18-5 怒れる女史と、まさかの追放
『ユキテルは、弱い立場の生徒にむりな融資をすることで、不当に債務奴隷を作り出したとされた。
本人にそのつもりはなくとも、優越的な地位を利用してそうしたと……
そうして、放校処分になった。
あれから二年、あいつはいまもΩ(オメガ)として働いている。
一日も早く、自由にしてやりたいんだよ。
もう一度、二人で夢を目指したいんだ』
オブザーバーウィンドウの向こう、ケイジ君は語り続けた。
テーブルに両のこぶしを押し付けたまま。
『……おかしいよな。
『龍の枷』というわけでもない。怪我や病気があったわけでもない。
ただひたすら自分の過ちで、Ωになったやつ。
ただの犯罪者でしかない奴を、身請けしようとしてるなんて』
そのときおれたちの横で、ばっと立ち上がった者がいた。
ニノ。そして、ミツルだった。
震えながら立ち尽くすミツルに、アオバがよりそってやる。
その一方で、ニノはイズミをうながし、会見場につづくドアへと歩を進めた。
『でも、オレにとっては大事なやつなんだ。家族……じゃなかったら、それ以上の存在なんだ。
α(アルファ)になるならユキテルといっしょ。約束したんだ。それだけは何としてもかなえたいんだ。何に変えても……』
「おかしくなんかねえ!」
そのとき、扉が開かれた。
大きく開いた戸口から、ケイジ君の驚いた声が、ニノの語る声が、ダイレクトに流れこみはじめる。
「おまえら、……『イーブンズ』?!」
「ああ」
ニノはイズミの手を取って、まっすぐケイジ君のまえへ。
そして、真正面からこういった。
「こいつを知ってるだろう。『オッドアイの黒うさぎ』だ。
こいつは自分のミスで放校になった。そして、『ミッドガルド』のうさぎになった。
俺はこいつを血眼で探した。大事だからだ。
黒うさぎ装備で移動して、まわりのプレイヤーの目を欺いた。あえてケンカもした。
その俺から言わせれば、お前の気持ちはおかしくなんかねえ。
優しかったんだろ。いいやつだったんだろ。
だったらおかしくなんかねえよ。
ひとつも、おかしくなんかない」
「お前……」
「だがな、……
いや。この先は彼女の口から言ってもらった方がよさそうだ」
と、みれば。
ケイジ君のとなりで、『彼女』――マルヤムさんはケイジ君を睨んでいた。
制服の背中では朱鷺色の羽がふくらみ、かなりご立腹の様子。
銀ぶち眼鏡を直して立ち上がれば、さらさらの黒髪がいきおいよく肩を掃く。
「お答えください、リーダー。
あなたは『ガーデンのため』と言いながら、結局は私欲のためにシステムを変えたのですか?」
「ち、ちがう、これは、……」
「でしたら、なぜこのような話を。それも、今この場で。
追放されたアキトとセナも、ガーデンのためならと自らを曲げたほかの者たちも、これでは浮かばれません。
『マーセナリーガーデン』のサブリーダーとして、私はあなたに要求します――」
翌日。おれたちはまた、トラオの部屋に集まっていた。
部屋の主はだらーんとソファーにかけて、ぼやーんと宙を見ている。
白い猫耳も左右に倒れかけて、なんかすっごく猫っぽい。
「うん、いまだに信じらんねえわ……あっつーまケイジ首とか。
もうクーデターだろこれ。
まあ本人はさっぱりしてるみてーだがよ……」
そう、いまおれたちの前で湯気を立てている紅茶。それは、今回お世話になったとして、さきほどケイジ君が持ってきたものだ。
しかし元凶ともいうべき白うさぎは、悪びれた様子もない。
甘やかな香りの紅茶を口に運びつつ、ニコニコとのたまう。
「『ザ・プランオブケイジ』は実現したからねー」
「なんだそれ!」
おれたちはまたしても総員突っ込みだ。なんだその映画みたいなの。
「『ガーデン』の傭兵を数名『にじいろ』に加入・常駐させることで、ひきかえに援助を受ける、ってやつだよん。
回り道したし本人もいないけど、まそれはそれってことっしょ」
そう、『ガーデン』メンバーのほとんどは、マルヤムさんに賛同した。
そこからは、あっという間の交代劇。
ケイジ君は『ガーデン』から『追放』。
そうして、アスカ言うところの『ザ・プランオブケイジ』が実現された。
そのかげには、ケイジ君の首を手土産としたマルヤムさんの交渉があったそうだ。
料金値上げも融資システム導入もなしになり、値上げ分は返還、リーダーは追放。
しかし彼には涙の事情が……
そうなれば『にじいろ』内の反対派も矛を収めたということだ。
かくして無事、数人の『傭兵』が『にじいろ』に加入。今後、両者の架け橋として活動するそうだ。
「冷たくないか、アスカ?
