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<ウサうさネコかみ>もふけも装備のおれたちは妹たちを助けるためにVR学園闘技場で成り上がります!~ティアブラ・オンライン~  作者: 日向 るきあ
Stage_19 『守護者』の理由(2)

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19-6 第三楽章~ウサちゃんをつかまえろ!

 正面玄関から屋内に入れば、白っぽい空間が広がった。

 玄関ホールだ。

 白い壁、暗いグレーの床。広さは50平方メートルほど。天井は高く、二階まで吹き抜け。

 天井の数カ所から降り注ぐ、どこか無機質な、白っぽいひかり。

 数少ない調度も壁際に片され、寒々しくさえ感じるそこに、彼女はひとり、立っていた。

 武器も手にせず、構えも取らずに。


「ええと、……デイジー?」

「ジュディだよ、……ウサちゃん」


 今日の彼女は、初めて会ったときと同じ姿をしていた。

 青紫の全身タイツの上に、布の少ない白っぽいグレーのスーツを重ねたような服。

 山吹色のツインテールと、どこか幼さを残す容姿もそのまんま。

 しかし、くりっとした青りんご色の瞳には、思いつめた表情があった。


「単刀直入に言うね。

 このままいっしょに、ソリステラスにきて。

 あたしね、実はえらいひとなの。

 だから、守ってあげられる。ぜったいぜったい、悪いようにはしないから。

 あたしがしあわせにしてあげる。

 もう、闘技場でみせものになったり、戦場に出たり、しないでいいように。

 ソナタちゃんも、……ミライくんも、あたしが助ける。

 だから、おねがい。この戦いをやめて、あたしと、ソリステラスにきてください!」


 ジュディは、そこまで言い切ると深く、深く頭を下げた。

 彼女は知っているはずだ。おれに、愛する人がもういることを。

 それでも全力でぶつかってくる姿に、胸が痛くなった。

 こたえなくちゃいけない。おれも、全力で。


 イツカとミライは、おれたちに気を使ってくれたのだろう。後ろに下がって、口を挟まずいてくれる。

 ひとつ深呼吸したおれは、ジュディの前に膝をつく。

 そしてその不安げな顔を、優しく見上げた。


「……ウサちゃん」

「ジュディ。

 優しい気持ち、ありがとう。

 おれも、ジュディと戦うのは、正直いやだ。

 おしゃべりして、みんなでわいわいケーキも食べて……もう、知らない間柄じゃ、ないものね。

 でも、ジュディ。

 おれがこのまま白旗を上げてソリステラスに行ったら、高天原にいるおれの友達が大変なことになってしまう。

 この作戦を止める権限は、ないんでしょ」

「…… うん」


 ジュディは泣き出しそうな顔でうなずく。


「おれは、止めたいんだ。『小夜見コヨミII』の墜落を。

 今日は、友達のデビューコンサートなんだ。

 お願い。止めさせて。だめかな」

「………………でき、ない……。」

「おい」


 ジュディが声を震わせた。

 さすがに残酷だと思ったのだろう、イツカが声をかけてくるが、おれはそっと腰を上げ、彼女の頭に手を置いた。


「うん、それでこそ一人前だ。

 ……おれさ、この戦争もいつか止めたいと思ってる。

 けれどその過程で、守るべきものを放り出したりはできない。

 そんなの、一人前の男じゃないだろ?

 ジュディもおんなじだ。自分のすべきことを投げだすことはできない。

 だから……」

「だから?」


 ジュディが濡れた瞳を向けてくる。

 おれはそれをしっかりと見つめ返した。


「ベストを尽くそう。

 今すべきこと、できること。

 それがたとえ戦う事であったとしても、その先の明日に向かうために、今はお互い、全力でやりぬこう」

「…………ウサちゃんと戦わないですむ、未来のため……

 わかった。あたし、ウサちゃんたちに勝つ。

 勝って、ウサちゃんを連れていく!」


 ジュディが小さなこぶしで、ぐっと目元をぬぐった。

 そのこぶしを、むん、と差し出してくる。


「おれたちはジュディに勝つ。

 勝って、『小夜見II』の墜落を止めに行く!」


 おれも自分のこぶしを固め、小さなこぶしにしっかと合わせる。 

 そして、立ち上がった。


「きみは一人で戦うの。なら、おれもひとりがいいかな」

「あたしはえらいひとだから大丈夫!

