18-4 会見・『マーセナリーガーデン』
すみません遅れましたー!
2020.04.13 13:06
月給をサラッと間違ってましたので修正しました……!
12万からいっきにマイナス11万。→5万からいっきにマイナス4万。
『やらなきゃならないんだよ。
あいつを身請けしてやらなきゃならないんだ……!』
オブザーバーウィンドウのむこう、ケイジ君はドン、とテーブルを叩いた。
トラオの部屋から引き揚げて小一時間後、おれたちはヴァルハラフィールドにログインしていた。
そうして、オブザーバーウィンドウ越しに、隣室の様子を見つめていた。
アスカの予言通り、まもなくケイジ君はメールしてきた。
可及的速やかに会見を致したい、と。
アスカの決断は早かった。すなわち、セナが動けることを確認するや、『今すぐ会おう』と音声通話をかけたのだ。
そして今。
『マーセナリーガーデン』からはケイジ君と、サブをつとめる女子・マルヤムさん。
我ら『ウサうさネコかみ』からは、アスカとセナが卓につき、短く挨拶を交わしたところだ。
『ガーデン』側とセナは、かっちりと制服を着こんで固い表情。
対してアスカは明るくオープンな、それでいてどこか優しい笑顔。いつものド派手な魔改造ルックもひっこめ、ずいぶんと控えめな格好だ。
地毛だという明るい金髪はそのままに、カラーリングは前髪ひとふさのパートカラーのみ。それも深めの青色でずっと落ち着いた雰囲気を醸し出し、赤ぶち眼鏡と制服の魔改造も目立たないもの。
ただ、瞳のオッドアイはこだわりなのだろう、いつものようにブルーとピンクをいれていた。
まずはケイジ君が、先手を取るように口を開いた。
『もう状況は聞いていると思う。
単刀直入に言う。アキト、セナ、トラオに『傭兵』業をやめさせてほしい。
連盟の後ろ盾というセーフティーネットをたよりに、安値で依頼を受けられたら、独力でやってる俺たちはどうにもならない。
前にも言ったが『マーセナリーガーデン』は、もともと困っている人間のための互助ネットワークなんだ、その活動は尊重してほしい』
するとアスカはふんわり微笑みかける。
『困っている人間を助けたい。その目的は、おれたちも同じだよ。
だからおれたちは、三人を受け入れた。なぜってそうしないとかれらは、もっともっと困ることになっていたからね。
それは、理解してもらえてる、って認識でいいのかな?』
『それは……ああ。』
ケイジ君は、いぶかし気ながらもうなずいた。
うまい、と思った。
『自分たちはけして敵同士ではない、目的は根本的に同じだ』『そしてケイジ君が問題としていることのおおもとは、その目的にけして反していない』ということを、アスカは認めさせたのだ。
『最終的にイエスを言わせたいなら、最初の質問をイエスで返させる』というのは重要だ。
『これからの話し合いは同じ目的のもと、共通の問題をともに解決するもの』と認識してもらうことも。
『にじいろ』のときのような、互いに否定一辺倒の展開は遠ざけられる。そんな安心感を与えることで、実際にその展開を防ぐということは、今回必要不可欠だ。
ケイジ君に『彼のほんとうの理由』を語らせる。それがおれたちの最初にして、おそらく最大のミッションなのだ。
白うさぎの策士は、温和な笑みで言葉を継ぐ。
『それはよかった。
でもその結果、君たちを困らせてしまっているなら、それは動かなくちゃいけないね。
依頼人と対戦相手の星数を足して、かける3000TP。経費は別途、依頼人と直接交渉。
それが、先々月までの『マーセナリーガーデン』のルールだったね?』
『今は5000だ。
規格外バディ『ゼロけも』の入学。『シリウス』や『爆殺卿』をはじめとした、零星たちの『ルネッサンス』。くわえて貴連盟と『にじいろ』がはじめたバトルアドバイス。
それらによって、闘技全体がハードになっている。それが理由だ』
ケイジ君は特に表情を変えぬまま、ジャブを打ってきた――暗に『すべてお前たちのせいだけどね』と。
しかし、アスカも笑みをくずさない。そのままさらりと『エビデンスで殴り』返した。
『なるほど。
じゃあその値上げ、一人一回当たりの平均8000TPで、依頼をあきらめた『顧客』が何人いるか、把握している?』
『こちらで把握している限りで三人だ。もちろん、残念なことだが』
さすがは傭兵団のトップ、間髪入れずに応じる。
