17-7 『ふしふた』ラスバト・ノーカット版!(あの感動のバトルを二週分つなげてみました)(4)
今回はバトルばっかりです。
「イツカしっかり! イツカ!!」
「起きろニノ! 死なせないぞ!」
水色うさぎのカナタが、黒猫騎士に駆け寄る。
黒うさぎのイズミが、赤装束のきつねをゆさゆさ揺さぶる。
「大丈夫かアスカ。そしてライカも」
「……ああ」
『おれは平気だよ、剣だからね』
銀狼のハヤトが、白うさぎのアスカと神剣ライカを抱え気遣う。
そして。
「シオン!」
「シオンさん!!」
灰色うさぎのソーヤが、クリームうさぎのミズキが叫ぶ。
中空に浮いたシオンに向けて。
無邪気な黒うさぎの少年は、愛らしい面影をそのままに、呪いの魔王と化していた。
『滅び去れ……滅んでしまえ……
立ち上がれ、滅ぼしあえ。うさぎ以外は皆滅べ!!』
変わり果てた声が吠えれば、倒れていたものたちがひとり、またひとりと起き上がる。
はじめに立ったのは黒猫騎士とその『主』。
黒猫騎士はなぜかくるりと転進。背後の『主』に襲いかかった。
一瞬にして距離を詰め、上、中、下段と流れるようなラッシュを見舞う。
『主』の方も負けてはいない。
先の戦いで、みずからもすでに『クイックアクト』の護符を使っていた彼は、加速の燐光をまとっていた。
鋭いステップで時に後退。時に左右に回り込みつつ、かわし、いなし、ゼロ距離からの射撃を見舞う。
もともと心得もあったのだろう、黒騎士に引けを取らず渡り合う。
二人の攻防の勢いは、さきにもましてすさまじい。
聖騎士ミズキは剣での加勢を断念し、イツカの支援を開始した。
「『回復』!『回復』!『神聖強化』!
どうして、効果が出ない……!」
だが、ここで異常が明らかになる。
イツカにむけた神聖魔法は、飲まれるように消えてしまうのだ。
「たぶん、魔王の呪いだ。
ここはおれにまかせて。ミズキは、シオンをお願い!」
「わかりました兄上。必要ならばお呼びください!!」
ミズキはうさぎの跳躍力を発揮。ひととびでシオンとソーヤのもとへ。
カナタは黒騎士たちの戦いへと意識を戻す。
斜め後ろから見る限りですでに、黒の鎧のあちこちにひび。右の腰当は失われている。
戦いは『主』が押していた。
銃撃を右胸、右腿、左わき腹と散らし、黒騎士の防御を振り回す。
あえて残弾を残しつつ『瞬即装填』。流れるように左肩へ全弾連射。
着弾、着弾、クリーンヒット。おそらくは『鎧砕き』の弾丸だったのだろう、黒の肩当てがバラバラに吹き飛ぶ。
銃弾を撃ち切った『主』は、再びの『瞬即装填』。
迫る黒騎士に向けもう一度、同じ場所を狙い撃ち。黒騎士は叫び、肩を抑えて後退する。
勢いづく『主』とはうらはらに、黒騎士の動きは重くなっていた。
どうやら慣れない重鎧での戦闘に、力をそがれている様子だった。
「イツカ、落ち着いて! その戦いかたじゃ……イツカ!!」
回復のポーションを投げ、ときに『主』をけん制し。
聖者カナタは黒騎士イツカを支援し続ける。
しかし、その呼びかけに答えはこない。
何を思ったかカナタは、擲弾銃を再装填。黒い鎧の背中に向けた。
黒騎士たちの次に立ったのは、きつねのニノ。
イズミの膝から起き上がると、銃と剣を手に歩き始める。
とまどうイズミには目もくれず、手近のイツカに狙いをつける。
間一髪、カナタは擲弾銃をニノに向け、一発二発と発砲する。
ぱんぱんと、比較的軽い音。
一発で着衣が破れ、薄手の鎧があらわになる。
二発目で、その鎧にクラックが入る。
「やめろ! ニノを殺す気か!」
「あぶない!」
それを見たイズミは怒声とともに割って入る。
ニノは目の前に現れた新たな標的に狙いを変え――
ることはない。
ただ静かに、イズミをわきに押しやろうとする。
「これは……。
イズミ、おちついて! いまのはただの牽制だから!
