19-5 第二楽章~門前の知恵比べ、もしくは銀龍のにわそうじ
2020.09.28
建物の構造を修正しました。
平屋建て→二階建て
静まり返った市街地をひた走る。
『大丈夫!』と言い切ってはいても、もしもという事もある。
街の人たちはすっかり、地下シェルターに避難していた。
時折姿を見せるのは、警察や軍の人たちだけだ。
どうやら『お出迎え』は、特殊施設エリアの門前。つまり前方に見える角を曲がって30mほど先から始まる予定らしい。
ゴーグル画面の右下の表示を確かめる。よし、妨害音波無効化アプリはちゃんと働いている。
スピードを緩めぬまま、おれの『超聴覚』で最終確認を行った。
門までの道には、伏兵・トラップの類はなし。
閉ざされた門のこちらがわ、最小限の砲撃ユニットが、堂々と待ち受けているだけだ。
まずは門の右横、人ひとり分ほど離れた場所に、ピックアップトラックが一台。
門に対して横向きに停まっている。
その荷台には、巨大な金属のストローを六つ束ねて三脚をつけたようなしろもの。
情報班によればこれは、ソリステラス製の15cm六連式ロケット砲『ヴェルファーレ』だ。
砲手はおそらく、トラックのそばに立つパワードスーツ。
月萌の平均的な成人女性より少し大きめの体格をそなえ、右手に小さなリモコンを持っている。
「オールグリーン。すべて情報通りだよ」
口元のマイクに向けてささやけば、次々『了解』が帰ってくる。
ルシード君が一気に高度を下げて、ハヤトに並ぶ。
そして勇ましく音頭を取る。
「よし。いくぞ!」
ルシード君が、ミライが、おれたち全員に神聖強化をかけてくれた。
おれも『スプリンクル・クイックアクト』の護符を発動。固まって走るおれたち全員の速度を上げた。
スピードをむしろ上げつつコーナリング。特殊施設エリアに続く門につづく道、最後の角を曲がる。
とたん、六つの爆音がおれたちを出迎えた。
カーキ色のピックアップトラックの荷台から、飛んでくるもの六つ。そう、ロケット弾だ。
敵国内とはいえ、こんなものをほんとうに、市街そばで使ってくるとは……
舌打ちしたくなった気持ちを、ライカの陽気な声が救ってくれた。
「ふっふー、ライカにおまかせっ☆
神聖防壁神聖防壁神聖防壁!
おおっと、手が滑ったー!」
ライカは以前見せたあの方法で、ミサイルとそれを放ってきたものに対処した。
すなわち、神聖防壁の変形によるカウンター攻撃だ。
ハヤトは口を開かない。
銀の武装に包まれた腕が鋭く抜刀し、ライカの刀身を差し向けるのみ。
それでも、硬質な白い輝きの壁はおれたちの前に実体化した。
距離にして前方30m、高さと幅は3mと5m。
ただしその壁の中央は、大きくこちら側に向けてふくらみ、『袋小路』になっている。
『袋小路』は、6発すべてを包み込むや、その身を細め、スッと伸びる――ロケット弾が飛んできた方向にむけて。
同時にロケット弾が『袋小路』のなかで炸裂。おれたちに向けまき散らされるはずだった砕片と爆風が、逃げ場を探して白い壁を伝う。
結果、ロケット弾を放った発射機は、トラックごと地面に吹き転がされることになった。
さきほど『超聴覚』で確認した発射機の重量は約500Kg。あのパワードスーツがたとえ怪力もちでも、そうやすやすと立て直すことはできないだろう。
『くそ、きっさまっ……!!』
そのパワードスーツはというと、間一髪で大きく飛びのき、難を逃れていた。
手に持っていたリモコンを、地面にたたきつけ怒声を上げる。
ボイスチェンジャーを通してのそれは、男か女か、年のころもわからない。
ライカは軽い調子で投降をすすめる。
『ふっふー。
高天原生はこんなことしない。そう思い込んでたのがまずかったね。
『ライカ』は高天原生じゃない。まして、人間でもない。
それを守るための、武器だ。
次こうなるのは君本人だよ。もしも第二射をよこしてきたならね。
さ、投降してもらおうか』
『だ、誰が!
