2-2 学園メイド隊、登場っ!
何が起きてんだろ、これ。ていうか、一体いつ現れたんだ、このメイドさん五人組。
とまどうおれの口から出てきたのは、こんな間抜けな一言だった。
「えっとあの……どちらさま……」
「ご挨拶が遅れましたわ。
わたくしたちは高天原学園専属のシティメイド、名付けて学園メイド隊! ですわ!」
しゃきーん!
赤セミロングさんの名乗りとともに五人組は、ちょっと戦隊もの風のポージングを決めた。
赤、黄、オレンジ、緑、藍色の髪をした彼女らは、そうして一人ずつ見得を切っていく。
「アップル!」
「パイン!」
「オレンジ!」
「キウイ!」
「ブルーベリー!」
「五人合わせて、学園メイド隊! ただいま参上っ!!」
「おー!!」
そうしてもう一度、最初のポーズに戻れば歓声とともに拍手が起こる。
右前左、そして後ろ。
そう、黒服さんまで車の外に出てスタンディングオベーションをしてた。
「いいねいいねえ、学園メイド隊のうるわしきポージングイベント! これぞ高天原の誇る最高の名物だわ!
お前たちもよーく見とけよ、いまならタダだから!!」
「はあ……」
うん、迎えに来たときからなんかフリーダムな人だとは思ってたけどさ。おれ、こんなときどんな顔すればいいんだろう。笑えばいいのか。ははは。
おれが乾いた笑いをもらす傍らで、そんな神経どこへやらの男がツッコミをかます。
「まんまじゃん!!
ってかいいって。荷物重いし、自分で持つから」
「うふふ、ご心配なく。あなた方は特待生、二ツ星入学者なのですからこれはタダ。無料のオプションサービスですわ!」
「ええっ?! 俺たちいきなり二ツ星なの?! うそ?!」
「いやイツカ、そのボケ完全に滑ってるからねっ?!」
本気で驚いてる様子のイツカ。心なしか頭痛がしてきた。
うん、そっちでやつに白い目を向けてる野次馬さんたち、君たちの気持ちはよくわかる。
おれはフォローを飛ばす。もちろんイツカだけに見えるよう、「あとで説教ね?」と視線で伝えることは忘れない。
しかし、根本的なところでおれもイツカと同意見だったので、『学園メイド隊』に向けて願い出た。
「あのっ、ほんとそれは大丈夫ですから……
これでも男なんですし、荷物くらいは自分でもちたいですので!
そのぶん、ここのことを教えてくださいませんか?
お差し支えなければですけど……」
「まあ!」
「紳士的……」
「すてき……」
「喜んで!」
「では、張り切ってご案内を!」
理由はどうあれ、お仕事をさせないなんて、顔をつぶしてしまうことにならないかな?
そんな懸念もあったので、お願いだけにしておいたのだが、『メイド隊』の反応は悪くない。
というか、思ったより反応がでかい。
さらには野次馬たちからもイケメーン! なんて声がした。
これは……うさみみか。うさみみのせいなのか。
もっとも、チッ、と舌打ちする音もハッキリと聞こえたのだけど。
耳かおれの気持ち、どっちかの感度、下げた方がいいのかな。
それは、この数日で決めることとしよう。
もっとも、いじめや暴力沙汰なんか発覚したら、αへの道は閉ざされる。苦労してここまでたどり着き、そんな風に道を踏み外す者は、そうそうないとは思うのだけど。
両手にごろごろキャリーバッグ、背中にでっかいリュック。さらにはスポーツバッグを二つがけ。
もはや旅行を通り越して亡命でもするのかレベルの俺たちを気遣って、学園メイド隊はまず寮室へと進路をとってくれた。
「まずはお荷物もありますから、道すがら概観をご案内いたしますわ。
敷地を入ってすぐ見えました、右手の建物は迎賓館。
その奥側隣は、講堂のあるパブリックセクション。
そして左手が五つ星寮。ここにお住いの先生方や、卒業資格を得た生徒が入る寮ですわ」
「え、それ寮っ?!」
「居城かと思った……」