これは防具破壊に特化した魔宝珠。体にダメージはこないから!!」
「は? ……どういうことだ?」
ニノに組み付き、もみ合いながらイズミは問う。
「あのじゃまな鎧をぶっこわして、イツカを中から出すんだ。
あんなの着てたら、イツカはちゃんと戦えないから!
まず勝たせ、生き残らせて、正気に戻す!
イズミはなんとかニノを抑えて! おれたちがきっと助けるからっ!!」
「了解したっ!!」
次に立ったのは、王子トラオ。
自分に覆いかぶさった姫たちの下から、愕然とした顔で。
「サリイ、しっかりしろ!! リンカも!! くっそ……
ハヤトォ!! そのイカレうさぎをよこしやがれ!!
こうなったのもそいつのせいだ!
サリイとリンカとメイドたち!! 全員復活させるなら、命だけは助けてやる!!」
「ふざけるなッ!!」
狼王は怒りの咆哮を上げる。
「彼女らは助ける。だがそれは、貴様をとらえてからだ!!
アスカ、大丈夫だ。お前を渡したりは絶対に、しないからな。
ここは任せろ。お前はシオンに呼び掛け、正気に戻してやってくれ」
「……ああ」
道化はうつむき、表情はうかがえない。返された声も低く暗い。
不安からと思ったのだろう。狼王は優しくその頭に手を置いて、怒れる王子に向き直る。
手の中の剣に呼び掛け、ぐっと下腹に力を籠める。
「ライカ、いくぞ!」
『合点承知ィ!』
次に立ったのは、王弟ミライ。
彼もまた、自分をかばったおつきたちの下から這い出して、悲鳴に近い声を上げる。
「クレハ! ハルオミ! チナツ!
しっかり、しっかりして! ぼくなんかのために……!
女神さま、お願いですっ。ぼくのともだちを、助けてください!
『複数完全復活』……!!」
王子は指を組み合わせ、必死の声で祈りをささげる。
すると天から降り注ぐ、優しく力強い輝き三つ。
倒れ伏した三人を包めば、彼らはうめきながらも体を起こす。
「う……ミライ、だいじょうぶか?」
「けがしなかった?」
「無茶してねーか?」
「もう、それはおれのセリフ!
もうだめかと思ったんだからね! もうっ……!!」
涙ながらに三人を抱きしめるミライ。
だが、クレハはぽんぽんとその頭を叩くと、冷静に言い出した。
「俺たちはおかげでだいじょぶだけど、他のやつらは結構やばいぞ」
「う、うわあ?! なにこれゾンビ映画――?!」
「こっこれ逃げた方がよくね?! っで応援呼んできた方が!!」
ハルオミとチナツが悲鳴を上げる。
そう、彼らの目の前には、幾人もの人が倒れている。
カピバラのメイドと眼鏡のメイド。二人の姫たち。白いクロークのプリースト見習い。
いつのまにか起き上がった者たちも、多くは正気の様子ではない。
牧羊犬の戦士は、ふらふらと剣を振るばかり。
水色の装備は無残に濁り、無邪気な笑顔も消えている。
ヤマネコの騎士見習いも、うつろな目をしてハルバードを振りかえす。
だが、その動きも弱弱しく不確かだ。
そんなかれらの後ろには、ぺたりと床に座り込み、ぶつぶつ呟くカラス少年。
手元の小石をつかみ上げ、投げてはいるがほとんど飛ばず。
月色の騎士の背に広げられた水の翼。その色もまた、おどろおどろしいものとなっていた。
それでも彼は宙を舞う。
突進、みねうち、かかと落とし。時には水の翼の一撃で、二人のメイドと渡り合う。
ポニーテールのコノハズク少女と、ツインテールのチワワ少女の二人組。
コノハズク少女はその背中に、こげ茶の羽根を広げていた。
隠しボタンで大きくたくし上げられたロングスカートからは、すらりとした脚、猛禽の爪をかたどった暗器がのぞく。
ポニーテールをなびかせ、中空を滑るように飛びながら、騎士に蹴り技を見舞い続ける。
犬耳ツインテールの方は、大胆にもスカートのすそを破り捨て、ミニ丈にして戦っていた。
両手には愛らしい『わんわんにくきゅうグローブ』。
小柄な体で跳ねるたび、強烈な連打を繰り出す。
ただし二人の連携は取れておらず、相方を攻撃することも少なくない。
それでも機械仕掛けのように、二人は一人と戦い続ける。
青銀の鎧の騎士は抜き身を手に、宙を泳ぐように飛び回る。
敵味方を問うことなく、手当たりしだいに一太刀を浴びせては泳ぎ去る。
主の呼びかけに応じることもなく、うつろな目をしてとめどなく。
白猫王子は罵声とともに、狼王に斬りかかる。
彼は正気のようだったが、狂っているかのような剣幕だ。
犬耳の王弟ミライは言う。
「ううん、だめだよ。たぶんほかでもこんな調子のはず!
