18-1 全員集合☆けものパーティー!
2020.03.21
以前指摘いただいておりました、話者わかんなくなりがち問題!
やっと修正できました……!
わかりやすくなったはず。と思います。
期待のこもった静寂の真ん中で、アスカはこほん、と咳ばらい。
高々と、メロン牛乳の三角パックを青空に掲げる。
「それではー!
『旅の聖者とふしぎなふたり』の公演大成功!
投げ銭の記録更新!
何人かのメンバーたちの昇格っ!
みつるんの初・楽曲提供!
新規加入申し込みきました!
そして、……いやこれおれ本人が言っちゃっていいの?」
「いーっていーって!」
照れてフードをひっぱってるミツルのとなりで、アオバが陽気に言う。
「それじゃーありがたく。
おれとハーちゃんのダブル覚醒を祝しまして――!!」
「かんぱ――い!!」
ティーカップのレモンティーやペットボトルのジンジャーエール、ブリックパックのヨーグルトドリンクなど、めいめい好きな飲み物でおれたちは乾杯。
持ち寄ったいちごサンドやスパイスクッキー、焼きおむすびや草大福、チョコレートサンデーや手作りピザといったスナックをつまみながらの会食が始まった。
今日は楽しい日曜日。そして、『ウサうさネコかみ』全体会合の日である。
あれから、おれたちは見事にダウンした。
『ふしふた』のバトル部分、あれは本当にガチなのだ。
かつて『鬼神堕ち』のさいに、モンスターラッシュを経験しているノゾミ先生までがこういった。
『なんなんだこの地獄は……俺がくらったやつでもここまでひどくないぞ……』と。
一番きつい役をこなしたアスカとハヤトは自力で歩けず、そのまま医務室に運ばれた。
しかし、そこまでやったかいはあった。
ライカの計算通り、極限まで追い詰められたふたりは見事覚醒したのだ。
そしてアスカは四ツ星昇格。ふたりのユニット『白兎銀狼』は、名実ともに四ツ星ユニットとなったのだ。
本番のバトルで覚醒を成功させるという快挙、そして公演そのものの興奮度に、連盟あて、そして個人あてにも多額の投げ銭が集まった。
その結果『クランレパード』アオバとミツル、『クラッシュクラフターズ』チアキとレン、そしてクレハたち四クラフターは全員零星脱出。
アキトとセナは二ツ星に昇格。
トラオと彼の関係者たちによる通称『トラオハーレム』のみんな、『イーブンズ』ニノとイズミも昇格が大きく近づいた。
そして脚本・演出兼出演者のシオンは三ツ星昇格をなしとげ、相棒に追いついたのだった。
なお、ミズキにも昇格可能なTPが貯まったが、例によって半分は連盟に。もう半分は、連盟外の零星に渡し、自分は一ツ星にとどまった。
投げ銭はもちろんミライにも来ていた。しかしミライも、『まずはソナタちゃんに!』と、ほとんどを連盟に渡してくれた。
おかげで、ソナタの手術費用は八割が貯まった。
どうやらおれたちは、かわいい妹に苦労を掛けずに済みそうである。
そしておれたち自身にも、ミソラ先生から嬉しい知らせが届けられた。
けも装備覚醒、そして大型公演の成功により、おれとイツカの四ツ星昇格が現実味を帯びてきたという事。
あと一、二度試合をし、そこで覚醒技を披露できれば、おそらくはということだった。
アスカは明るい笑顔でとんでもないことを言う。
「どーせならさー、ラストバトルんとき使ってくればよかったじゃん覚醒!」
もちろんおれは『それはない』と断る。
「さすがにそれは……
あの数の差でそれって、あんまりといえばあんまりじゃん。
そうだよね、ハヤト」
そうして同意を求めれば、ハヤトは微妙な顔で微妙な返事。
「いや、使ってもよかったかもしれない……」
「えっ」
戸惑っていると、ハヤトはアスカに食って掛かるように疑問をぶつけ始めた。
「アスカ。お前の覚醒完全に異常だぞ。なんなんだあれは!」
「えっとね、おれ自身が対象の拡張モジュールとなることで、スキルとステータスをぜんぶ足し合わせ、知覚と戦術判断にもブーストやアシストを与えるってやつ。
ぶっちゃけ高位神聖魔法『聖霊降臨』のおれ版だよ。
いやー、『エンジェルティア』のオーラスでおれ、いっそおれのチカラハーちゃんに全部上げれたらーって思ってたんだよね。
それが蘇ったらさこう、できちゃったわけ。
あ、だからさ、たぶんハーちゃんにしか使えないよ?」
「まじか……」
返ってきた返答に、ハヤトはなんともいえない顔になる。
ただ一人の他者しかサポートできない強化技――とんでもなく潰しのきかない技が、貴重なスペシャル技スロットのひとつを占めることになったことは、ハヤトにとって懸念要素であったらしい。
しかし、アスカ本人は明るい笑顔。
「まーいーじゃん、おれハーちゃん以外と組む気ないしっ!」
「まあ、それは俺もそのつもりだが……」
「それにあの状態だったら、おれのひ弱さが足をひっぱることにもならないからね。
文字通り全力で、ハーちゃんのためになれる。
おれとしては、念願の、だよ」
「アスカ……」
そうしてアスカとハヤトは、優しいまなざしで見つめあう。
この二人は、劇中の状況にも近い戦いを、かつて経験しているのだ。
『竜の呪いとエンジェルティア』。『天使堕ち』『鬼神堕ち』誘発のために仕掛けられるトラップクエスト。
そのオーラスに来る、怒涛のモンスターラッシュ。
それをこの二人はクリアし、特待生としての高天原入学を勝ち取ったのだ。
もっとその後もまだ苦労は続いたのだが、だからこそ、二人の絆は強い。
『ひゅーひゅー! おあついねー! もーライカさんあてられちゃうなー!』
「チナツさんもうらやましーなー!」
「ひゅーひゅー!」
もちろん、ライカは先頭に立ってまぜっかえす。
それでも、今日はめでたい日。
その『不届きものたち』を、逆さづりにする者はいなかった。
そうしてひとしきり騒いだ後、話題はハヤトの覚醒技に移った。
イツカがいつもどおりアバウト感満載でハヤトに言う。
「でさ、ハヤトの覚醒ってあれなんなんだ?