わが身可愛さに誇りを棄てるくらいならッ!』
パワードスーツは、両手のひらからピンク色の光の刀身を出現させた。
あれはおそらく、レーザーブレード。どうやらやる気のようだ。
『仕方ないね。
じゃ、打ち合わせ通りに』
ライカが言う。異議は出ない。
「では我らは行くとしよう!」
ルシード君の声にこたえて、マユリさん、ケイジくんとユキテルくんがうなずきあった。
大きく開かれた門――その内側、50mほど向こうに見える、第二衛星コントロールセンターの正面玄関へと足を向ける。
玄関までは、ノゾミ先生が戦った跡なのだろうか、荒れた土の地面が続いているのみ。
慌てたのはパワードスーツだ。
ルシード君たち2パーティーと、残ったおれたち2パーティーをかわるがわる見比べると、おれたちに向けてあわあわと両手を振ってくる。
『ええっ、ちょちょちょっと待って?!
なんでミライツカナタと憑依済みハヤトがここに残るのっ?!
こ、ここはどれかひとパーティーだけが残って「ここは任せてお前たちは先に!」っていうべき場面だよね?! ね?!』
『……いや、アニメじゃないんだから。』
ライカが冷静すぎるツッコミをくれたその時、門の内側からふたつの轟音が相次いで響き渡った。
パワードスーツは一転、お腹を抱えて笑いだす。
自分が仕立てた惨劇の現場を、ふりかえろうともしないままで。
『あっはははぁ……ひっかかったひっかかったー!
あのさぁ、あんだけの土の地面が広がっててトラップとかあるって思わないわけ?
たとえば地雷とか地雷とか地雷とか……』
『いやさぁ、あると思ったからあのメンツなんだけど……』
ライカはそろそろツッコミ疲れてきた様子。
なので、おれが代わりに説明することにした。
「あのね。いまのはケイジ君とユキテル君が……」
どーん。もういっこ轟音が来た。
ある程度静まるのを待って言葉をつぐ。
「……『ソニックブーム』つかって地雷を」
どーん。
『えっなに――?! よく聞こえない!!』
「だから――!」
どーん。
「きりがないな。ここは一旦俺が!
マユ、防御頼んだ。いくぞ、『ドラゴン・ブレス』!!」
パワードスーツが振り返った先では、空に浮かんだ銀龍が、口から輝くブレスを吐いて『にわそうじ』を行っていた。
二階建てのコントロールセンターの屋上からは、赤のパワードスーツが据え付け式の機銃をガンガン撃ってくる。
それを大胆な旋回でかわし、ときにはマユリさんの放つ『音波砲』で相殺してしのぎつつ、銀の光条で地中の地雷に掃射を加えてゆく。
パワードスーツはもう一度こっちを向くと、おもむろにこういった。
『……あー。私のこの体はただのアバターだし。2時間すれば消滅するから。
ぶっちゃけ……見逃して?』
戦意を失ったパワードスーツをとりあえず、門柱に後ろ手にくくりつけておき、おれたちは第二衛星コントロールセンターへと向かうことにした。
ルシード君たちのおかげで、地表はきれいになったようだった。
しかし頭上では、銃器VSスキルの砲撃戦がなおも続いている。
ケイジくん、ユキテルくんたちと合流したおれたちは、ふたたび神聖防壁で守りを固め、一気に建物そばまで駆け抜けた。
「はー。やつら地雷埋めすぎだろマジ……」
「まさかここまで埋めまくってるとは思わなかったぜ……」
ちょっとげんなりしているケイジくんとユキテルくんにお疲れ様をいうと、おれたちは作戦通り、そこで三手に分かれたのだった。
色々動き回ってて遅くなり申した……!
昨日、たくさんのPVをいただきびっくりです。ありがとうございます!
次回、もっとゴーマンかましてくれるサイバー系美少女(とここで書いておく)が登場します。お楽しみに!




