Bonus Track_18_1-3 わるものになった、わんこのおはなし~ケイジの場合~(3)
その人は身請け代をいったん立て替え、ユキテルの身柄を確保。
高天原内のとある屋敷で働きながら学べるよう、環境を整えてくれた。
かわりに出された条件はまず、ユキテルが奪ったのと同じだけのTPを、オレのファイトマネーで被害者たちに返すこと。
そして、勝って勝って勝ちまくる姿を、学園闘技場で見せること。
オレは二つ返事でひきうけた。
追い風となったのは、学長交代。
あらたに学長に就任した『銀河姫』、ミソラ先生はおれに共感を示し、オレを取り巻く視線はぐっと温かいものになった。
それからおれは、戦って戦って、被害者たちにTPを支払い続けた。
やがて彼らは高天原を卒業。悪評もいつしか流れ去り、すっかり傭兵としての信用を集めた俺は、『マーセナリーガーデン』の長に推された。
気が付けばあれからもう二年。
しかしユキテルの身請け金は、まだ半分しか返済出来ていなかった。
『聖者ミズキ』入学、無星救済を開始。
特待生バディ『白兎銀狼』入学、『うさぎ男同盟』結成。
規格外バディ『0−Gけもみみブラザーズ』デビュー。
『うさぎ男同盟』から『うさもふ三銃士』デビュー。
『ウサうさネコかみ』が立ち上げられ、無星救済活動が本格化。バトルアドバイス開始。
『にじいろガーランド』結成、バトルアドバイスをはじめとした各種支援活動開始。
『マーセナリーガーデン』をとりまく状況は、厳しくなるばかりだった。
そんなときだった。トラオが『ガーデン』を抜けたのは。
『白兎銀狼』結成の頃に加入してきたトラオは『ガーデン』のエースだった。
一部の顧客――とくに腕の良いクラフターたち――を独占し、アイテム先渡しを要求して利ざやを稼ぐ行為はあったものの、上客から最低ランクまで仕事を選ばず、確実に勝つ。
中身はまあ普通の男だが見た目は良く、そのためそれなり人気もあった。
稼ぎ頭であるトラオを失ったこと、さらにはトラオが始めた『償い』により、『ガーデン』の収益は大きく悪化した。
『うさねこ』がお情けで支払ってくれた『違約金』など、奴に代わるプレイヤーがいない以上、焼け石に水に過ぎなかった。
ついにオレは、禁じ手に手を出した。
資金融資をシステムとして復活した。
もちろん債務奴隷状態を発生させないため、返せる見込みのない顧客には最初から貸さない、債務が残っている間は再度の利用を断る、とハッキリ規定した。
同時に、利用料の値上げを断行。
収益を上げ、利の薄い顧客を切り離すためだった。
これらへの反対を貫いたアキトとセナは、『ガーデン』から追放した。
これは『ガーデン』の財政状況改善のための決定。受け入れられないなら自力で自分の『庭』を作れと告げて。
オレが切り捨てた者たちは、全て『うさねこ』に駆け込むはずだった。
何故ならそこには『聖者』ミズキがいるからだ。
一年前から一貫して無星救済を続ける彼は、高天原生全員が絶大な信頼を寄せるまさしく『聖者』。
その計算のもと、俺たちは『にじいろ』と提携交渉をしようとした。
すなわち、『ガーデン』から数名の傭兵を加入・常駐させる代わりに、援助をくれないかと。
しかしここで、まさかの事態が起きた。
彼らは、バラバラに動いたのだ。
すなわち、追放された二人は『うさねこ』へ。
顧客の一部は、あえて『にじいろ』へ。
個人の身軽さを活かし、元傭兵二人の『うさねこ』加入を確認後、素早く先に『にじいろ』加入。オレたちを阻んだのだ。
かくして『ガーデン』は苦境に陥った。
あのあとユキテルを忘れぬためにと、必死にTPを貯めて買った、あの紅茶。
いまでは秘書役のマルヤムが、いつでもおいしく淹れてくれるようになったあの紅茶の香りさえ、追い詰められたオレにはもう、感じ取れなくなっていた。
裏舞台編、お付き合いいただきありがとうございました。
次回は視点戻ります。まさかの展開になりますが、納得感はある……と思います。
どうぞお楽しみに♪




