19-8 最終楽章~玉兎抱翼~
サブタイトルを変更しました(最終楽章をつけました)
2021.04.19
中盤、ミツルの記述を追加しました!
ライムのけも装備はオオハクチョウ。
素の状態でも、高度8000mまで飛ぶことができる。
そして彼女本人は、ついこの間まで国内最強の六人だった。
だから彼女は、地上部隊所属の飛行隊、第一陣として飛び立った。
ツクモエ国防軍や、五つ星、四ツ星のマダラハゲワシ、アネハヅル、キバシガラス、ダイシャクシギ、竜や鳳凰など神獣系装備の人たちを率いて。
グラウンドに描かれた風の錬成陣から吹きあがる、強力な気流に乗って。
本音を言えば、ついていきたかった。
なぜって、おれの覚醒技『玉兎抱翼』を発動すれば……
おれは、それ以上の高度も出せるはず。
もしかしたら、そこで『小夜見II』を確保できる可能性さえあったのだ。
つまりそれさえなしとげてしまえば、ライムも、だれも危ない目に遭わせなくて済む。
それを言ったらライムは、おれの手をぎゅっと握ってくれた。
そして、いたずらっぽくこう言ったのだ。
『カナタさん。あなたは、いずれわたくしを抜き去ってゆきますわ。
ですからせめて、そのまえに……
あなたにもう一度、わたくしのカッコいいところを見ていただきたいのです。
そして、もしわたくしが着陸をミスったときには、優しく受け止めてほしいのです。
わたくしのわがまま、お許しいただけますか?』
そんなふうに言われたら、許さないわけにいかない。
いや、実際ライムは適任なのだ。
ライムたちは防壁や神聖防壁による、『小夜見II』の誘導路を作るとともに――
もしもそれを妨害する輩がいたら、叩き返し。
万一『小夜見II』が大きく進路をそれるようなら、神聖防壁で押し込んでという、大変な仕事が待っているのだ。
むしろこれは元エクセリオンであり、プリーストであり、オオハクチョウであるライムにしか仕切れないほどの難行だ。
けれど……。
微かに輝く青空の星たちを見上げていれば、ぽんと背中を叩かれた。
太陽のような笑顔をうかべた、レモンさんだった。
「ダイジョブだって。
ライムはあたしより強いんだよ?
一緒に行った子たちだって、君たちなみには強いんだ。大船に乗ったつもりでいなよ!」
けれどすぐ気づかわし気な表情で、おれの顔を覗き込んだ。
「っていうかぶっちゃけ、ホントは君たちの方が危険な仕事なんだよ。
実質きみたちだけでコントロールセンターまでいって、きついバトルをこなしてとんぼ返りしたあとで……
断ってよかったんだよ、こんなの」
「いえ。
いまがんばらないと、たぶん後悔しますから」
おれの返事は、決まってる。
「これ、全国中継されてるんですよね?
ってことは、ソナタが見てるはずなんです。
ソナタはまだ十歳で、闘技場の試合は見れません。
だからこれは、かわいい妹におれたちのカッコいいとこを見てもらえる、貴重なチャンスなんです。
これを逃す手なんてないですよ!」
すると、レモンさんはふたたひ笑顔になる。
「それと同じだよ。
ライムは見てもらいたいんだよ。君にもっともっと、ライムの素敵なところをさ。
それは、ルカもおんなじだ。
信じて任せてみなって」
「そうですね。
なんか元気出てきました。ありがとうございます」
そうして話していれば、赤く輝いていた流れ星は完全に光を失った。
大詰めが近い。
そろそろ、ライムたちが『小夜見II』を迎える頃だ。
空からまっすぐ伸びてくる、白い輝きのチューブ。
その途中に次々と、ひかりのフィールドが咲いては散ってゆく。
ライムたちの超高度部隊の下は、高度百メートル前後まで展開する、渡り鳥、猛禽系装備の人たちの部隊。
その下から地上にかけてが、ハトやカラスなどの野鳥系部隊。
ルカとルナをはじめ、ミツルとレン、アキトとセナ、飛べる生徒のほとんどがここに加わっているといっていい。
「それじゃわたしも、もう一仕事してくるから。
またあとでね、カナぴょん!」
「は、はい! レモンさんも、お気をつけて!」
レモンさんが踵を返すと、あの赤い炎吸収装備を身に着けたトラオと、四人のクラフターズが。
そしてケイジ君とユキテル君が、こっちにやってきた。
「……いよいよだな、カナタ」
「そうだね。
よろしくね、トラオ、ケイジくん、ユキテルくん。
それに、イツカ」
そういうと、ケイジくんとユキテルくんは、ちょっと照れたように切り出してきた。
「それだけどさ、オレたちも、呼び捨てでいいぜ」
「そうだな、よければなんだけど」
「じゃ、遠慮なく」
するとイツカのやつめがニッコリしてのたまった。
「だな!」
「お前はもとから呼び捨てじゃん!」
小さな笑いの輪ができて、肩から余計な力が抜けた。
そこへミソラ先生も加わってくる。
リンカさんの肩を優しく抱いて。
「あたしたちも全力でフォローするからね。大船に乗ったつもりでいてね!」
「はい!」
ミライを優しく抱えつつ、アスカが笑う。
「あはは、なーんかミソラちゃんせんせーたちに比べたらおれたち埋もれちゃいそー。
野郎同士支えあってがんばろーね、みーたん!」
「う、うん! がんばるよおれたち! いっぱいがんばるんだからっ!」
