20-2 シャッフルユニットと祝勝会!
するとミライもしっぽふりふり言いだした。
「あ、おれも、ティアラさまと『奉納』のときに話したこと何度かあるよ。
そんなに長くじゃないけど……
『マザー』とお話したときも、ティアラさまとよく似たいいにおいがしてたから、すぐわかったよ!」
なるほど。ミライが『マザー』の御前で、意外と落ち着いてたのはそういうわけで、だったのか。
かわいい笑顔のミライを撫でつつ納得したおれだったが、周りのみんなは別ベクトルでざわつきだした。
「におい……」
「みーたんがいうと1ミリもやらしくないのが不思議だよな……」
「むしろかわゆす……」
「うらやましーわ……」
「ミライくんには邪心がないからね!」
「うぐっ!!」
誰かの一言をきっかけに、広い会場のあっちこっちでBP5の赤いポップアップが上がった。
これはなかなか壮観だ。そんな邪悪なことを思ってると、ミズキが優しくみんなに言ってくれる。
「いいじゃない、人間だもの。
邪心もあって、優しさもあって、だから人は生きてけるんだよ」
「にゃあああミズキさーん!!」
「ありがとう心の友よ!」
「いっしょーついてきますー!!」
すると今度はあちこちで白いキラキラが降ってきた。様々な値のTPゲットのポップアップが、ぴろぴろとかわいらしい効果音とともに上がる。
っていやちょっとまて、いきなりTP300とかいってる人たちは大丈夫なのか。さすがにいろいろ心配になってきた。
よくみればそれは、ミズキの近くにいる四人『ミズキ聖騎士団ヴァルハラ支部』の立ち上げメンバーたちだった。
ハンターひとり、クラフター三人。かれらも『マーセナリーガーデン』まわりの契約トラブルを抱えていたということだが、今ではすっかり数年来の同志のようになっている。
ミズキの作る財団『スターズエイド財団』は、来週にも認可されるらしい。
『ミズキ聖騎士団』はそれを――というかミズキ本人を、と言った方が正確な気がするけれど――支える下部組織として、自発的に結成されたものである。
零星をはじめ、困っている生徒たちを助けるための仕組みを作り上げる。ミズキの志は徐々に形になってきた。
聞くところによれば、一部生徒の長期在籍を問題視する向きもあるらしい。
総合的にみてある程度の功績をあげた生徒は、現状の星数、所持TPにかかわらず強制的に昇格させてはどうか、との議論もされているそうだ。
ぶっちゃけこれは、ミズキにむけた追い出し策だ。
おれとイツカの昇格も、似たようなものだろう。
おれたちをとっとと学園から追い出し、その影響力をなくすため。
統括理事会はそんなにも、誰かが破滅するところが見たいのか。
まあ、そうならないようおれたちは、仲間と組織を作っているわけなのだが……
そんなことを考えてると、イツカがぽんと肩を叩いてくれた。
「まっ、せっかくカナタも四ツ星昇格決まったんだし、今日は祝おうぜ?
あとはこれから! なっ!」
「おれもそう思う!
なにもなければ、今月中にもソナタちゃんの手術代たまるし!」
ミライが笑えば、ケイジも笑う。
「そうそう!
それに見てくれよこれ! じゃん!」
そうして披露してくれたのは、ユキテルの制服姿。
もちろん研修生のじゃない、学園生のものだ。
「皆のおかげでやっと! ユキテルの『身請け』、達成できました!!
いっしょにいちから出直しますんで、よろしくお願いします!!」
「おお――!!」
ケイジが嬉しそうに宣言すると、二人は一緒に頭を下げる。
歓声と拍手が沸いた。
それもこれも、ユキテルの被害者たちがすでにみな卒業しているためだろう。
ブーイングをする者がいない、というだけでなく……
今回ケイジ、ユキテルあてに、かなり多くの投げ銭が寄せられたのだ。
なかには「もう許してるから。今後はお前たちの道をまっすぐに進んでくれ」というメッセージが添えられているものもあったとか。
「つぎはミライだなっ!」
「よーし乾杯だ乾杯!」
「ルシード、マユリ、音頭取ってくれよ! 卒業きまったんだしさ!」
「わかった。
数多くの昇格と、幾人かの卒業……」
「皆の無事と、これからの活躍を願って!」
『かんぱーい!』
まきおこる乾杯の大合唱。
会場の一角にある小さなステージでは、ミツルのギターに合わせ、『おこんがー!』の二人が歌いだす。
高天原の団結の象徴となったメロディに、お祝いムードはいやがうえにも増してゆく。
ルカが照れながら、ルナがニコニコと、おれとイツカに声をかけてくる。
「ねっ、ねえそのっ、カナタ?」
「イツカくん、つぎはわたしたちも歌おうよ!
シャッフルユニット! ね?」
さらにはレモンさんもこんなことを言い出す。
「じゃどうせならさー、みーたんもおねーさんと歌わない? ライムも一緒に歌うから!」
「ふええええ?!」
「お姉さまってば。何度も言いますけれど、わたくしにそのような才はございませんわ。
わたくしはあくまで、ただのメイドですもの」
「ほっほう。
カナぴょーん、ご主人様としてライムに『歌って』って言っ」
「お・ね・え・さ・ま?」
「ごめんなさいっ☆」
はてはミソラ先生までが。
「よーしわたしも歌っちゃうぞー! 三銃士のみんな、いっしょにやらない?」
「ええええ?! いいのっ?!」
「マジっスか!」
「俺たちでよろしければ!」
白状すると、このときおれは、すっかり忘れていた。
なんだかんだ先延ばしにしていた、とても身近な、しかしとても重要な、ある問題のことを。
こ、これは……エイプリルフールじゃ、ない……?!
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