Bonus Track_18_2 クラフターズ・ラボの放課後~フユキの場合~
ちょびっと書き方を変えてみたりしました。
「゛」ヌケがあるのに気付き修正しました。そろそろキーボードか本格的にやばい……。
非公式に『トラオ被害者の会』と呼ばれるグループがある。
かつて、トラオにアイテムを搾取されていたクラフターの集団。具体的にはレン、クレハ、ハルオミ、チナツ、そして俺のこと。
もっともトラオとはすでに和解。さらに最近ではここにチアキが加わっているので、もはやただの『気の合うクラフターの集団』だ。
そんな俺たちは今日も気が付けば、クラフターズラボで集まっていた。
ひととおり必要な錬成を終えると、誰からともなく休憩所へ。
それぞれ飲み物をベンダーからとり、テーブルに着いた。
お気に入りのみかんソーダをごくごくあおって、チナツが口を開く。
「やーほんっとびっくりしたなー『ガーデン』の件。
きのうアスカにお伺い立てられたと思ったら、もーケイジ追放だもんよ」
答えるのは、同様にコーラをあおっていたレンだ。
「はえーよな。ま追放自体はあるかもと思ってたけど……
つかむしろオレ、アスカから『ガーデン』からの子くるかもしれないけどどうよ? って聞かれた時なんで? って聞き返しちまったぜ」
ちなみに今日はミルクじゃないのかと聞いたら、品切れだったそうだ。
ホットミルクティーを手に、ハルオミが微笑む。
「俺たちにとっては、『ガーデン』といったらトラオで。トラオとはもう和解してるのに……
わざわざ聞いてくれるなんて、アスカは優しいよね」
クレハはコールドのストレートティーを一口飲んでこういう。
「それもあるだろうが、念を入れたかったんだろう?
俺たちの依頼はトラオに『握られて』いたとはいえ、完全にトラオにしか依頼をやれないわけでもなかった」
抹茶ミルクのペットボトルをテーブルにおき、チアキが心配そうに言う。
「でも、ほんとにどうなっちゃうんだろうね、新体制おひろめ試合。
なんかすごい大型新人が『ガーデン』と『にじいろ』に入ってくれたそうだけど、いきなりケイジ君の代役は、さすがに……。」
『新体制おひろめ試合』。『ガーデン』が『にじいろ』との提携成立を見込み、『旅の聖者とふしぎなふたり』の後のビッグイベントとして、出してきていた企画だった。
『ガーデン』からはケイジ。『にじいろ』からは、女聖騎士オフィリアがタッグを組み、『うさねこ』のイツカ、カナタと戦うというもの。
前者が勝てば、『ガーデン』の施策の正しさがアピールされる。
後者にとっても、四大巨頭の昇格チャンスとなる。
さらには、四人とも所属団体の三ツ星のなかで最強のプレイヤー。大きな注目、すなわち大量の投げ銭が期待できるイベントだった。
俺は一つうなずき、口を開く。
「ケイジの犬種、ワイマラナーって犬だよな。つまり」
「ぎゃああああ!!」
「まてえええええっ!!」
「フユキくんそれいじょうだめ――!!」
「ちょっっ、これを食えっ!! ハルオミおやつ!!」
「はっはははははいいいいっ!!」
と、突然目の前の五人がパニックし始めた。
そして口の中になにかが押し込まれた。
この香り、味、歯ごたえ。いつものカロリーブロックだ。
もぐもぐと咀嚼すると、小麦とチーズの風味、そして甘味料の甘さが口に広がる。
手にしたブラックコーヒーで流し込めば、頭のもやがすっと晴れる。
なぜかチアキが涙目で、クレハもぜえぜえ息を切らしている。
この取り合わせはつまり。
「……イヌ科に暴言を吐いてしまったのか?」
「す……寸止め、した……から……。」
「だ、だいじょうぶだよ、うん、だいじょうぶ……。」
基本冷静なクレハが動揺しているのもそうだが、チアキがけなげに大丈夫と繰り返すのは胸に刺さった。
「す、すまなかった……
言い訳になるが、今日はカフェラテが売り切れていたんだ。
コーヒーそのものにもカロリーはあるから、ブラックでもなんとかなると思ったんだが……。」
こうべを垂れれば、レンがため息をつく。
「ったく、その頭の回転があるのにどうしてすきっ腹だけはアレかな……」
「俺もいろいろ試したんだが、どうにも……」
そう、俺もここまで何もしてこなかったわけではない。
しかし、なにをしてもダメ。急に腹が減る。そして食わなければどうにもならない。
ゲーム中ならRPとしてすませられる。
リアルでも、黙っていればまだ何とかごまかしもきく。けれど……。
うつむいてしまうと、ぽんと肩に手が置かれた。チアキだ。
さっきまで涙目だったのに、まるで太陽のような笑顔をむけてくれる。
「だいじょうぶ! こんどは僕が、フユキくんをたすけるばんだよ!
僕たちのミルクの件では力を貸してもらったし、きっと僕がなんとかしてあげる!」
「え……
いいのか? これは、チアキのように重大なものでも……最悪、黙って飯を食えば何とかなることで……もっとほかに、優先すべきことが……」
そう、黙っていれば、そして食えば何とかなる問題なのだ。
しかし、全員が首を横に振った。
「重大だって。お前それで食費かさんで困窮したんだろ。
ここは学食やベンダーはタダだけど、購買で買うとTPかかるからな」クレハが静かに言う。
「そうだよ。やっぱこれ、ほっとけないよ!
おやつがかりの俺が、もっとしっかりすればいいのかも、だけど……
フユキが悲しい思いをすることになっちゃうのは、なんとかしたい!」おっとりとしたハルオミも、いつにもなく強く主張する。
「そ・れ・にー。そのイケメンフェイスで『お前を食いたい(キリッ』なんて、もしも女子に言われたりしたら大変なことになるからなー☆」チナツはいつものごとく冗談めかす。おい。
「女子には言わない! 俺にもそれくらいの自制心は……」
「男子と思っていた奴がもしも男装女子だったら?」
「…………………………。」
レンの会心の一撃に、俺は沈黙せざるを得なかった。
「えっ」
「……えっ?」
いや、ほんとに……朝からえぇーっとか叫んでしまいしまた。
ブックマーク頂いている?! むしろリアルが予想外すぎだった!!
ありがとうごさいます!!
次回、満を持しての……です! お楽しみに!!




