Bonus Track_20_1 同じ姿とIDの~トウヤの場合~
『ああ。
奪還された二人の記憶ログの再現から、今度こそ確定だ』
「そうか……」
月萌国軍情報部の緑狐の声は、力強く弾んでいた。
珍しく、俺の胸も高鳴った。
俺の『たったひとり』を殺そうとした女に、今度こそ手が届くのだ。
十年前にも、おなじような事件があった。
ジャックされた衛星が、高天原に落とされる、という。
この時の統括理事会の対応は最悪だった。
『敵国勢力に、国内の衛星システムへの侵入を許したことが知れれば、体面を失う』
そんな理由から、『ただのいたずら』として片付けようとしたのだ。
自分の子供たちだけは、口実をつけて学園から出しておき、残っただれかの不手際による爆発事件としてことを収めようとした。
高天原に犯行声明がよこされたのが、水曜の朝であったこと。つまり今回のように全国に流されなかったのをよいことに。
それを許せなかったある少女は、自分はグラウンドに残り、衛星をとめるといいだした。
もちろん、俺や仲間たち――ミソラやノゾミ、エルカやオルカ、学長をはじめとした何人かの教員もいた――は、彼女とともに残ることにした。
後に分かったことだが、それこそ罠だった。
俺たちは、衛星落下作戦のターゲットだった。
理事会の初動が遅れたために、航宙防衛隊、航空防衛隊とも満足な対応を取ることができず、対応は地上防衛隊と俺たち有志に任された。
それでも力量不足は、いかんともしがたく……
その絶体絶命のピンチを救ってくれたのは、『偶然』『何も知らずに』やって来たソレイユの奥方だった。
『娘たちの入学が決まったから、懐かしさもあってちょっとあそびに来てみたのだけれど……なんだかお星さま? が落ちてくるというから、お手伝いしてみたの。いけなかったかしら?』
と、その元エクセリオンはころころ笑った。
それでも、ことの黒幕はまんまと逃げおおせた。
『これは単なるいたずらに、不運な事故がかさなっただけ』としたい理事会も、用意されたスケープゴートを形だけ処理して口をつぐんだ。
その日から俺たちの目標は、単なるαから、エクセリオンに変わった。
国内の人間としては最高の権力者となり、月萌の闇に潜む悪をこの手で暴くため。
その後間もなく入学してきた、レモンとライム、マイロを仲間に加えた。
エクセリオンたる要件をみたすため、俺とアカネは同意のうえで交際を解消。
俺はエルカと。アカネはオルカと。それぞれバディを組みなおした。
そうして、戦って、戦って。
探って、探って。
今日のこの日がある。
奴の犯した罪の名は、外患誘致罪。
月萌においても、最も重い罪だ。
酌量減軽がなければ、極刑――すなわち全ての個人記憶・記録との紐付けを永久に失ったうえでのΩ落ち――以外にないことがハッキリと定められた。
ただ、ここまでの道のりで、俺も奴らと同じことをしている。
ホシゾラ カナタに嘘をついた。
カナタをさらおうとしたソリステラスの軍人たちを、ただの過激派ワナビーのコスプレ女たちと思い込ませようとした。
彼がまだ、知ってはならないことを知らせないためとはいえ。
だから、生硬に咎め立てをのみするつもりはない。
むしろなぜその手段を取るに至ってしまったのか。それを逃げずに聞かせてほしい。
『おい、トウヤ!
速報見てるか。あいつが……いや、なんというかその……
とにかく動画を見てみろ、あれは……!』
だが、続いて飛び込んできたエルカの声は、いつになく震えていた。
嫌な予感とともに、ニュース速報チャンネルにアクセスしてみた。
『繰り返します。昨日起きた『小夜見II』落下事件を手引きしたとして、高天原在住の女が高天原南警察署に出頭してきました。容疑者は自らを……』
キャスターが読み上げた名は、俺たちのつかんでいた通りのもの。
画面の真ん中にうつされた姿も、調べ上げていた通りのもの。
それでも。
そいつが動くさまを見て、わかってしまった。
それはあの女の姿とIDを持った、まったくの別人だと。
次回もボナトラでこざいますが、こちらはひっさびさの(そして、しょーもない)掲示板回です。
お楽しみに!




