17-6 『ふしふた』ラスバト・ノーカット版!(あの感動のバトルを二週分つなげてみました)(3)
※今回、バトルしてません。
いうなればシオンさんによる『バカヤロー!』です。(古いネタですが^_^;)
「ミライ?!」
「ミーちゃん!!」
「殿下?!」
「チビスケ!」
部外者の干渉を避けるため、固く閉ざしたはずの扉。
開け放たれたところには、小柄な犬耳少年がいた。
それは国王側、王子側、双方がこの場から遠ざけたはずの人物だった。
敵味方、いくつもの声が交差する。
違うのは、呼び方。同じなのは、その少年を案じていることだ。
チョコレート色につつまれた、ボタン耳と巻きしっぽ。大きなエメラルドの瞳。
仕立ての良い服をまとっていながら、どこか素朴なその少年は、『とてとて』という擬音がふさわしい走り方で、しかし懸命に飛び込んでくる。
おつきの三人が伸ばす腕をすり抜け、戦いの場の真っただ中へ。
「ハヤトお兄ちゃん、トラお兄ちゃん!
もうやめて、怪我しちゃうよ!
仲よくしよう、みんな兄弟でしょ?」
「っ………………」
王も王子もぐっとつまる。
二人のいさかいを幾度となく止めてきた優しい言葉、温かな声音に心は揺れる。
それでも、二人は言う。言わないわけにはいかない。
「ミライ。危ないから、部屋に戻っていてくれ。
今日これだけは、やめるわけにはいかない。頼む」
「ミライ、お前には悪いと思ってる。
だが、もう引き返せねえんだ。
お前のことは守る。ちゃんと一生、幸せに暮らせるようにする。
だから、……」
「ありがとう、お兄ちゃんたち。
でもね、ぼ……おれ、もう子供じゃないんだよ。
半月後には成人する。もう、守られてばかりの子犬じゃないんだから!!」
「なれば殿下。わたしがお教えいたしましょう」
進み出たのは国王の道化。
白猫王子はおい! と怒声を上げるものの、銀狼の王は苦い視線を向けるのみ。
それに力を得たか、道化は白いうさぎの耳をぴんと立て、よく通る声を張る。
「まずは! それなる少年、カラスのレン。
権力と爆薬の乱用により、東の辺境の地に左遷。
されどかの地でも暴虐やまず。
領民たちを脅しつけ、哀れなうさぎを差し出させ、己に侍らせようとした!」
王弟ミライはひどく驚く。
澄んだ翠玉の瞳を、こぼれんばかりに見開いた。
「ほ、ほんとなの、レン?!」
気まずく目をそらすレンに代わり、アオバが証言を行った。
「本当です。
でも俺たちの村にはうさぎがおらず……
しかたなく、村で一番きれいなミツルに、うさぎの耳をつけて差し出すことになったのです。
ミズキさんたちがいらして下さらなければ、どうなっていたかわかりません」
レンは反駁しようとするが、そのタイミングで道化は次へ。
「つぎに! あれなる男、きつねのニノ!
南の都に居を定め、あくどい商売、脱税わいろ。
あらゆる手段で荒稼ぎ、貧しいうさぎを買い集め。
恩を売っては館に囲い、使役獣のように利用した!」
「ニノお兄ちゃんが、そんなこと……」
ミライは信じられない様子。
反論するのはうさぎのイズミ。
被害者として、復讐の刃を向けているはずの存在だった。
「ああ。
おれはあくまで――」
「いや。道化殿の言う通り。
俺は奴隷のうさぎを買い集め、ペット兼、労働力として安く使った。
このイズミは一番の被害者だ」
「違う!! おれは自分の意志で、用心棒に!!」
「そう思い込むよう誘導した。
同じ身分の王国の民を、家畜のように利用するため。
間違いなく、それは悪だ」
「っ……!!」
反論の言葉を見つけられず、歯噛みをするイズミをよそに、道化はさらに指弾する。
「そして! これなる男、森猫フユキ!
愛した女性の面影追って、西の聖者をかき口説き。
拒絶されれば人質を取り、彼をわがものにせんとした。
『うさぎが猫に逆らうな』など、暴言を吐いて追い詰めた!」
「うそでしょ、フユキお兄さん!
