Bonus Track_19_1A-1 『ミズキ聖騎士団ヴァルハラ支部』発足秘話(前)
――もう、お前に依頼はしないよ。
俺はとうとう切り捨てられた。
『ガーデン』と『にじいろ』の提携が決まった日。
奴らは俺を呼び出して、こう言ったのだ。
これからは、『うさねこ』相手の時でも頼める前衛がいるからね。
もう、お前には依頼しない。
どうしてもっていうなら、アンタもトラオと同じだけの誠意を見せなよ。
そうしたら――
「くそっ!」
俺はもう一度、サンドバッグをぶん殴った。
「俺はトラオほど悪どいことはしてねえだろうがよ!!
なのに……なんでそこまで……」
誰もいない夜中のジムに、俺の声が響き渡った。
ああ、くそ、くそ。
「そりゃ俺だってさ! 俺だって……でもあんまりだろ! あんまりすぎるだろ!!
トラオとおなじ真似? できるわきゃねーだろうがよ!!
できねえから、できねえから傭兵やってんじゃ、ねえかよ……」
ああ、目に汗が入ってきやがった。
おかげで力が入りゃしねえ。
「……くん」
そのとき、柔らかな声が俺の名を呼んだ。
綺麗で優しい、まるで『聖者』ミズキさんのような……
ふりかえればそこには、優しい微笑みを浮かべたミズキさんがいた。
「こないだから俺たちのこと、見てたみたいだから気になって。
どうしたの? 俺でよければ、話、聞くよ?」
っていやいや、さすがにこれは幻覚だろう!
なぜって……
「聞くわけねえじゃん。『聖者』ミズキが、俺みたいなクズ野郎なんかの話」
「俺にとってはクズなんかじゃない。
……後悔があるんでしょ。
そうできるやつは、クズなんかじゃない。仲間だよ。
ね。聞かせて。ゆっくりで、いいから」
優しく手を取られて、暖かく見つめられて。
ニコッ、と微笑みかけられたら、俺の意地など溶け去った。
かくして俺は、言っていた。
「助けてくださいミズキさん!!」
……と。
経費。試合に必要なアイテムや、装備を整えるに必要なだけのTP。
『ガーデン』のシステムでは、それは依頼料とは別建てに請求することとなっている。
文句も言われるが、これがなければ、とてもじゃないがやっていけないのが現実だ。
緊急時用の回復用ポーションや、不意をつくためのボムがあるとないでは、バトルの難易度は格段に違ってくる。
低ランクの顧客の場合、依頼料は安いわ、支援は心もとないわ。だから経費をTPで出せない場合は、現物で物納してもらわなければとても割に合わないのだ。
さらに二ツ星になれば、メンテナンス費用の免除もなくなる。
戦えば装備は絶対に傷む。メンテナンスは毎回必要になるものだ。つまりその費用だって必要なのだ。
というのに、あいつらはそれを認めようとはしなかった。
だから、断ったのだ、依頼を。
数日後、恨み全開の様子で請求分をそろえてきたので、最初からそうすればいいんだよ、と言ってしまったのは……
「それは、確かにその、……よく、ないと思うんです。
でも、それを謝ろうにも、『誠意』を要求されたら俺にはどうにもなりません。
今までと同じやり方は無理なのはわかりますけど、それでやってけるほどの腕前も……。
トラオはあの商才と、レンやチアキとのコネがあったから『うさねこ』に拾われた。
ケイジも結局、人脈があったから『にじいろ』に認められたわけで……。
だけど俺には何にもない。
もう、詰んで、しまったと…………。」
ミズキさんは隣に座り、俺の長い話を優しく、根気強く聴いてくれた。
「苦しいんだね。
……後悔してるんだね」
「はい……」
「わかった。
あした。俺がその子たちと、話をしてみるよ。
もう一度、きみと話してくれるよう頼むから、まずはその苦しさと後悔を、まっすぐ伝えてみよう。
そうしたら、道は見えてくる。
俺がついてるからね。どうか、勇気を出して」
そして、温かな手で優しく、背中を叩いてくれた。
なんと昨日評価いただけました! ありがとうございます♪
長さが半端になりましたので、本日昼につづきを投稿します。




