19-2 『みんなあつまれ! 高天原ソング&バトルフェスティバル』プロジェクト、スタート!(下)
「まって……ください。
ここで、逃げたら……わたしたちの気持ちが負けたことになりますっ!!」
そう、それは『おこんがー!』のひとり、ユゾノさんだった。
そのとなりには彼女のバディ、カナイさんがいる。
まっ白なオコジョの耳、先端だけ黒いふさしっぽをピンとさせて、彼女も言う。
「危ないのは、わかってます。
でも、それで逃げてたら、α(アルファ)なんてやっていけません。
むしろ、この高天原のグラウンドで、あたしたちは思い切り歌ってやりたい!」
その後ろには、二人を守るかのように立つ『しろくろウィングス』の二人。
ルカが、ルナが、まばゆいばかりの強い瞳で次々と決意を述べる。
「あたしたちもおなじ気持ちです。
こんな、卑怯なテロなんかに負けたくない。
せっかくのふたりのデビューを、台無しにされたくなんかない!」
「もちろん、スタッフの方々や、見てくれるみんなを巻き込むことはできませんから、そのあたりはリモートでいいんです。
それがだめならマイクなしでも、いまここでわたしたちは歌いたいです!」
何を言ってるんだ、危なすぎる。
もしも失敗したら、それこそ台無しなんだぞ。
冷静に考えて、ここは一度避難しましょう。
次々上がる声たちを裂いたのは……
「俺が、……守る!」
なんと、ミツルだった。
勢いよく立ち上がったために、椅子は後ろに倒れ、深くかぶったフードも脱げている。
ミツルは紅い瞳をけいけいと輝かせ、激しい調子で言葉を連ねる。
「俺は、ステージなんかで歌えないけど……
歌いたいきもちを、潰す奴らは許さない!
もしも衛星が落ちてきたら……はじき返すッ!」
いつも無口でひっそりとしているミツルの激しい調子に、賛成派も反対派も声を失う。
ミツルの気持ちをわかって付き添ってきたはずの、アオバまでも。
――パチ、パチ、パチ。
静寂をやぶったのは、優しく、手を叩く音だった。
「え……学、長?!」
それは、笑顔のミソラ先生だった。
「『禿同』、だね。
わたしもそうしたい。
負けない気持ちをダイレクトにぶっ刺してやるんだ。
やろう、グラウンドライブ。
彼らはわたしたちの様子をウォッチし続けざるを得ない。そこでにぎやかにやってれば、いやでも彼らの注意はそがれるからね。
これも作戦の内だよ。
大丈夫、歌いっぱなしにはならない。ちゃんと、指揮はとらせてもらうから」
ただし、ミソラ先生の目もキラッキラだ。
そういえば現役時代のミソラ先生は、亡国のレジスタンスとしてゲリラライブをやっては逃亡、なんてことをしていた時期もあったっけ。
つまりマルキアたちは、軽い嫌がらせのつもりで超天才軍師『銀河姫』を、そして彼女率いるおれたちを『本気』にさせてしまったようだった。
そこからさきは、怒涛の展開だった。
「よーし、それじゃあ『三銃士』にも加わってもらおうぜ!」イツカが立ち上がり、陽気に声を上げる。
「っしゃあまっかせろ――!」ソーヤもニッコニコで立ち上がる。
「いいの? ミズキは?」ミライが確認すると、シオンがぷるぷるしつつもしっかりとした口調で答える。
「ミズキはもともと、残ってみんなを守るつもりだったから問題ないよ。
おれも技術協力するつもりだったから、出撃は考えてなかったし!」
「ってことは、イツカたちはやらないの?」ルカは半ば答えがわかった顔で問いかける。
「んー。やっぱ俺はまだまだ、歌よりバトルだからなー。
カナタはレモンちゃんの完コピやったらどうだよ、お前ちょー完璧じゃん!」イツカは冗談めかすけど、おれの答えは決まってる。
「完璧っても、しょせんはコピーだよ?
そんなものより……」
そう、タイミングぴったりでドアから入ってきたのは、当の本人だ。
一世風靡のアイドルエクセリオンは、明るいイエローのステージ衣装を身に着け、やる気ばっちりだ。
その後ろにひかえるライムグリーンの髪のメイドは、彼女の双子の妹ライム。
二人は優しくユゾノさんたちの肩を抱く。どうやら四人の歌姫の背中を押したのは、この二人のようだ。
「三人そろってコピーダンスってのも楽しくない? なーんてね。
任せて、みんなのステージは、このあたしが守るよ。
ここはサイコーのショーを見せてやろうじゃないか!」
「わたくしも機材等は扱えますわ。
これでももとはエクセリオン、万事フォローはお任せくださいませ、皆様」
そうしてレモンさんはどーんと胸を張り、ライムは優雅に一礼する。
「は~い、あたしたちも協力しちゃうよー?」
「町の守りは我らに任せろ」
ついでなぜか窓のほうから声。みれば開いた窓の外からやっほーと手を振るアカネさん(実物)。その横にはトウヤさんもいて、ノゾミ先生が半笑いの顔で突っ込む。
「レモンがまともに来たと思ったらお前らかよっ!」
「え~? ドアはふさがってたからー」
「何か問題でもあるか?」
「問題しかねえよっ!」
……うん、先生の学生時代の苦労が目に浮かぶ。
さすがに、エルカさんとオルカさんはモニター越しだが、その笑みは力強い。
『まあまあ、ノゾミ。今日は大目に見てやれよ。
……もちろん、わたしは可愛い弟子たちを守る所存だ。学園の守りにはわたしも加わろう』
『わたしもいるよ。安心して、思いっきり歌いなさい、みんな』
現役エクセリオン、そして、もとエクセリオンが勢ぞろいすれば、怖いものなどない。
かくしてここに、高天原のプライド、そして歌姫たちの意地をかけた、大作戦が幕を開けた。
その名も――
『みんなあつまれ! 高天原ソング&バトルフェスティバル』プロジェクト、であった。
オコジョのしっぽ、調べました。けっこう長いようです。
なおユゾノさんのモモンガ耳はちっさいので、ふわふわの髪に埋もれがちという設定です。
次回突入……できるといいな! お楽しみに!




