17-5 『ふしふた』ラスバト・ノーカット版!(あの感動のバトルを二週分つなげてみました)(2)
Match_C:FUYUKI/KANATA
吐き捨てたのは、グレーの貴公子。
こちらも『爆殺卿』同様のモノトーンだ。
たっぷりとした毛量を誇る猫耳としっぽは、黒に近いグレー。
長めの短髪、スラリと伸びた体躯を包む細身のスーツもドレスシャツも同色だ。
唯一異彩を放つのは、切れ長の目に宿る、濃いはちみつ色。
しかしそこには、一ミリの甘さも見られない。
張りのある、落ち着いた美声にも。
あるのはただ、若さにそぐわぬ、凍てつくばかりの威厳のみ。
「黒騎士。『彼女』を取り戻せ。
他はどうしても構わん。邪魔をするなら、斬り捨てろ」
「……。」
応え、するりと歩を進めるのは、闇を凝らした全身鎧。
盾は持たずに、腰に剣。
頭と腰に設けられた穴からは、つややかな黒の猫耳としっぽ。
愛嬌があると言えないこともない姿だが、こちらの身ごなしにもまた温度がない。
面覆からわずかにのぞく紅玉色も、今は不吉なものにしか見えない。
「イツカ、……」
そんな『黒騎士』を差し向けられた人物は、わずかに後ずさる。
こめかみ上からひざ下までふさふさと垂れる、大きな水色のうさ耳。紫の双眸を抱く、繊細な顔立ち。
細い身体に薄水色の法衣をまとった姿は、少女のようにも見える。
しかし『彼』は踏みとどまり、貴公子に叫ぶ。
「僕はあなたの愛する女性ではありません、フユキ殿!
お願いです、イツカを解放して、話を……!」
「話なら、城で聞こう。やれ」
フユキと呼ばれた貴公子が冷徹に命じれば、黒騎士はためらうことなく法衣の少年を捕らえようとする。
そこに、割って入ったものがいた。
白の礼服、腰に剣。あごの線までふわりと垂れた、クリーム色のうさぎの耳。
髪の色も瞳の色もまるで違い、そっくりとは言えない。
それでも優しく、綺麗な顔立ちをしていることは同じだった。
「兄上、守りは僕にお任せを。
フユキ殿。陛下を傷つけ、兄を苦しめたあなたの行い、見過ごすことはできません。
どうぞ、投降を。悔い改めるものに、神はその手を伸べるはずです!」
薄色の髪、はなだ色の瞳。その彩りすらはかなげながら、弟うさぎのつよさは確か。
巧みに黒騎士を制するさまに、フユキはかすかにいら立ちをあらわす。
「貴様、どこまで邪魔をする。
黒騎士、斬れ。手加減はいらん!」
黒騎士は鋭くバックステップ、腰の剣をスラリと抜いた。
対し、弟うさぎも剣を抜く。
「……。」
「聖騎士ミズキ。参ります!」
互いに剣先を合わせた、一秒後。激しい剣撃の音が響きはじめた。
「ミズキ! 無理はしないで!
フユキ殿、わかりました。お話ししましょう――ただし、まずは取調室で。
こうなったいきさつ。すべて、話してもらいますよ。
この僕の、聖者カナタの名にかけて!」
カナタは法衣をさっと脱ぎ捨て、白い、狩衣に似た装束をあらわにする。
左右の太もものホルスターから広口の銃器を抜くや、こぶし大の擲弾を撃ち放つ!
対するフユキも、抜く手も見せずに一発発砲。
擲弾は射貫かれて虚空に四散。ただ白煙が後に残った。
Match_B:TORAO/HAYATO
「くっそ……なんってまとまりのねえやつらだ!