「……おい」
「はいはい、うまくいったらみーたんだっこさせてあげるからね~ハーちゃんも。
それともおれにハーちゃんがだっこしてほしい? っていつもしてるかー」
「げほっげほげほげほ!」
さらに笑いが広がったところで、副指揮官のマイロ先生が声をかけてきた。
「そろそろよみんな、位置について」
「はーい!」
作戦は全体としてシンプルなものだった。
神聖防壁で作った誘導路で、『小夜見II』をここまで導く。
その途中に『散布強化』と『聖静籠』を多重に仕掛ける。
前者で『小夜見II』を強化して崩壊を防ぎ、後者で上がり続ける熱と速度を削いでいく。
最終的には、ここで待ち受けるおれたちが、直接に勢いを削ぎ、受け止めるのだ。
『小夜見II』のサイズは、約1×1×1.5m。重量は約500kg。けして不可能なことではない――数人がかりでスキルや魔法、アイテムをフルに使うなら。
ギリギリまで減速をかけつづけ、地表に近くなってきたところで『フェザーフォール』を使うというのも一つの回答だが、今回はわけあって使えないのだ。
いま、『小夜見II』が最後のフィールド群を通り抜けた。
軽量化、温度低下、回復属性付与。
「――頼むっ!」
そのまま、長い長い、半透明の誘導壁をすぽんと抜ける。
しんがりを担当していたミツルの、澄んだ声が降ってきた。
みごと決意を形にしたタンチョウヅルは、白いクロークと翼をひるがえし、あざやかに退避を開始。
同時におれたちに何重もの神聖強化がかけられた。
やはり、ミソラ先生が加わるとパワーは段違い。かけられた途端に、『小夜見II』の動きがスローモーションになった。
高さ50m。ソーラーパドルの展開を解けなかった影響などのため、全体が40度近く斜めにかしいでいる。
表面温度200℃。落下速度、秒速0.05Km。
熱い輝きを宿したそれに、ハヤト、ケイジ、トラオ、ノゾミ先生が次々と飛んで、あるいは跳んでいく。
あるいはライカの変化した翼で。あるいは、ユゾノさんの魔法弓や、クラフターズお手製の『斥力のスクロール(強)』で打ち上げられて。
ノゾミ先生はキュウビのしっぽの力で宙を舞う。
「発動!『全テヲ喰ライ全テヲ守ル』!!」
最初にハヤトが覚醒技『全テヲ喰ライ全テヲ守ル』を発動。『小夜見II』の宿した熱エネルギーと運動エネルギーを技のキャパシティギリギリまで喰らって離脱。
そう、『フェザーフォール』を使えない理由の一つは、この絵を撮るためだったりする。
表面温度90度、秒速0.03Kmまで低下。
「行けっ!!『プラチナ・ガイスト』!!」
ケイジは敢えて思い切り体当たりし、弾き返されることで『プラチナ・ガイスト』発動。その際発生する強力な吹き飛ばし効果で、『小夜見II』をわずかに押し上げ、速度秒速0.02Km。
ちなみに、落ちてきたケイジはユキテルが狩猟犬装備スキル『レトリーブ』でしっかりキャッチしている。いい連携だ。
「って、俺だけ覚醒なしかよー!! たのむっ、『シャスタの力』ァ――!!」
続いてトラオが『シャスタの指輪』から冷気をわかせつつ、『小夜見II』に両手両足でぐっとしがみつく。
熱吸収装備で耐えながらの冷気攻撃が功を奏し、表面温度が40度をきる。
「よし、もういい離れろ!」
ノゾミ先生は、ふらふらになったトラオをクラフターズにむけて投げてやる。
そうして『小夜見II』に手を触れると、もろともに一瞬姿を消す。
ふたたび姿を現したときには、『小夜見II』の傾きがほぼ修正され、機体の左右から伸びるソーラーパドルは、地面に対してほぼ水平となっていた。
かつて見せた『縮地』の応用技だ。
そこへイツカが跳んでいく。
おれの撃った『斥力のオーブ』を蹴っての短距離超猫走ジャンプ二段重ねだ。
「っしゃー! カナタいくぞー! 『0-G』!!」
「『玉兎抱翼』!!」
発動『0-G』。くしくもそのタイミングは、おれと同時だった。
本人もよくわかってない、むちゃくちゃで膨大なそのパワーで、イツカは『小夜見II』に最後の減速をかける。
それでも止めきれないぶんをおれの『翼』が、イツカごと抱き留める。
やはり、重い。
それは言うなれば、走ってくる小型トラックを止めるようなもの。
『翼』だけでは支えきれず、体当たりするように両腕でも抱き留めるけど、それでもぐぐっと靴が滑る。
「ふたりともーっ!!」
そのとき、暖かくて大きなものが、そっと背中をささえてくれた。
ふんわりとした優しさと、大きな力強さを兼ね備えた後押しは、おれたちふたりと『小夜見II』を、痛みもなくして抱き留めてくれた。
感謝しながら最後の仕上げ。
ゆっくりゆっくり慎重に、『小夜見II』をグラウンドに降ろす。
重みがすべて大地に移り、振り返るとおれの背中にくっついていたのは、なんとも優しい金のひかりをまとったミライだった。
「えへへ……ミッションコンプリート、だねっ!」
いつもの優しい笑顔をみた瞬間、意識がふわっと溶けてった。
ブックマーク、閲覧、まことにありがとうございます♪
次回、戦いすんで……いや、まだここでは終わりません(汗)
どうか、お楽しみに♪