俺が言うのもなんだけど……。」
しかしアスカが『ごほーびちょーだい!』と伸ばした手を、セナはそっと押し返す。
セナは透明感のある容姿、海色の髪と目が特徴的な清楚系男子だ。
けれど気は強く、へたに触ろうとすると即座に『ヒレビンタ』が飛んでくるらしい。
つまりこれは、セナがアスカに心を開いているという事にほかならない。見ていてちょっとほっこりする。
「追放とか普通にショックだぜ。それもマジに信頼してたのにさ、マルヤムさんのこと」
「信頼してるんだったら、もっと早くに話すべきだったんだよ。
そうすりゃこの事態はなかった。セナもアキトも、追放なんかされずに済んでたんだよ」
「………………。」
セナは微妙な表情で黙り込んだ。
どこかおちゃめな、どこか悟ったような調子でアスカが言うに。
「あの二人はこれからだよ。
もっとも、助けを待つ王子様との間に、マルヤム女史が割りこめればの話だけどね?」
「いやお前いくつなのっ?!」
「ほんとな!!」
セナが突っ込み、間髪入れずトラオがつづき、室内に笑いが起きた。
おれ、イツカ、アキト。今日は執事ルックのライカもいる。
ちなみにハヤトは何かをあきらめた顔で遠くを見ている。
『でさでさー。どしたあれアスカー? マルたんからのラブレター!』
やがて笑いがやめば、ライカが切り出す。
ビシッと決めた執事ルックが泣くような調子で。
するとガタッと――音は立たないが、そんなかんじで――トラオが立ち上がる。
「お、おいなんだそれっ! お前にはばふっ」
とてもプリーストとは思えないスピードとパワーで、アスカはトラオをクッション蒸しにした。
「いま何かおかしな一言が聴こえなかったかなあ、ねえトラオくん~?」
「~っ! ~~っっ!!」
「おいアスカ」
トラオはソファーとクッションの間に挟まれてギブギブギブと手をバタバタ。急いでハヤトが止めに入る。
これ、おれもたまにイツカにやるけど、実はけっこうやばい。イツカとともに救助に向かった。
「ストップアスカそれ死ぬマジ死ぬー!!」
「アスカ、おれなんにも聞こえてなかったよ。
だから、その辺にしてあげて。ね?」
「むう、聴力特化のカナぴょんがいうなら……」
「ぜえ、ぜえ……きょ、恐怖政治だろこれ……」
口走るトラオ。我に返ったアキトがあわわと止めに入る。
「ト、トラオ、刺激しない! それこれから話すとこだったから!
あのさ、『ガーデン』から申し出が来たんだよ。
おれとセナの追放処分をお詫びして解きます、よろしければ戻ってきてはいただけませんか、てさ」
「マジ俺スルー!」
「お前自分から辞めたんだろ!」
「あ」
トラオはたまにこうして素でボケる。
リンカさんとサリイさんにとっては可愛くてたまらないポイントらしい。
おれ的には、ちょっとイツカっぽくてほっこりするポイントだ。
アキトは、はあっとため息をつく。
「おまえほんっと残念王子なー……」
「仕方ねえだろ、俺若いんだしっ。
で、どうすんだよ?
お前ら『ガーデン』に愛着あったんだろ。俺と違って」
トラオが『改心』し、『これまでアイテムを搾取したクラフターたちには、迷惑料としてその分、安値で依頼を受ける』と約束したとき、『ガーデン』からは物言いがついた。
トラオの行為は、『ガーデン』の規定違反に当たるものではない。それを理由にディスカウントをされては困る、と。
そのとき、トラオは『ガーデン』をすっぱりやめている。
もめにもめて追放された、セナとアキトとは逆に。
ふたりは顔を見合わせ、まずはアキトが、つづいてセナが口を開いた。
さっぱりとした、いい笑顔で。
まさかの展開は昨夜、すでに起きていた……ブックマークありがとうございます!!
気付かれてないなと思ってからの、なので正直びっくりしました!!
↓↓↓以下、しょーもないのでボツったシーンです↓↓↓
アスカ「よーしそれじゃー成功報酬のーヒレもふもふー」
セナ「しょ、しょうがないな……そ、そーっとだぞ?」
アキト・ハヤト「…………////」
イツカ「なあなんでおれ目隠しされてるの?」
カナタ「イツカにはまだ早いからねー」
トラオ「だっかっらっ俺の部屋はモフり部屋じゃねえっ! 外いけ外!!」
アスカ「え~サリちゃんとはやってるんでしょ~?」
トラオ「っっっっっ!!」