だが、アスカはゆうゆうとマウントを取った。
『こちらの調査では五人いる。
うちひとりは無星転落ギリギリだったから、ちょうど動ける単騎のハンターにヘルプに入ってもらった。ま、セナなんだけどね。
降格を機に伸び悩むようになる生徒が多いのも、当然把握しているよね。
もしこのときの彼が無星に落ちていれば月給は1万TP。5万からいっきにマイナス4万。当然、『ガーデン』の顧客リストからは外れる。下手すれば以降、永久にね。
つまりおれたちはこのヘルプにより、『ガーデン』の未来の利益を守ったわけだ。
これは、やめるべきことだったかな?』
『その件については、礼を言わせていただく。
だが、それはあくまで1件だけのレアケース。俺が問題にしているのは、アキト、セナ、トラオが『ダンピング』を開始したことで減少した、把握しているだけでも一か月7件の減少。さらにこれでメンバーのひとりは降格になった。さいわい無星じゃないがな。
これは繰り返されざるべき事態、違うか』
もっともケイジ君は即座に同じ論法で返してきた。さらには『ダンピング』という言葉で反感を表明、同時にセナの動揺を誘ったようだが、セナは温度のない視線を返すのみ。
事前にアスカが『挑発はスルーでね』と言い含めていたのが功を奏したようだ。
アスカも動じる様子なく話を前に進める。
『確かにね。
だから事態打開のため『にじいろ』に援助と、それと引き換えとしての所属を打診したが、不調に終わった。『トラオなみの誠意』という高額オプションを要求されてね。
そこで考えたわけだ。ならば『うさねこ』側に働きかけ、その値段をディスカウントさせてしまおうと。
『うさねこ』は三人を『選んだ』んだ、援助も所属も期待できない、と判断してね。
……でもさ、それはちょっと早計じゃない?
おれたちは援助ができないわけじゃないよ』
と、突然アスカはにっこり笑った。
『は……?』
『『ガーデン』としてうちに入りたい、というなら当然、運営にも口出しはさせてもらう。
けれど君としてはそれを受け入れられないから、なんとか『誠意』をみせて『にじいろ』にいきたい。
それがメンバーを救う、ギリギリの選択だというなら――』
言葉を切る。ケイジ君を見る。
ケイジ君の目はもうアスカにくぎ付けだ。
それをみるマルヤムさんとセナの目も。
けど、アスカは小さく小首をかしげる。
『ただね、ひとつだけ疑問が残るんだ。
純粋に所属していたひとたちを『守る』なら、いったん解散という選択肢もあるはずじゃないかな。
たとえばの話。君がマルヤムさんたちと決裂し、手ひどく追い出したともなれば、マルヤムさんたちは同じ『被害者』として『にじいろ』に温かく迎えられるだろう。
その後きみは、みんなを守るため仕方なく一芝居をうった、それでも苦しいと打ち明ければ、『うさねこ』が君を拾って一件落着。
とかいっそ、おれらが出す条件をのんでうちに丸抱えされる、というのも実際なしじゃないはずだ。
なぜって、うちには『聖者ミズキ』がいる。きみたちをドレイにするような、非人道的な条件を彼が許すことは絶対にない。
にもかかわらず、それらが『どうしても』できない理由ってなんなのかな。
なんだかんだ言ったが、たしかにこの値上げで『ガーデン』の利益は上がっている。こちらの三人が助っ人を続けていてもね。
もっとハッキリ言おうか。
『ガーデン』全体の利益を、つまりはガーデン統括者である君の手取りを、いま絶対に減らせない理由、それは何なんだい。
負債かな? それならそれで、相応の対処はできるよ。
困っている人間を救うのは、おれたちのミッションだからね。
でも、『本当は何に困っているのか』。それを把握できなきゃ手も打てない。
……ここでお前にゃ言いたくねえよ、とかだったら、ミズキとの会談をセッティングするけど、どうかなケイジ?』
ケイジが沈黙。
マルヤムさんが機転を利かせたか、『リーダー、時間が押しているようです』と小さく、しかしアスカたちにも聞こえるようにささやく。
『………………いや』
ケイジが、意を決した様子で目を伏せる。
『マルにももっと早くに、聞いてもらうべきだったかもしれない。
ああ、オレには目的がある。
やらなきゃならないんだよ。
あいつを、身請けしてやらなきゃならないんだ……!』
そして両手をこぶしに固め、テーブルをドン、とたたいた。




