Bonus Track_19_3 間奏(胡蝶、猟犬を翻弄す)~『グリーン』の場合~
『『ブルー』脱落ですか。……ちっ、使えませんね』
ワタシはその報に舌打ちをした。
ヘルメットの内側でかすかに響いたそれが、すぐに耳元のスピーカーからも響いてくる。
最初はなんだかシュールだと思っていたものだが、2月もすればもう慣れた。
閑話休題。どうやらやつらは『ブルー』を壊さなかったらしい。
甘っちょろいことだ。どうせ、『ツクモエ』に顕現しているコレは、ただのアバターなのに。
まあ、無駄な体力や弾薬を使わないという合理的選択だろう。
そこんとこはまあ、評価していい。
『って、思ってやったのに……
ど――っして『コレ』なんですかねェ?』
そう、『コレ』。
裏口まえで待ち受けていたワタシの目の前には、わんことわんこの剣士コンビ。
ぶっちゃけ、一番くみしやすいパーティーだった。
そう、ついにやつらは、やっちまったのだ。
『ここは俺に任せて先に行け!』を。
『『ブルー』にそうしたみたく、六名がかりでくればなんとかなったかも知れネエってのに、アホなのですか、そうなのですかっ?』
ちなみに、正面玄関まえには『ミライツカナタ』。
『白兎銀狼』は建物の横手に張り付いて動かないらしい。増援を警戒しているのだろう。
『H&B』は、屋上のレッドと交戦中。
そして『青嵐公』は……
『まあ、そんなことはいいです。
ワタシはとにかく、おまえたちを原型残してブッ倒せばいい。
――状況、開始。
我らの糧となるがいいのですよ、この堕ち損ないども!!』
雑魚共のハナシなんぞ聞かない。ワタシはバックパックから蝶型飛行力場を広げ、剣の届かぬ高みに陣取る。
それと同時に、手元に『スペルカード』を7枚、展開させた。
『スペルカード』。クラフトのなかで、最も洗練された形のものだ。
余計な装飾がないため、携行性にすぐれ、スペル――『ティアブラ』システム環境内における、事象操作マクロのことだ――の記載可能量比も大きい。
すなわち、それを扱う我ら『キャスター』こそ、クラフターの最高峰なのである。
しかもワタシのカードスロットは7。国家レベルの逸材の証である。
蛍光緑の輝きに縁どられた『スペルカード』に次々と指先をふれて、効果を発動。
あるものはやつらにビームを浴びせ、あるものはワタシを守る防壁となり、あるものはそのまま飛び出して、奴らに斬撃を浴びせ、消えてゆく。
ある程度使えば、新たにドロー。並べたカードを切ってゆく。
まったく、ちょろいものだ。ワタシは一歩も動かぬままで、やつらをぐるぐる走り回らせている。
やつらもときに斬撃を飛ばしてはくる。が、この程度の威力では『防壁力場III』には傷一つつかない。
ワタシは笑った。
『ハンターは同レベルのクラフターとやったら勝てないのです。
それはたとえ、二人がかりであったとしても。
お前たちのカラダに叩き込んでやるのですよ。
その、絶対普遍のジョーシキって奴をネェ!!』
逃がしはしない。
ソリステラスの誇るさいきょー美少女たるワタシにとってはただのザコでも、これらは高天原産としては最上級のサンプル。
必ずや仕留め、持ち帰る!
そう思ったその時だった。
『う、嘘ッ?! なんで、おまえがこ――』
頭上からレッドの悲鳴が響いてきた。
『レッド?! どうしましたか、なにが……レッド、応答せよ。レッド!!』
管制のホワイトが呼びかけるが、返事はない。
レッドは突如、何者かに意識を落とされたらしい。
『ど、どういうことです……?』
いや、いまは目の前のことに集中だ。
たとえブルーやレッドが倒れたところで、ワタシのすることは変わらない。
こいつらを倒す。
そして――
そのとき、背筋がぞくっとした。
とっさに飛び退けば、足先をかすめ光の束が落ちてきた。
ワタシの真上には、銀色の龍が舞っていた。
「形勢逆転、だな!」
わんこどもはとたんに勝ち誇った顔になる。
黄色と灰色が、仲良くのたまう。
「時間稼ぎは、そっちの専売特許じゃなかったってことだ」
「これで、四対一。あんたが投降しようがしまいが、オレたちはここから侵入できる目算が立った。
無駄な争いはしたくない。オレたちはあんたに、投降を要求する」
『て、てめえら、……
ちょろちょろちょろちょろ逃げ回り、数で勝ったとたんにそれですか!
プライドってもンはないのですか、プライドはッ?!』
すると灰色が、黄色の肩を抱いてこう言った。
「そいつは、質に入れてきたよ。
……こいつを取り戻すためにな」
「ケイジ……」
お熱い様子のわんこども。
ワタシはもう、笑うしかなかった。
ぬあああ、PVがいっぱいです!
い、いっかつだうんろーど……だと……?!
すこしでも楽しんでいただければ嬉しいです。お手に取っていただき、ありがとうこざいます!
次回、ついにジュディとの『再会』! お楽しみに!!




