Bonus Track_18_3 わたしのヒーロー~マルヤムの場合~
『お前、ほんと表情読めないな』
『…………すみ、ません』
『いや、それっていいことだと思うぜ?』
『えっ?』
『ほら、リーダーって、顔に出しちゃいけないときがあるだろう?
お前は頭も切れるし思い切りもいいし、向いてると思うな』
『わたしが、……リーダー?』
『ああ。
実は、サブリーダーやってくれてたやつが、卒業決まっちまってさ。
無理に交渉とかやってくれって言わないんだ。
まずは冷やかし? でもいいから……』
そんな言葉で、わたしを救ってくれた人。
子犬のような照れ笑いで、『笑うと可愛い』といってくれた人。
リーダーとしての厳しさ、優しさを教えてくれた人。
仕事も戦い方も勉強も、おしみなく教えてくれた、その人を。
私は切った。
その人の教えにしたがって。
だから、わたしは乗り越えなくちゃならない。
自分の力で。この、難局を。
私は昨日、先代リーダー・ケイジを追放し、『マーセナリーガーデン』の長に就任した。
『ガーデン』は『傭兵組織』。そのリーダーとしてあるならば、つねに組織の為、情を挟まず舵を切りつづけねばならないし、それができていないとの疑念を抱かせてもいけないのだ。
けれど……
数少ない、心許せる友の前では、気持ちが漏れることもある。
ルカとルナとを前にして、わたしは大きくため息をついていた。
ヴァルハラフィールドの一角にある、小さく瀟洒なティールーム。
そこでルカから伝えられたのは、なかば予測していたバッドニュースだった。
「オフィリアが、出場辞退を?」
「ええ。申し訳ないけれど、イツカ相手に前衛は無理って」
「そうですか……。」
予測していた、とはいえ、それはひどくやっかいなしろものだった。
『マーセナリーガーデン』、正確にはケイジは、あるバトル企画を進めていた。
ずばり、『にじいろ』+『ガーデン』VS『うさねこ』の三ツ星頂点マッチ。
『うさねこ』にとっては、メリットのある話だ。盟主ユニットの片割れ『0-G』が出場、覚醒を披露し善戦すれば、『0-G』の四ツ星昇格が一歩近づくのだから。
そして『ガーデン』が勝てば、ケイジの施策は的確だったとして、求心力を回復できる。
もっともその部分は、ケイジとその施策を失って変質。いまや私の施策の的確さをあかし、求心力をつけるためのものとなっているのだが。
問題は。
「こちらも状況は改善していません。
ケイジならばまだしも、自分たちに『0-G』相手の前衛は荷が重すぎると。
支援役の後衛としてならまだしも、と……」
「そうなんだ……。」 ルナがため息。
「タイミングが悪かったわね。
こないだまでなら、なんとかあたしが出たんだけど……」ルカもうなりつつ、腕を組んだ。
イツカ君とカナタ君は、実力はどうあれいまは三ツ星。
それを相手に四ツ星のルカをひっぱり出せば――それも、三ツ星同士のマッチと言って申し込んだものでそうしたのでは――もはや求心力どころの話ではない。
勝っても負けても、恥をさらすだけとなる。
私も一応ハンターだが、イツカ君を相手に、真正面から渡り合うほどの強さはない。
だからオフィリアに前衛を務めてもらい、私がバックアップと考えていたのであるが……
状況は、詰んでいた。就任二日目にして。
「あの決断は、間違っていなかった。そう、思います。
ケイジ本人も、そう言ってくれました。
あそこで俺を切ってくれて、ありがとう、と。
でも……。」
『ガーデン』は『傭兵組織』。そのリーダーとしてあるならば、つねに情を挟まず私心なく舵を切らねばならないし、それができていないとの疑念を抱かせてもいけない。
オレはそれに失敗した。
そんなオレを、あの場でスパッと切ってくれたおかげで、『ガーデン』は守られた。
もう、オレには無理だったんだ。
マルヤム。どうか、後を頼む。
あの人はそう言い残して、『追放』されていった。
あっさりと、さっぱりと、わたしの前から消えてしまった。
切ってしまったからだ。
ほかならぬ、私が、この手で。
つい昨日まで追いかけて、頼りにしていた背中はもう、ない。
そういえば、ルカとルナとの縁も、あの人あってのものだった。
思い出したら、たまらなくなった。
「わたし、バカです……!
迷惑料としてタダ働きしていけぐらい、どうして、言えなかったのか……
きっと、だから、こんなことに……!」
「ねえマル、それなんだけどさ。
……紹介したい人がいるの」
その時、ルカが言い出した。
いたずらっぽく微笑んで。
ルナもふわふわ笑いかけてくる。
「あたらしい新人さん。
とってもつよくて、たよりになるよ。
そうだね、ケイジくんと、おんなじくらい!」
「…… え?」
「はーい、サップラーイズ!!」
ふたりの陽気なかけ声とともに現れたのは……
あかがね色の初期装備を身に着けて、はにかんだ笑いを浮かべたあのひとだった。
PVがいっぱいです……どうしよううれしいです。ありがとうございます!