とりあえず、来るもの拒まず全部食うってかんじ?」
「ああ、間違ってない。
もちろん限界はあるようだけどな」
まわりのおれたちは驚きあきれた。
まずはあいかわらずチート級なイツカの直観に。そして、完全にチートなハヤトの覚醒技に。
ともあれ、それならあの無敵ぶりも納得だ。
公演ラストのハヤトには、一切の攻撃が通らなかった。
それどころか、ただ歩くことですらHPが回復していた。
もちろん上限値などぶっちぎって。
ある意味『自分が食われる』という、アスカの技との好相性ゆえでもあろうけど、あんなすさまじい光景を見たのは、後にも先にも初めてだった。
アキトとセナが感嘆の声を上げる。
「うわー、すっげーなそれ……」
「ダイナミックって言ったらいいのか、雑って言ったらいいのか……。」
イツカのやつはのたまわる。
「両方じゃね?」
「お前は雑!」
思わずおれはつっこんだ。
ハルオミとフユキはシャスタ戦の参加者同士、いっしょに盛り上がっている。
「でもほんとすごいよあれ。効果継続中はもうほぼ何にもできないし!」
「たとえばシャスタ戦で出ていたら、完全に戦術が変わっていたな」
一方で一部女子たちは、別ベクトルの盛り上がり方をしていた。
「くるものこばまず……」
「イミシン……」
「どうしたのさくらちゃんゆきちゃん、なんだか顔が赤いよ?」
きょとんとしているコトハさんから、おれたちの多くはそっと目をそらした。
せめて彼女には、きれいなままでいてほしい。
そんな想いはナナさん、サリイさんも同じだったようで……
「よしよし、コトハはわかんなくっていいからね~」
「そ、そうよ、なんにも深い意味はないのよ、ね?」
「そう、そのとおりよ、まったくそのとおりだわっ!!」
リンカさんに至っては謎の三段活用まで展開している。
しかしそんなピュアな思いたちをよそにレンは、ばたんと芝生にひっくり返り、問題発言を繰り出しはじめた。
「あーくっそー、俺のギガフレアボムの天敵がまた増えたあー!」
対してチアキがニコニコのんびり、クレハは慌てる。
「効果終わるの待てばよくない?」
「いや待てよ、ギガはやばいからなギガは!
だから公演でもなんだかんだ封印されてたんだしっ!」
いや、ここまではよかったのだ。
「でもよー……やっぱぶっ放したかったなー……」
『爆殺卿』が目をやったのは、トラオ。
あわれなトラオは明らかに後ずさった。
「お、おいてめえレン、何でこっち見てんだよ?!」
「なあ、いいだろ? 知ってんだぜ、お前のインベントリには……」
「い・や・だっ! 炎吸収ついててもアレは痛えんだ!!
ったく、ハヤトに相手してもらえハヤトに!!」
「抵抗されなきゃつまんねーんだよ~!! な~ト~ラ~」
なんかへんなスイッチ入ったレンに、のんびりびしっと教育的指導が入る。チアキだ。
「こらー、レンストップ!
もうおこるよ? インベントリにお水入れるよっ?」
「ひいっ、それはやめてっ!!」
しかしその内容が問題だった。
これには当のレンのみならず、クラフター全員が恐怖のどん底に陥った。
なぜって、万一これが実現したらボムは全滅。クラフターは破産となるからだ。
こういうときわりと冷静なニノまでが、狐のみみしっぽをぺしょんとさせ、うさイズミをだっこして震撼。
おれも恐怖のあまりイツカをモフってしまう。
すると、ミライがチアキを止めてくれた。
おなじクラフターでありながら、シオンも勇気を奮ってとりなしてくれる。
「や、やめたげてチアキー! お水はだめだからー!」
「あのねっ、もしもボムがなくなったらねっ、きっとレンしんじゃうからっ!
だからやめよう。レンも反省したよね? ね?」
「う……レンがしんじゃうのはいや……ごめんねレン……」
「あはは、ボムなくなったら死ぬってそれどんな珍獣だよ?」
愛すべき二人の勇者のおかげで、チアキはちょっとやりすぎたかな的に鉾を収めてくれた。
さらにソーヤが冗談めかせば、その場はぱっと明るくなる。
しかしレンは、『救われた村娘』ポーズで目を潤ませてこう言った。
「はっはい、反省しましたっ!
ありがとうふたりとも! ボムがなくなったら死ぬとこだった!!」
「珍獣だった!!」
そのとき、後ろからちくりと視線が刺さるのを感じた。
ミズキがそっと声をかけてくる。
「……カナタ」
「……うん、おれも感じた」
うなずきあい、こっそりと振り返る。
と、立木の影にちらり。
茶色の尻尾が消えてゆくのが見えたのだった。
次回伏線が、なんて言っちゃうからもう……!
えー、次回よりあからさまな伏線の回収、今まで目立たなかった第三勢力が来るかもしれません(ぼやかしてみる)。お楽しみに!