ここは、おれたちで何とかしなくちゃっ!」
「なんとかって、どうすんだっ?!」
「倒れてる人の中に、プリーストがいるよね。
一番近いのは……メイドのナナさん!
まずはそこまでおれを連れてって!」
「よっしゃ、いこうぜっ!
走るぞみんな!!」
カンのよいチナツがスパッと結論を出す。
ハルオミはえ? ええっ? といいつつ従う様子。
「俺が先行する!
スキル発動!『タテガミオオカミの疾走』!!」
クレハが一声叫べば、その体は茜色の光に包まれる。
狙いを定め地を蹴れば、十数メートルの距離を一瞬で駆けぬけ、カピバラメイドのそばに。
これに気づいた翼のメイドが、すかさずクレハに鉾を転じた。
宙を滑り一直線。クレハを蹴り倒そうと迫る。
「ちょっ、ちが、助けるためだって!
ああもう、『タテガミオオカミの睨み落とし』っ!!」
それでもクレハは引かず、きっと翼のメイドを睨む。
ぎん、と金色の光を放った両目を見るや、メイドの勢いが明らかに落ちる。
蹴りは放ってくるものの、その威力もスピードもがた落ちだ。
「はあ、俺タテガミオオカミでよかったー……
ミライ早く、おれがおとりになってる間にナナさんを!」
「はい! 女神様お願いします! パーフェクト・リザレクションッ!」
ふたたびミライが祈れば、奇跡の光が舞い落ちる。
倒れ伏したカピバラメイドをふわりと包み、みごとに息吹を復活させる。
「んう……でん、かー?」
「おねがいナナさん! リンカお姉ちゃんを復活して!
そして、二人でどんどん倒れた人を復活してあげて。
そうすれば、元に戻れるはず!
おれは、ミツルといっしょにそうするから!」
「わかったよー、ここはまかせるんだなっ!」
ここで、神剣ライカが声を上げる。
『はいはいお二人さーん、ここでちょこっと提案!
ここは一度停戦して、ミライちゃんに協力しない?
ふたりの部下ちゃんさー、だーれも死んでない。けれどやべぇ感じで暴れてんの。
魔王の呪いにやられてるんだ。助けてやんなきゃそろそろまずいよ?』
その言葉は王子と王の耳に届く。
依然剣を合わせたまま、それでもふたりは話し合う。
「……いいな、トラオ」
「ああ、一時休戦だ。
アスカを呼び戻せ、それとミズキも協力させろ。
俺たちで手分けして、暴れてる奴らを一旦昏倒させ、神聖魔法で『復活』してもらう。
まずはそこからだ」
「おう。
アスカ、ミズキ! ……おい?」
「あ……」
返事はない。かわりに王子がくずおれた。
みればその腹部に、深々と刺さった短刀。
国王のマントも切れている。
短刀の飛来もとを探れば、冷たい表情のソーヤとアスカ。
あたかも大魔王と化したシオンを守り、立っているかのようにもみえる。
そしてなぜか二人の足元、ミズキが倒れ伏していた。
長っ! すんません……!!
だれないようにがんばります!!
2020.03.04
出先でちらっと見て気づきました。おおお……すみません……orz
『瞬即装填』→『瞬即装填』
大胆に→大きく