正門から校舎へと続く、中央通りを歩きつつ、メイド隊リーダー・アップルさんが解説してくれた。
ぶっちゃけて言えばこのへん、王城ルーブルはだしのゴージャス感がある気がする。
なんか、噴水とかいくつかあるし。ベンチとか植え込み、ガス灯風の構内灯もみょうに気品と高級感あふれてるし。
イツカがぽかーんとしてる。おれも似たような表情をしていることだろう。
おさえようと思っても、こんな絶景初めてなので、ついついきょろきょろしてしまう。
野次馬の中の何割かは、そんなおれたちの様子が面白いのか、ついて歩いてきていた。
いや、気にしない気にしない。
おれはアップルさんの説明に、四つの耳を集中させた。
「そして、あれに見えますのが校舎。みなさまの学び舎ですわ。
グラウンドと体育館・プールなどは左手。右手には、各種実習棟が展開しております」
メインストリートの突き当りには、宮殿、じゃなく、校舎を中心とした施設群が鎮座していた。
実のところ、校舎はもうすこし大きいかと想像していたのだが、そうでもなかった。
よく考えれば、αプレイヤー候補の絶対数が少ないのだから、当然なのだけど。
それでも、校舎の正面、中央通りに向いたいくつもの扉は、そのすべてが大きかった。
「正面は来賓用の出入り口ですので、普段は閉められていますわ。
一番左側から第一、第二、第五。正面昇降口を挟んで第三、第四と並びます。
おふたりは二ツ星ですので、第二昇降口にロッカーがございます」
高天原は学年制でなく、『星』制だと案内メールには書いてあった。
しかし、まさか玄関からハッキリ分かれてるとは。
第一第二は、星降スタディサテライトっぽい大きさと雰囲気。つまり、わりとふつう。
しかし、となりの第五は、ふたつを合わせた広さのうえに、受付とソファー、荷物台のある豪華仕様。
じわりと漂うなにかを意識から追いやって、おれは第二昇降口に足を踏み入れた。
第二昇降口は、青いすのことロッカーが並ぶ、まあまあ普通の昇降口だった。
ただし、ロッカーがかなり大きい。大人一人が余裕で入れそうな幅と高さがある。
アップルさんたちは迷うことなく歩を進め、おれの、そしてイツカの学籍番号が書かれた扉の前へと導いてくれた。
「こちらが昇降口ロッカーですわ。
ID認証タイプになっておりますから、手をふれるか、かざしていただけば自動で開くようになっております。
まずはこちらで上履きにお履き替えくださいませ。お手伝いいたしますので」
「いっ、いえっ、だいじょうぶですっ!!」
「だいじょぶですのでっ!!」
人間ではないとはいえ、見分けつかないほどに精巧な、そしてきれいなメイドアンドロイドさんたち。
そんなひとたちに靴を脱ぎ履きさせていただくなんて……とてもじゃないが恐れ多い!
おれたちは必死に丁重にそのお申し出をお断りし、自力で上履き用のシューズに履き替えた。
ちなみにロッカー内には上履き、外履きに加えて靴ベラが用意されていた。はんぱない。
「靴とかも装備チェンジでパパッとできればいいのになー……」
「そこまでいったら人間ダメになるだろ……
っていうかうっかり『全装備解除』したらマッパじゃん」
「あー。
でも風呂の時とか便利だよな」
「おまえね。」
そのとたん、おれのうさみみに『聴こえ』てきた。
『おお、さすがイツにゃん!』とか、『カナぴょんの発想力もハンパネエ!!』とか、『それいい』とか『見たい』とか『いまから学園側に要望出そうぜ!!』とかいう、しょーもない声が。
いや、おれはきこえてない。きこえてないんだ。ひそかに深呼吸して気を鎮める。
ともあれ、ロッカーは扉を閉めれば自動でロックされる。ここまで履いてきた靴をとりあえずしまうと、おれたちは本格的に校舎内に突入。
風除けを兼ねて設けられているのだろう、大きな掲示板を回り込めば、そこに映画の世界が広がった。