優しいあなたが、そんなこと……」
ミライは否定してくれとフユキを見る。
しかし、フユキは首を振る。
「俺はイツカに呪いをかけ、俺に従う黒騎士にした。
元に戻してほしければと、カナタの身柄を拘束した。
カナタは彼女の生まれ変わりだ。手に入れるためならどんな手も使う」
ミライの瞳に涙がうかぶ。
けれど道化は止まらない。
流れるように、歌うように告発を続ける。
「『悪しきくろうさ大魔王』は、異界の地へと封印された。
うさぎ族みずからの手によって。
うさぎ差別は王の名のもと、かたくかたく、禁じられ。
しかしながら実際は、各地でうさぎは虐げられた。
この三悪人がそうしたように。
彼らだけが悪いのじゃない。
それを利用した悪がある。
かれらの悪を認めることで、その協力を取り付けて、不法を企む悪がいる!」
そしてまっすぐ指弾したのは。
「レンの暴政を許す代わりに、彼の作った爆弾を、自分のために使えと言った。
ニノの不正を許す代わりに、彼の稼いだ金を、自分のために使えと言った。
フユキの妄執を許す代わりに、彼の手にした黒騎士を、自分のために使えと言った。
それは誰だ! それは誰だ!
そう、それはこの男、王子トラオにほかならぬ!」
純白の毛並み、晴れやかな金髪、深い紺碧の瞳を持つ、美しい白猫の王子だった。
「先王の子にして現王のいとこ。
王位を簒奪せんがため。
うさぎたちの不幸を糧に、技術を、金を、兵力を。
我がもとに集め、ここに来た!
間者を用いて王を斬らせた。
その罪を邪魔な聖者になすりつけ、ともに消そうと目論んだ。
――それが国王、王弟の兄、ハヤトが剣を取る理由なり!」
道化の服を着た怒れるうさぎは、そうしてひたと口をつぐんだ。
「……そ……おに……ちゃ……」
静まり返った裁きの間に、震える声が一つ。
必死に問いかけられた王子はしかし、否定しない。否定できない。
「……ひど……すぎる……」
透き通ったしずくがぱたり、ぱたり。
ミライはかくりと膝をつく。
肩を震わせ、顔を覆った。
トラオはしかし、声をはげまし開き直る。
「し、……仕方ないだろう?!
そうでもしなけりゃ、俺は王になれやしないっ!
いつまでたっても日陰の王子。笑われて、軽んじられるままなんだ!!
だいたい、うさぎ『差別』はおかしくなんかない。
国を栄えさせるなら、うさぎどもによる安い労働力は不可欠だ。
いいだろうが、奴らは罪の民なんだ。
せっかくまとまったこの王国に、騒乱をもたらそうとした悪の魔王の末裔なんだ!!」
「お前!!」
国王ハヤトの頭上で、背後で、銀の毛並みがぶわと膨れる。
王子トラオはひるまない。
白の尻尾をぶんと振り、止まることなく言い募る。
「たとえそれが陰謀だったとしても! その悪名をぬぐえなかったのはやつらの弱さ。やつらの無能さゆえなんだ!
弱いものは利用される! 当たり前だろうが!
俺たちはみな弱者を食い物にして生きているんだ。
しゃべる家畜もしゃべらない家畜も、食えるか以外の違いなんざねえッ!!」
「……それが貴様の考えか」
ひどくかすれた声が問いかける。
部屋中の誰の声でもない。あえていえばシオンに近い。
しかしシオンのつねに懸命で、舌足らずなかわいさはそこにはない。
口を動かしているのは、ほかならぬシオンであるにもかかわらずだ。
「それが、それが、それが貴様らの考えか。
それがため我に反逆の罪を着せ。
それがため我を異界に封じ。
それがため同胞に屈従の道を敷きたるか。
呪われろ、呪われろ、呪われろ真に邪悪な――よ!!」
愛らしかった声はひずみ、ゆがみ、高ぶるがままにノイズと変わる。
「滅ぼしてやる!! 貴様らを!!
我が犠牲の上に築かれた偽りの王国を!!
狂え! 暴れろ!! 喰――いあって――ねッ!!」
かっと開かれた両の目には、名状しがたい色のナニカが渦巻いていた。
渦巻き、波立ったそれは、どっとシオンからあふれ出す。
緑のローブにつつまれた小柄な体をが高々と宙に浮かびあがれば、轟音とともに闇が落ちた。
やがて暗さが薄らげば、そこには惨状が広がっていた。
裁きの間であった場所は、原形をとどめぬ廃墟と変わり、はるかな空すらどす黒く渦を巻く。
雲のあわいを紫電が走り、吹きすさぶ風は斬りつけるよう。
そして、裁きの間にいたものたちは、そのほとんどが倒れ伏していた。
かろうじて膝をつき、こらえたものは――ひとりの狼、五人のうさぎ。
国王ハヤト。ハヤトにかばわれた道化アスカ。
カナタとミズキの聖者兄弟。
そして、ソーヤとイズミ、二人の戦士だけだった。
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次回やっとこバトロワ。そして誰かが裏切ります。お楽しみに!




