20-4 トラオの災難と決意
投稿出来て……なかっ……た……?!
ご心配おかけしました!!m(__)m
「だ・か・ら! なんでお前ら俺なんだよっ!!」
トラオは純白の毛並みを逆立ててフシャーといわんばかりの様子だ。
おれは彼に落ち着いてもらうべく、ゆっくりわかりやすく答えを返す。
もちろん、控えめな笑顔も忘れない。
「アオバとフユキはなんか忙しそうだし……
リンカさんはさすがにアウトだし。
そうなったらあと頼れるのは、トラオしかいなかったから」
一方でレンはというとなんか変なスイッチ入ってる。
「だってさぁ、アスカやハヤトじゃ話にならねえし、アキトにゃ無理って即答されたし、かといってチアキやサリイやリンカはさすがにオレも罪悪感あるし……
だからオレにはもう、おまえしかいねえんだよ!」
おれたちはそろって頭を下げた。
「お願い、モフモフさせてっ!!」
「頼む、新型ボムの被験者やってくれっ!!」
「帰れ!!!!」
そしてまとめてトラオの部屋からつまみ出された。
「なにやってんのよあんたたち……」
その声に振り返れば、あきれた顔のルカと、くすくす笑うルナがいた。
「トラオのやつ、ど――っしてもいいって言ってくれなくてさぁ……
もう一回ぐらいいいと思わね? あんだけいーモンもってるやつって他にいねえんだってもう何回も言ってんのにさぁ……」
そしてここは、学食カフェラウンジエリア。
レンはいつものごとく、牛乳を飲んだくれつつのたまわる。
ルカは、頭痛いという様子でこめかみをおさえていた。
なぜか途中でエルカさんも加わり、ルナといっしょにニコニコしている。一体どうしてこうなった。
ともあれおれは聞いてみた。
「シミュレーターじゃダメなの?」
「じょーだんだろ!
あんなマグロとトラをいっしょにしちゃいけねーよ!
はー、あんときのトラよかったなあ……もう一度、もう一度でいいからさー……」
レンはすっかり変なスイッチ入ってる。
そろそろ、いろんな意味でトラオが心配になってきた。
かける言葉を探していたら、すさまじいいきおいで近づいてくる足音。
この圧は……ダメだ、ふりかえることができない!
おれが思わず固まっていると、チアキの半泣き声が聞こえてきた。
「レン……
またトラオくんのとこ、いってたでしょ……
もー! 僕レンのバディなのにー! なんで僕じゃダメなのー?!
僕だって、トラオくんよりもっともっとできるんだからー!!
僕だって……僕だって……ぐすっ……」
「あ、あわわ、チアキ!
たったのむおちつけ、その、けっしてオレは……」
まわりの生徒たちがざわついている。これでは完全に修羅場である。
エルカさんが微苦笑しながら立ち上がり、よくとおる声でこういった。
「レンくん。もしよければ、わたしがきみのお相手をしようか?」
そのとたん、学食は水を打ったように静まり返る。
ルナとおれ以外の全員が、おとなの色気をただよわせた緑狐を凝視する。
一呼吸、二呼吸。三呼吸目にエルカさんは言葉を継ぐ。
「新型ボムの試し打ちなら、エクセリオンのわたしが適任だろう。
これでも国防をつかさどるものだからね?」
静寂の学食に、そこにいる全員の耳に、その声が、そして正しい事態があやまたずしみこんでいく。
数秒後、その場はどっと笑いに包まれた。
売れっ子デザイナーにしてトップモデルで、月萌国防軍の情報部員。
エルカ・タマモ――トリプルフェイスの緑狐は、その凄腕をいかんなく発揮すると、ぱちんと片目をつぶってみせるのだった。
「つまり、トラオくんのホワイト・ソニックでの正確な迎撃。炎吸収防具セットと『シャスタの指輪』という、二点のS級装備による高い防御力。そして、本人の適度な強さ。
それらがボマーとしての征服欲をそそる、とこういうわけだね?」
「そ、その通りっス……」
「なら、こういうのはどうだろう。
チアキくんがトラオくんから炎吸収防具セットを借り、『シャスタの泉水晶』を使った必殺剣技で迎撃する。これなら、君の新型ボムにもいい感じで対応できるはずだ」
「チアキが、必殺剣技?
うーん、でもなぁ……」
「あっ、なんか疑わしそう!
僕だって、ソニックブームのほかにもいろいろ、使えるんだからねっ?」
「い、いやっ! そうじゃなくって!
チアキってさ……見た目からしてその……や、優しそう、だし……
あんまその、ボムとかぶつけたく、ねーなって……」
「レン……!」
ホンワカムードにつつまれるレンとチアキ。この二人はもうだいじょぶそうだ。
そう思ってると、エルカさんがおれを呼ぶ。
「で、カナタ君だ。
……まあ、予想はついていたけどね。
ライム君とのことだろう? 悩んだ君はイツカ君をモフりすぎ、禁止令を出された」
「あ……そのとおりです……」
エルカさんは気さくに笑って、とんでもないことをのたまった。
「まあ、アレはふつうに悩むよな。
ここはひとつ別のことをして、べつの人をモフればいいんじゃないかな?」
「え゛っ……」
いや、いやエルカさん。それは、それはまずくないですかいくらなんでも。
おれとルカが硬直してると、エルカさんはニコニコしながらこう言った。
「いやいや、女子をすすめることはさすがにないよ?
たとえばフユキ君だ。クラフターズ・ラボで仲間たちとなにか研究をしているみたいだし、クラフターの君ならお手伝いの報酬に、というのもいいんじゃないかな?
うさぎ好きという点で言えば、『うさぎ男同盟』の誰かに頼んでもいいのだし。
もうすこしだけ待つことができるなら、ミライ君が一番の適任とは思うけどね」
「ええっと……とりあえず把握度半端なくないですかエルカさん……」
「そうかい? 君もイツカ君のこととなるとBP1の位までリアルタイムで把握してたっていうじゃないか」
「そっ、それはっ……」
エルカさん、実にいい笑顔。うう、ここは一旦退却だ。
「あ、あのっ! ありがとうございましたっ!
えっと、その、いろいろまわってみますんでっ!」
「おいレン、カナタ!」
そのとき、またしても後ろから声がかけられた。
振り返るとそこに仁王立ちしていたのは、決意の表情のトラオだった。
「あのよ。さっきリンカに言われたんだ。
お前たちは俺の仲間だ。それが困ってるなら、力になってやれって!
だから、一回だけ!
い、いいか、一回だけだからなっ?」
「え、マジ?!」
その途端レンがガタッと立ち上がった。
「………………レン?」
「あ、あの、いやこれはその……」
そしてチアキの視線に気付いてさあっと青ざめる。
しかし、チアキはそんなレンに、あったかな笑顔を向けた。
「いいよ、もう怒んない。
レンは僕のこと、ちゃんと気にかけてくれてる。そのこと、ちゃんとわかったから。
だから、もうだいじょうぶだよ!
やきもちやいちゃって、困らせちゃってごめんね、レン!」
「チアキー!」
手を取り合って盛り上がる二人を見て、トラオがどこか平板な口調で言う。
「………………あー。これってさー、バディのハナシしてるんだよなー?」
「………………たぶん」