ハヤト! こんなことになったのもてめえのせいだ。責任取ってもらうぞ!!」
一緒になだれ込んだはずなのに、あっちではグルグル空中戦。こっちでは二組が斬りあい、そっちでは強化合戦。
さらにはそれらを全スルーして、ひたすらにらみ合ってる一組もいる。
反乱の首魁たる白猫王子はやけくそになったか、強弁で戦端を開こうと試みる。
対する国王ハヤトは、正面から怒鳴りあうことはしない。
王子の左右の姫君たちに黒い瞳をまっすぐと向け、ただ静かに問いかけた。
「お前たちは、それでいいのか?」
「あたしは、トラについてくだけよ」
「わたしも。一応お姉さんでもあるからね。面倒見てあげなくちゃ」
青いドレスに燕翼の姫、朱色のドレスの三毛猫姫は、あくまで王子に沿う様子。
すでにふたりとも杖を手にし、引く様子はない。
姫たちに従う、クラシカルな白黒のメイドたちもまた同じ。
「うさぎ差別に暗殺未遂。許されることじゃないんだぞ!」
王に従い、声を上げる青銀の鎧の騎士に対し、ポニーテールのメイドはきっぱりと言い放つ。
「わかってる。
でも主がそれを望むなら、メイドはそれをかなえるだけよ」
「そうよ! お姉さま方は、あたしたちが守るんだから!」
クリームのチワワ耳にツインテ―ルのメイドも、小さな体で立ちはだかる。
その動きは『お姉さま』――姫たちというより、自分の後ろでふるふる震える、眼鏡の同僚を隠すように見えなくもない。
「つまりは君たち、騎士とおなじなんだな。……やるしかないんだな」
カピバラの耳しっぽをもつ、すこしふくよかめのメイドも、ゆっくりと、しかし決然とした口調で言う。
「…………。」
やるせない表情の同僚の肩に、月色の鎧の騎士がそっと手を置く。
「なーに、俺たちだってついてんだ。勝って、道を見つけてやろうぜ!」
「ソーヤさん……!」
そんな二人の騎士の肩を、ばんっと力強く叩く者がいた。
黒の装備に灰ウサミミの戦士。
その横で、緑のローブに黒うさみみの少年も、小さく震えながら協力を誓う。
「お、おれだってがんばるよ! おれの魔法でみんなをきっと、まもってみせる!」
「ありがとう、シオンさんも……」
「はいはい、それじゃ最終確認のお時間だぜ。
お前ら、俺に投降する気はねえんだな?
そこのしゃべる剣も含めて!」
六人の少女を従えた白猫王子。晴れやかな金髪碧眼とは正反対の、どす黒い笑顔で問いかける。
もちろん応じるものはない。
『しゃべる剣、とかいう誉め言葉はちょーっとアウツかなーあ?
……おれが男の口説き方を教えてやるよ、わたげのようなおちびちゃん』
国王の手にある神剣『ライカ』も、いつになくドスを効かせて断固拒否。
王のうしろに控えるうさみみ道化はパァン! と大きく手を打った。
同時に照明が落ちる。ただひとり彼だけが、スポットライトに浮かび上がる。
道化は大きく手を広げ、全周に向け声を張る。
「さーさ、皆様お立合い!
今こそ戦士はそろいたり。
けものの王国の命運をかけた、一大決戦が幕を開けるのです!
前王の子たる白猫王子が、王位簒奪をもくろみ起こした事件!
反乱者の末裔として、ひそかに差別を受ける一族の解放を夢見た、戦士たちの世直し!
それらが交錯した先にあるのは――?
ハンカチの用意はよろしいですか? 気付けの香水はお手元にありますか?
それでは、東西紳士淑女の諸君! いざ刮目して、ご照覧あれ――!!」
声が消える。照明が戻る。
同時に再び動きだす。
王が、王子が、物語が。
「アスカ、手を!
『セイクリッド・フルブレッシング・オール』!」
「サリイ、リンカ、いくぞ!
『シャスタの加護』っ!!」
道化と手を携えた王は、すべての仲間に聖なる加護を。
姫たちを従えた王子は、自分と姫とメイドに水の力を。
それぞれまとわせ、先陣を切った。
Match_D:NINO/IZUMI
そのとき、ようやく彼らは動いた。
ここまでずっとただ二人、にらみ合いを続けていた者たち。
かたや、剣と銃と、オレンジの狐耳、赤の装束。
かたやナイフと、黒の兎耳、水色の装束。
そしていずれも、金と青のオッドアイを有している。
浅からぬ因縁のあることが明らかな二人が、ようやく口を開いた。
「イズミ。
お前ごときの腕でこの戦いを生き残れはしない。
今すぐしっぽをまいて逃げろ。そして、二度と俺の前に姿を見せるな」
赤の青年はそう言い放つ。
しかし、両の瞳には苦渋の色。
「そうはいかない。
おれは勝つ。そしてお前を従える。
投降しろ。さもなければ、二度と戦えないようにして連れ帰る!」
少年とも、青年とも言い難い水色の戦士は、迷うことなく言い切った。
目の高さ、横向きにナイフを構える。
切っ先はひたと、相手に向けて。
「……怖いな。
せめて『二度と逆らえない』程度にしてもらえると助かるんだが」
「…… 善処する」
対して狐の青年も、細身の剣を抜き放つ。
二人は同時に地を蹴った。
と、そこに響いた声一つ。
「み、みんな! 何やってるのっ――?!」
裁きの間すべてが振り返った。
いつもありがとうございます♪
FF7の通常バトル曲が脳内無限ループしています。そこは9じゃねーのかとツッコミたい。
次回、ようやく第一週分が終わり第二週分に入る……はず! お楽しみに!




