18-3 モフモフは、成功報酬で!
「もちろんおれたちは、セナやアキト、トラオを絶対優先するよ」
間髪入れずアスカが言った。
「出てけなんて言わないし、不利益になるようなことを要求もしない。他の誰かにも言わせないからね。そこは信じて」
セナははじかれたように顔を上げる。
ぽかんと口を開け、おれたちの顔を順々に見てくるけど、もちろんおれたちはうなずく。
「『ガーデン』と関わることは織り込み済みだ。
それに、三人は仲間だからね。大船に乗ったつもりでいてよ」
セナの視線が一周するのを待って、アスカが再び力強く言えば。
「ありがと、……」セナがうつむきがちに目を潤ませて。
「俺からもありがとう。俺、やっぱここ来てよかったぜ!」アキトがにっこり笑って。
「俺もだ。
ほんと、俺みたいなやつを拾ってくれて、仲間にしてくれてよ……」トラオが感に堪えない様子でぎゅっと目をつぶる。
現在の『マーセナリーガーデン』では、依頼者の星数などにより、一律の依頼料が決められている。
だがそれに、『経費』は含まれていない。
そして『経費』は依頼者から『傭兵』に直接支払われ、『ガーデン』は一切の干渉をしない。
つまり、これをうまく吹っ掛けられる奴ほど儲かる、というわけだ。
トラオはこれを、『うまく』やりすぎた。
セナとアキトは、これになじめなかった。
正反対のひとりとふたりは、それぞれのいきさつで今、同じテーブルを囲んでる。
アスカはトラオを抱えて『よしよし』。セナとアキトをまとめてぎゅっ。
そうして、おれたちの方を向く。
「でさでさ、るーるーたんずはなんて?」
「斬新だろ!!」
おれたち全員思わずツッコミ。ルカにルナでるーるーたんず。さすがはアスカ、斬新だ。
ともあれまずは、返事を返す。
「えーと、『にじいろ』でもひきつづき調整はこころみるけど、おれたちも頼られたら相談に乗ってやってほしいって」
「なるほどりょかーい。
ぶっちゃけ三人さ、どうよ? もし『ガーデン』の子らがうち来たいっていってきたらさ?」
アスカはそのノリのまま、軽い調子で質問を振る。三人が重くなりそうだと思っているからだろう。
はたして、部屋のムードは一気に沈下。
そうしてどれくらい経った頃か、トラオが口を開いた。
「俺は結局、どっちにも迷惑かけた側だからな。強くは言えねえよ。
まあ、俺みたく恨まれるような真似は、続けねえほうがいいとは思うけど……。」
「だからこそ事情があるかも、だろ。
ま、そんなホイホイ言えたら『事情』じゃねーよなっ」
「アキト……。」
このうえなく、真面目な調子のトラオをフォローしたのはアキト。
明るい笑顔で、場をほぐそうとしてくれる。
だが、セナはいつになく強く主張する。
「俺は。やめてほしい……!