 むしろ、にゃんこちゃんとわんこちゃんだけで、先にいくほうがあぶないよ!」


 口にする人によっては、挑発になってしまう言葉。だが、この無邪気な少女が言うとただ額面通りに取れてしまうから不思議だ。


「そっか、じゃ、遠慮なく!」おれはひととびに距離を取り。

「俺も前はカッコ悪いとこ見せちまったからなー。

 挽回のチャンスと思って頑張るかっ!」おれの前で、イツカも気合を入れなおし。

「あの……ありがと、ジュディさん。おれのことも助けるって言ってくれて!

 おれもがんばる。ジュディさんと同じくらい、がんばるからね!!」ミライも勇気を奮い起こす。


 そうして。


「よーし! いっくよ――!!」


 ジュディがどこからか、人の背丈より大きな捕虫網を召喚。

 応じてイツカが抜刀する。


 かくしてここに、高天原とおれの命運をかけた、なのにどこか明るい雰囲気のバトルが、幕を開けたのだった。



「そいやー!」


 ジュディはイツカにまっすぐかけより、捕虫網を振るう。捕獲しようとしている動きだ。

 イツカは慌てることなくスウェイでかわす。

 そのまま、一連の流れのように――

 振り下ろされた捕虫網の柄を、上から巻き落とすように打つ。


神聖強化ホーリーインフォース!」


 同時にミライの神聖強化ホーリーインフォースがかかった。

 対象者であるイツカを虹色の輝きが包み込むや、その全ステータスが跳ね上がる。


 捕虫網の柄は細く、ジュディの腕もまた細い。

 強化された腕力で一気に加えられた一撃は、うまくいけばどっちかをギブアップさせるに足る威力を有している……


 はずだった。


 しかし、帰ってきたのはキン、という軽い音だけ。

 ジュディのもつ、捕虫網のネットが淡いオレンジに輝いている。これは。


「せいっ!」


 とびすさったイツカにむけ、ジュディが捕虫網をばさ、と振る。

 何かを直感したのだろう、イツカはイツカブレードを顔の前、横に倒して防御の構え。

 はたして、ギン! という重い音が刀身から上がり、イツカのかかとが後ろに滑る。


「はいっ!」


 ジュディはさらに打ち込んでくる。

 イツカは後ろに跳ねて体ごと剣を引くものの、彼女は追って鋭く踏み込み、距離を開けることを許さない。

 捕虫網のフレームがイツカをかすめれば、ふたたびネットが輝きを宿す。

 ただしその色合いはさっきと違うもの――虹色だ。

 虹色の輝きは、捕虫網の柄を伝い、ジュディ本体へと流れていく。小さな体を守るようにまといつく。

 一方でイツカはがくりと姿勢を崩しかけ、根性でもって立て直す。


「な、これ……吸い取られた?! 俺の神聖強化ホーリーインフォースが!」

「あったりー。

 これはね、触れたものをあたしの意志でとらえたり解放できるんだよ。チカラでも、モノでもね!」

「マジか!」


 どういう仕組みかはよくわからない、けど、厄介すぎるチカラだ。

 イツカは斬りかかれない、ミライの魔法も吸い取られてしまう、そしておれのボムもおそらく、爆風を投げ返されることだろう。


 しかし、おれたちは三人いるのだ。つまり、手数は絶対的に多いはず。

 捕虫網がやばいなら、それを『有効に使わせ』なければいい!


「おれが先行する。よろしくね、ふたりとも」

「おう!」

「うん!」

 

 おれは両もものホルスターから魔擲弾銃オーブ・ランチャーを抜き、各六発、計十二発を『瞬即装填フラッシュ・ロード』で差し替えた。

 両手に構えたまま、床を蹴って跳びあがる。難なく天井の高さに達すれば、おれはそこで両手の引き金を三回ずつ引く。


「そーんなの!」


 ジュディは飛来したボム六発をくるくると鮮やかに回収。ひととびに距離を取るや、スタート直前のイツカに投げつける!

 華やかに、赤いポップアップが上がった――410、380、-500、490、-452、390。


「えっ?!」


 ジュディの驚きの声が上がった。累計ダメージ、約600。いまや最大HPが4000をこえるイツカにとっては『いってええ!!』で済んでしまうレベルでしかない。

 爆煙のなか、ネコミミを生やした剣士の影が大きく得物を振りかぶり、猛然とジュディに突撃した。

 ジュディもいつまでも驚いていない。しっかりと捕虫網を構え直し、迎え撃つかまえだ。

 やがて二つの武器がぶつかる音が――響かない。


 イツカはインパクトの直前に、自分の得物から手を放した。

 そして、そのままジュディに突撃!


 そのあとはあっという間。

 おれたちはジュディを取り押さえることに成功したのだった。


昨日なんとPVの自己新記録が更新……!

ありがとうございます。今後とも精進いたします!

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