきおれが聞かされた話は、まさにそいつのことである。
ほとんどの人は、実際に巡り合うことなく一生を終える厄災が、仲間のひとりにとりついている。
そんな知らせは、いやでもおれを緊張させた。
……ただし、ほんの一瞬だけ。
* * * * *
白く、なめらかな毛並みを軽くモフらせてもらうと、すっかり人心地着いた。
トラオにお礼を言っておれは、さっそくクラフターズ・ラボに行ってみることにした。
フユキをモフるためではない。純粋に情報を、それを得られる機会を求めて、である。
はたして、ラボの入り口そばでおれは、シオンとソーヤに行き会った。
「あ、カナタ!」
「よーっすカナぴょん!」
ふたりはニコニコ手を振ってくれた。おれも振り返して駆け寄った。
「ふたりとも奇遇だね。宿題?」
「いんや、あーちゃんに呼ばれて。カナぴょんは?」
ソーヤはすっかりふつうのタメ口だ――彼は『ふしふた』の千秋楽あたりから、おれたちへの敬語(というかバイト語)をやめたのだ。
おれとしてはやっぱり、こっちの方がいい。まあ、すでにだいぶ慣れてはいたのだけれど。
「おれは、ここでなんか面白いことやってるってエルカさんに言われて」
「じゃあさ、じゃあさ、いっしょに行こうよ!
オレたちクラフターだからってことでよばれてるし、カナタもきいといてソンはないと思うから!」
シオンは短い黒うさ耳をパタパタさせ、ひとなつっこく誘いかけてきた。
うん、癒される。もちろんおれはそのお誘いにのった。
約束は第二錬成室。
ドアを開けるとそこには、アスカとフユキとニノ、コトハさんとナナさん、そしてマイロ先生とエルカさんがいた。
アスカはおれをみて、ちょっぴり驚いた顔をした。
「およ、カナぴょんもきたの?
じゃとりあえず、聞くだけ聞いといて。
ざっくりしたとこは、あらためてお茶会で話す予定だったから。
三人ともてきとーにすわってすわって~。いまから『うさねこ』緊急集会始めまーす!」
どうやら、召集メンバーはおれたち(というか、シオンとソーヤ)で最後だったらしい。
おれたち三人が手近の席につくと、アスカはこほんと咳払いをして話を始めた。




