17-9 『ふしふた』ラスバト・ノーカット版!(あの感動のバトルを二週分つなげてみました)(6)
今度の連携は的確だった。
倒れ伏したフユキ、いまだイズミに組み付かれたままのニノ以外のほぼ全員が、組織的に役割を果たした。
燕翼の姫サリイは火球を、そしてようやく立ち上がったカラスのレンは小型爆弾を、飛び回りつつも投げてくる。
前衛は、必殺技を含めた波状攻撃を。後衛はアイテムや魔法による補助を。
呪いの波動を利用したのだろう、プリーストたちも再び、回復と支援を行うようになっていた。
救いは、飛行爆撃隊と前衛たちが波状攻撃を続けているため、それ以上の攻撃は来ないこと。
そして、アスカがここまであまり戦っておらず、技や魔法を使うためのポイント、爆弾や回復薬などのアイテムを潤沢に有していたこと。
ハヤトはアスカに背中を預け、攻めてくる前衛を背後の後衛ごと押し返す。
アスカはハヤトの背中を守り、途切れることなく支援と回復を連発する。
それでも、消耗は激しかった。
アスカの懐のアイテムも、神剣ライカに蓄えられたエネルギーも、ハヤト自身の体力も、時間とともに失われてゆく。
そしてついに最後の爆弾が投げられた時、アスカが静かに言い出した。
「ハヤト、お願い」
「どうした!」
「今から言うことを最後まで聞いて。
この事態は、君のせいじゃない。
君は、何一つも悪くないんだ。
僕は全部はじめから知っていた。うさぎ族を食い物にする奴らの存在も。それを利用したトラオの悪巧みも。
なのにその時点で奴らを止めず、魔王復活の糧に育てた。
そして君にそれを告げぬまま、愚かな王に仕立て上げた。
王家に情を移さぬために。君を愛してしまわぬために。
すべては僕の責なんだ。君は一つも悪くない。
だから僕は償いをする。
巻き込んでごめんなさい。
どうかこれを。この力、知識、何もかも、君のために――」
「おい?!」
戦いのさなかにもかかわらずハヤトは振り返っていた。
そこにはもう、道化だった白うさぎはいなかった。
アスカのいた場所に浮いていたのは、白い、白いうさぎの形をした、やわらかく、あたたかな光のかたまり。
手を差し伸べればそれは、ほわりとハヤトに飛び込んだ。
しろく輝くひかりとなって、ハヤトのからだに沁み入った。
ハヤトは吼えた。力の限り吼えた。
『マリアージュ発生:プレイヤー・アスカとけも装備『うさみみ(白)』のエンゲージレベルが限界突破しました。
スペシャルスキル――』
『マリアージュ発生:プレイヤー・ハヤトとけも装備『ハイイロオオカミの耳』のエンゲージレベルが限界突破しました。
スペシャルスキル――』
覚醒を告げる天の声は、ハヤトの咆哮に喰らわれる。
その時、ハヤトは人を超えた。
振り返る。見上げる。真っ直ぐに。シオンだけを。
背中を叩く剣もこぶしも、もはやハヤトを傷つけない。
その衝撃は、全てが白い光に変わり、ハヤトの裡へと吸い込まれていく。
一歩また一歩、歩を進める振動さえ。
すべてがハヤトに力を与えていく。
ハヤトの姿を白く、まばゆく染め上げていく。
「そうだったな。
すべて背負う。それはお前も例外じゃない。
すべて喰らう。献身も愛情も、恨みも怒りも何もかも。
そうして、すべて救う。すべて守る!
シオン!
お前の救いはここにある。
ぶつけて来い。恨みも怒りも、狂気も呪いも、何もかもすべて、何もかも全部、俺が受け止め喰らってやる!!」
納刀し、走りだせば、その身すらも光に変わってゆく。
――ごめんなさい。巻き込んでごめんなさい。
小さく響くは、誰の声か。
ハヤトは正面からそれに答える。
「いいんだ、巻き込めよ!
俺は巻き込まれたいんだ。お前たちに巻き込まれるのが嬉しいんだよ!!
そもそも巻き込んだのは王家の、俺のほうだろうが!!
だから全部ぶつけてこい!!」
ハヤトは吼えた。
ハヤトは跳ねた。
両腕を伸ばし、引き寄せて。
しっかと魔神を抱き締めた。
ハヤトはそうしてすべてを喰らった。
背後から降り注ぐ攻撃も。
腕の中の魔神があげる咆哮も。
解き放たれる積年の恨み、怒り、呪い、そして悲しみも。
小さなうさぎの体を抱いて、すべて、すべてをその身に受けた。
ひとつ、またひとつ。ぶつけられては喰らう。喰らっては飲み干す。
数千の怒号は、いつしか救いを求める涙交じりの声となり。
救いを求める声は、ちいさなすすり泣きになり。
すすり泣きはそして、安堵の吐息へ変わっていった。
やがてシオンが目を開ける。
数百年分のうさぎの恨みを吐き出し尽くしたシオンは、元通りの小さく、愛らしい黒うさぎの少年に戻っていた。
ハヤトの腕の中、シオンの身体から、小さな光の玉が跳びだしていく。
いくつもいくつも、宙を跳ねる。
よくみればそれは、うさぎの形をしていた。
様々な色と姿をした、ちいさな光のうさぎたち。
光の粒をまき散らし、ぴょんぴょん自由にはねまわれば、あちらこちらで奇跡が起きる。
光のうさぎに触れられたものたちの傷がいえていくのだ。
さすがに、ここまでの戦いで得た疲労はそのままのようで、戦士たちはあいついで床に倒れ、すやすやと寝息を立て始める。
光のうさぎに癒されるのは、生き物だけではない。
瓦礫と化した壁も、ボロボロになった調度も、みるみるうちに復元してゆく。
裁きの間の窓からは、いつしか明るい光が差し込んでいた。
空は青く晴れわたり、遠く誰かの声が聞こえてきた。
「陛下、殿下――!」
「いま大きな音がしましたが!!」
「みなさんご無事ですかー?!」
「ああ。だれ一人として死んではいない。
……誰一人として、死んでは」
ハヤトはシオンを床に降ろし、ふっと小さく目を伏せた。
王子に姫にメイドたち。騎士に領主に見習いたち。
戦士も魔法使いもプリーストも、全員無事にそろっていた。
ただひとり、白いうさぎをのぞいては。
それでも、ハヤトは自分の胸に手を当てる。
「アスカ。
……そこにいるんだろう。
お前が差し出したチカラと知識。これからの王国のため、ありがたく使わせてもらう。
これまでのような、不正や差別をなくすため。
そうして真に平和な楽園を築く。
けれどアスカ。そこにはお前もいてほしい。
いつかかならず、お前ももとのうさぎに戻してやる。
アスカ。それが俺の、王としてのつとめ。友としての、約束だ」
そのとき、銀の狼耳がぴくりと動く。
聞こえてきたのは、透き通るような優しい歌声。
ハヤトははっと目を上げた。
驚いた顔でふりかえり――――
【終劇】
やっとこさフィナーレです!
長時間のご観覧、ありがとうございました!
(今度は舞台演劇風にしてみるスタイル)
次回は天丼の宴会回。ふたたび伏線が現れます。お楽しみに!