反対する者を叩きだし、自分たちで市場を独占しておいて、高い報酬ふっかける。
『ガーデン』がやったのは、そういう事だ。
そのやり方を続けるというなら、俺はやつらと一緒にはやれない。
俺やアキトはそれを容認できずに追い出され、一ツ星に落ちた。
おかしいんだよ、あんなの。
俺は、認められない……!!」
セナは高ぶった視線をアキトにぶつける。お前もそうだろ、というように。
アキトは、しっかり視線を合わせかえしてうなずく。
「もちろんおれも同じ意見だぜ。
あのやりかた、そのままってのは論外。
ただそれでも、全部自分の持ち出しでトラオと同じ事しろ、ってのもさすがにあり得ないと思う。
『にじいろ』にいったやつらもさ、ちょっと無理ふっかけてみただけじゃないのかな。アタマにも来てたと思うし。
だからタイミングみて、仲介に入るのがいいんじゃないかと思う。
あのやり方を改めるなら、『トラオと同じ誠意』を見せれるように、うさねこが援助する、てさ。
もちろん俺たちだと色眼鏡で見られそうだから、だれかに頼むことになっちゃうけどさ。
それじゃ納得いかないかな、セナ?」
セナはしばし目を伏せていたけれど、ゆっくりと話し出す。
「……あいつが、ちゃんと『理由』を話すなら。
そのうえで誠実に助けを求めるなら、そうするべきだと思う。
それも言わず、ただ要求ばかりしてくるようなら――
言いたくなるまでほっとくしかないな」
おれはすこしだけ驚いた。
セナは無口なほうで、少しシニカルなやつだけれど、決して冷たい男じゃない。
こんな言い方をするなんて、それこそなにか『理由』があるのだろう。
となりのイツカを見ると、ほんの小さく、黒の猫耳が伏せられた。
話されるまでやめとこうという事だ。
おれもOKをこめて、目だけでうなずいた。
と、アスカがおれたち二人に振ってくる。
「うしうし。イツにゃんカナぴょんは?」
「俺はそれでいいぜ」
「おれも異議はないよ。
理由があるなら、知りたいからね」
トラオが『足を洗う』さい、おれたちはケイジ君と協議をしている。
そのときは、そこまで突っ込んだ話にはならなかったから。
アスカがふむふむとうなずいた。
「ふむむー。
ほんじゃタイミングと交渉要員についてはさ、おれの判断に任せてもらっていいかな?
あんだけにらんでるんだ、あっちから接触してくるのは秒読み状態だ。
トラっちの件でちょっと恩も売ってるしね。悪いようにはならないと思うよ?」
アスカはおそらく、すべて把握しているのだろう。
相変わらずの笑顔で小さく胸を張る。
もちろんトラオはうなずいた。
「俺はアスカに頼みたいと思う。
アスカなら、うまくやってくれると思うから」
セナはテーブルの下、ぐっとこぶしを固めアスカを見つめる。
「ケイジ……『ガーデン』リーダーとの協議には、俺も立ち合いたい。
あいつがきちんと話すか見極めたいんだ。
立ち合い、だけでもいいから」
アキトは「まとめて賛成一票」と小さな笑顔。
「おっしゃ。
『ガーデン』の内情を見てきた子にはぜひ立ち会ってほしいところだからね、ケイジとの協議のときはセナっち頼むよ。
まあ最悪は隣の部屋で聞いてもらうとかなるかもだけど、ともあれリアタイでハナシを聞けることは保証するよ。いいかな?」
「ありがとう。よろしく頼む」
セナはアスカに頭を下げる。
「もー頭上げてよセナっち。よしよししちゃうぞ?」
「ばっ?!」
「こらアスカ」
さすがにハヤトがたしなめる。けれどセナは顔が赤い。
「ア、アスカがそうしたいなら……。
アスカはもう、だいじょぶだから。ヒレとかも、触っても……
ご、誤解すんなよっ? 俺はあくまで仲間として……」
「んっじゃーセナっちモフモフは成功報酬ねー。
あ、ハーちゃんはこのあとブラッシングで」
「はっ?!」
返す刀で相棒のモフモフまで宣言して、アスカはぽふんと手を打った。
「てわけでおれからは以上だよん。
ほかなんかある、みんな?」
「なあアスカ?
そのブラッシング、俺の部屋でやるんじゃねーだろうな……?」
トラオが半眼でじとり。
「ふふー。
いや冗談、冗談だってー。さっハーちゃんお部屋に行こうねー」
「え、おい?! ちょ、マジにやるのかよ?! こらアスカ!」
寡黙な狼少年はにぎやかなうさぎの相棒に連行されていった。
「……あー。俺たちもかえるか」
「だね……。」
なんとブックマークいただきましたー! ありがとうごさいますっ!
よーしるきあさんがんばるぞー。
ストックは相変わらずゼロですが……(滝汗)
次回! 次回こそは協議開始です! お楽しみに!!




