Bonus Track_18_1-1 わるものになった、わんこのおはなし~ケイジの場合~(1)
ボーナストラックなので、読まなくても話は進みます……
最初はほわほわ、最後がショック! なので、お気持ちに余裕があるときで大丈夫ですm(__)m
『はああ! 今月も乗り切ったぞー!!』
『ほんといつもごめんねゆっきー、オレのために……』
『何言ってんだ。ケイはおれの大事な相棒だろ?
ここまでずーっと一緒だった。α(アルファ)になるならお前と一緒だ!』
ユキテルの大きな手でくしゃくしゃくしゃ、と頭を撫でてもらうと、いつものように安心感がこみ上げた。
ここ高天原学園では、月給受け取り後のTPが、星数×100万に達しなければ降格となる。
だから、オレたちみたいなまだ弱い生徒は毎月必死だ。
それでも、こいつといっしょならそれもつらくない。むしろ、楽しいほどだった。
『ありがとっ。
オレ、もっともっとがんば……こほ、こほっ』
『こらこら、興奮しすぎ。
ほら、薬飲んで。今日はもう寝よう』
『……ありがと、ゆっきー』
ユキテル。オレの幼馴染で、大事な相棒。
スターシードのくせに、体が弱くて不器用で、腕っぷしも弱っちいオレを、いつもいつも守ってくれて、ここまで連れてきてくれた――
あこがれの存在で恩人で、でもときどきねぼすけでドジでしょーもなくって、だからこそほっとけなくってだいすきな、たったひとりのともだち。
そんなユキテルは、明るい笑顔でこういった。
『あのさおれ、『マーセナリーガーデン』入ってみようと思うんだ。
そこで『傭兵』やって、ファイトマネーを稼ぐ!
そうすれば、ケイにもうすこしラクさせてやれる。
ケイはできるやつなんだ。ゆっくり、強くなればいいんだよ。
だからその間はおれが、時間とTPを稼ぐ。
それで余裕ができたら、体調ももっと良くなるはずだから。いいだろ?』
『それはうれしい、けど……いいの?
そしたらゆっきーがもっと、大変に……』
『そのかわり、宿題わかんないとこは頼む!
あとたりないとこは……出世払いとモフモフで!』
『ええ、モフモフもするのー?』
『じゃーたりないぶんは、お前がおれをモフモフでっ! な?』
『それ条件になってなくない?』
『いーっていーって! モフるとモフられるは等価交換ってさ!』
『もー、だからってさっそくモフらないー!
そーいうゆっきーにはおかえしだー!』
いつものようにじゃれあって笑いあって、オレはユキテルの傭兵デビューにOKを出した。
それが、オレたちの運命を捻じ曲げることになるなんて、想像もせずに。
『傭兵』としての初仕事の様子は、今もよく覚えている。
いつもいっしょに戦っていたユキテルの戦いぶりを、初めて観客席から見たときは、心底カッコいいとおもった。
ドキドキした。ワクワクした。
ユキテルがみごと、相手チームの前衛に競り勝った時には、おなかの底から歓声を上げていた。
その週末は、ずっと行ってみたかった喫茶店で乾杯した。
さすがにまだケーキは頼めなかったけど、その日の紅茶の香りは、下手なケーキよりずっとずっと甘かった。
次の仕事も、ユキテルはなんなくこなした。
その週末、ユキテルは新しい、もうすこしいいアーマーをオレに買ってくれた。
なによりまずはお前の身の安全だろ、という優しい言葉に、オレはちょっとだけベソをかきつつお礼をいった。
その次の仕事は、少しだけ苦戦した。
それでも勝ったその試合は、熱い展開だった! とむしろ投げ銭が多くて……
その週末、ユキテルはずっと欲しかった良さめの剣をオレに買ってくれた。
『勝ったのはゆっきーだし、こんどはゆっきーのものを買ってよ』と辞退しようとすると、『お前が宿題助けてくれたから勝てたんだ、そのお礼!』とちょっとだけ強引に買ってくれたのだ。
オレは今度こそ泣いてしまって、まわりのみんなに冷やかされた。
その次の仕事も、その次の仕事もユキテルは勝ち続けて、半年せずに二ツ星昇格。
その週末、おれたちはあの喫茶店に行って、ケーキと紅茶でお祝いした。
当番から解放され、時間に余裕ができたことで、オレの体調もすっかりよくなり、少しずつ少しずつ、試合でも役に立てるようになっていった。
もともと、つねにオレをフォローして戦っていたユキテルは、確実にクライアントを守り勝つ『金犬騎士』として、指名が集まるようになった。
そうなればペースは加速。
明るくて元気なユキテルは、あっというまに人気剣闘士になった。
おれたちはすぐに三ツ星バディに。
実力と頭脳をかねそなえたユキテルは、やがて『ガーデン』を取り仕切るようになった。
けれど、そのころからだろうか。だんだんに、ユキテルがオレを『遠ざける』ようになっていったのは。
オレも『ガーデン』に入って傭兵やりたい、だめなら事務まわりの手伝いだけでもしたい。そういうオレの言い分を、ユキテルはがんとして認めなかった。
『ガーデン』の事務局に来ることすら禁じられた。所属の『傭兵』たちもオレと話してはいけないと命令されたようで、ガーデンとかかわりを持つことはいっさいできなくなった。
傭兵の長としてのユキテルは、カッコいいけど冷たくて、どこか怖い男になっていた。
それでもやつは、部屋に帰れば優しいバディ。
むしろオレを甘やかしすぎじゃないか、というほどによくしてくれた。
部屋のコーディネートや、担当のメイド。すべておれの希望を入れてくれた。
あの喫茶店の紅茶をとりよせて、好きな時に飲めるようにしてくれた。
ケーキの出前も、いつでも好きなだけしていいからと言ってくれた。
もちろん、服や装備も特注をあつらえてくれて。
せっけんやタオルとかのアメニティ。ブラッシング用のブラシまで特上のにして……
けれど、そんな日々は唐突に終わった。
ある日の放課後。
用事を終えて寮に戻ると、人だかりがしていた。
『……が放校だってよ』
『やっぱりなー……怪しいと思ってたんだよ』
『バディをすっかり『お座敷犬』にしてな~。ケイジも気の毒な奴だぜ』
え? と思ったとき、人垣が割れた。
そこにいたのは三人の黒服と、彼らに取り囲まれ、連れられていくユキテルだった。
『ちょ……え? え?? 何が……どうしたのゆっきー!! いったいなにが』
黒服たちはオレをスルーし、あっという間に通り過ぎていく。
追いすがるように言葉をぶつければユキテルは振り返った。
そして、泣きそうな笑顔で。
『ごめんな、ケイ。
おれ、間違えちまった。……
ただお前のこと、幸せにしようとしてただけのはずなのにな』
気づけば、周り中がまじまじとおれたちを見ていた。
まるで犯罪者を見るような視線の中、ユキテルは懇願するように叫んだ。
『違うっ!
みんなっ、ケイはマジで何も知らない!!
俺に『お座敷犬』にされただけの気の毒な男なんだ!!
だからケイのことは……』
『ちがう』
おれはユキテルの言葉を遮った。
黒服たちの前に飛び出した。
『ちがう、ちがう!!
オレが全部の黒幕だっ!!
オレが、オレが、オレがっ……!!』
昨日はブックマーク頂き、ありがとうございます!




